第303話 最後の希望がそこに降る
最上階で、クレナイとゼウシアは戦っていた。
火炎と雷電の激しい衝突、圧巻である。その衝突は島の外からでも分かるほどに迫力があり、凄まじいものであった。
ーーしかし、ゼウシアの力によってクレナイは傷を負い、横たわって力尽きていた。
「ねえ、ノーレンスは今どこにいると思う?」
「魔法牢獄の中だろ……。どうせ魔法牢獄を支配した、それだけのことだ」
「違う違う。そういうわけじゃない。魔法牢獄は完全に消失した。魔法牢獄を破壊した。だから魔法牢獄内にいた罪人たちがこの島に解放された」
「じゃあノーレンスは……」
そう言っている途中で、クレナイはゼウシアの体から感じ慣れたある人物の魔力を感じていた。その瞬間、クレナイは最悪の考えを抱いた。
「まさかお前……」
「ノーレンスはね、俺の中にいるよ。俺の魔力となってさ。だから君が俺に勝つことは絶対にない、ということだよ」
クレナイは絶望し、刀から手を離した。
横たわる彼女を見下ろし、ゼウシアは言う。
「ラグナロク発動まで残り三十分、ようやく俺の望む世界が完成する」
「お前はラグナロクで何をしようとしている……」
「大体察しはついているだろ。まあ確信はないだろうけど。だから君に教えてあげるよ。俺はね、このラグナロクで弱者を魔法が使えないようにしたいのさ。世界は俺が認めた者しか魔法が使えなくする。そうすれば世界は俺の思うがままに支配できる」
「くそみたいな考えだな」
「だが俺にはその力がある。何百年も、いや、何千年も前から実行し続けていた計画がようやく始まる時が来たのだ。何千年も前の英雄ーーーフレア=サンとダリア=ナイトメアの方が強かったよ。君たちは弱かった。だから俺の計画は止められない」
ゼウシアは確信していた。
ラグナロクの発動を。それを誰も止めることができないということを。
「さあ、全てに決着をつけよう。文字通り、この世界の全てに決着を」
ラグナロク発動まであと三十分、遺跡の入り口で戦っていた名士四十一魔法師や金色魔法使いは既に敗走寸前であった。
トールと戦闘をしているサーは既に魔力が尽き欠け、その上天使の纏っている鎧や剣が粉々になり、戦える状況ではなかった。
ヘラヘラと戦っているヘラクレスとギルヒメシュは、ヘラヘラの振るう巨大な鎌、そして彼女の周囲を飛び交う漆黒の怨霊たちにより、既にボロボロであった。
エイリアンと戦っているモードレッドは、エイリアンの使う多種多様な魔法に翻弄され、傷だらけで倒れていた。
「まあ奴らも負けるはずはないか。だって奴らもノーレンスの魔力で強化されているからな。魔法聖並みの力を有している内の魔法使いたちによく耐えたよ。まあ、もう終わりだけどな」
倒れている魔法使いらを見下し、ゼウシアは発動寸前のラグナロクに笑みを浮かべていた。
世界が暗雲に包まれ、希望が失われつつある中、ゼウシアの頭上には目映いまでの光が輝き始めた。
「あれは……」
「〈
暗雲を斬り裂くように振るわれた純白の一撃が、天を斬り裂いてそこに彼を召還した。
イージス=アーサー、彼は純白を纏う剣を握り、ゼウシアの前へと現れた。
「来たか。イージス」
「なぜこんなところまで……ノーレンスの託した最後の希望が……」
意識が薄れゆくありつつあるクレナイは、横たわりながらもそこに現れたイージスへ視線を向けていた。
彼は堂々としたたたずまいでゼウシアを前に立っていた。
「ゼウシア、ゼウシア=アーサー。我が父よ。今ここで貴様の野望ごと斬り裂いてやる。世界の未来を守るためにも」
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