第304話 刹那の輝き

「イージス、やはり最後に立ち塞がるのはお前になったか」


 ゼウシアは笑みを浮かべ、イージスを見ている。

 それに対し、怒りを込めた視線をイージスはゼウシアへ送っている。


「我が父ゼウシア、母マリアンヌより全てを聞きました。まさか〈魔法師〉のリーダーであるゼウシアが、俺の父であったなんて」


「そうか。マリアンヌの奴がついにお前へ言ったか。まあ良い。どうせ全てが終わるのだから」


「終わらせない。終わらせてなるものか」


 イージスは全身に純白を纏っている。


「それは誰の『鍵』だ」


「父上、俺は多くの人々と生きていく中で、気付いた。人々が望んでいるのは魔法のある世界なのだと。魔法が人を癒してくれた。魔法が人を救ってくれた。確かに傷つけることもあるけれど、魔法はこの世界に生きる人々にとって大切なものなんだ。それを父上はなぜ奪おうとする」


「罪だから」


「罪?」


「ああ。魔法にすがり続けなければ生きられない。そんなお前たち人間が醜くて仕方がない。魔法がなければ生きられないのか?魔法がなければ苦しいのか。魔法がなければ自己存在の証明をできないのか?

 この世界は狂っている。狂っているが故に、誰かが一度正さねばならない」


「ふざけるな。そんなたった一人の傲慢で、この世界に生きる者たちから魔法を奪うというのか」


「全てをやり直せば世界は真の形に戻れる。それこそがこの世界が望む存在理由だ」


「やり直して戻して、それで世界から魔法をなかったことにして……たとえこの世界が望んでいたとしても、その世界に生きる者たちはどうすれば良い」


「イージス、傲慢なのはお前の方だ。お前は魔法がなければ弱者だった。アーサー家に産まれていなければ弱者のままだった。他の一族に産まれていれば、お前は今のように傲慢になれたか?なれなかったはずだ。

 魔法がなければ世界は平和になる。世界から大罪は消える。そしてその世界の平穏を保つため、俺は不死身の支配者となろう。そうだろ、エル=グランヒルデ」


 そこ名を呼ばれ、そこには老人が現れた。その老人は、イージスが枯雪島で会ったことがある老人であった。

 その老人は若い姿へと変貌し、ゼウシアの真横に立った。


「これでお前は死ねる」


「やっとか……」


 エルはそう呟いた。

 ゼウシアはエルへ手を向けると、突如、ゼウシアとエルを中心に純白の光が風のように吹き荒れた。


「ラグナロクの最終段階だ。生け贄となる『鍵』は揃い、その上俺は不老不死となって世界の支配者になる準備もできた」


「今!?まさか……」


 イージスとともに来ていたアニー、スフィア、シャリオ、ルクスリアは、暴食の罪人ーーナノナノ=グーラによって取り押さえられていた。


「この子たちは皆私特性の麻痺汁で痺れさせちゃったよ。だからもらっていくね。この子たち全員」


 ナノナノはアニーたちを掴まえたまま遺跡の地下へと消えていった。


「これでラグナロクへの儀式が完全なものとなる」


「父上ぇぇぇえええええ」


 イージスは剣をゼウシアへと振るうも、既に『鍵』の力は消失し、ゼウシアの剣の一振りで吹き飛ばされた。


「無駄無駄。結局君は弱者であるだけ。借りものの力に頼っているだけの弱者だ」


「そんなことは……」


「あるさ。君は弱者だから俺にかなわない。弱者だから何も護れない。なあ弱者、お前がこの場にいて何ができる」


 ゼウシアは重く低いトーンでイージスへ突き放った。その言葉をイージスはただ無言で聞いていた。


「まあ良いや」


「ゼウシア様、『鍵』は全員所定の位置に移動させたナノ」


「これで完全なるラグナロクを発動できる。『鍵』よ、開け。そして世界から魔法を奪い取れ」


 光は見えた、かに見えた。

 だが一瞬にして再び空は暗雲に包まれた。


「さあ、ラグナロクにより、今ある世界を終わりにしようか」






 ラグナロク発動まで、残り十分。

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