第299話 魔法聖クレナイと二人の五神
魔法ギルドと名士四十一魔法師の連合が枯雪島へ突撃する二時間前、聖域にある千年魔法教会に現在動ける名士四十一魔法師が集まっていた。そこへ遅れて、魔法ギルドの者たちが集まった。
彼らの前にたち、千年魔法教会教皇のサクリーファは、先端に十字架が取り付けられた身長ほどはある長い杖を持ち、言う。
「数日ほど前から〈魔法師〉により幾つかの島が襲撃に遭った。しかし、それも終わりつつある。そこでだ、このまま我々もやられたままで終わるわけにはいかない」
「ああ。だがしかし、ここに集まっている名士四十一魔法師は十名にも満たない。ほとんどがここ数日の戦いで負傷し、戦えない状態にある」
ヘラクレスは集まりの悪さを見て、苦言を呈した。
そこへ続くように、魔法ギルドの金色魔法使いのサーも口を開いた。
「その通りだ。我々魔法ギルドも先の戦闘で多くの者が負傷し、戦えなくなっている。やっとの思いで集められたのは三十名ほどだ」
そこに集まっている魔法使いは少なかった。
「だがこれ以上奴らに好き勝手にさせておくわけにはいかない。今ここでゼウシアを討つ。そのためにも、魔法聖のクレナイに協力してもらうこととなった」
「魔法聖……ですがそれでも戦力はまだ……」
「確かにそうかもしれない。まだ数は少なく、ゼウシアを倒すには満たないだろう。だがここでゼウシアが仕掛けてきたということは、じきにラグナロクが、世界の終焉が始まるかもしれない。そうなれば誰もゼウシアを止めることはできなくなる。それは避けたい」
サクリーファは杖の強く地面へ打ち付け、再度言う。
「ここで我々がゼウシアを倒す。今こそ戦う時だ。今こそ世界を救う時だ。今こそ、長きに渡る因縁に決着を着けるぞ」
サクリーファは杖を振り上げ、高らかに宣言する。
「さあ戦うぞ魔法使いよ。今度は我々から仕掛ける番だ。我らの力を思い知らせてやれ」
そして現在、魔法ギルドと名士四十一魔法師の連合が魔法聖であるクレナイを先陣にゼウシアを討つために動いていた。
既にラグナロクへの儀式は始まっていた。ゼウシアが世界への生け贄にしようとしている八つの『鍵』は既に揃っている。
「開け『鍵』よ。今こそ世界を終焉へ誘おう」
世界中の空が漆黒の雲に包まれた。
それはラグナロクの発動まで時間がないことを暗示していた。
「まずい。急がなければ」
焦るクレナイであったが、未だに立ち塞がるスーウェンとスーザンを倒せずにいた。
「さすがに五神二人はキツいんじゃないの。たとえ魔法聖でもさ」
「そうそう。歴代魔法聖が全員いればともかく、君一人で倒せると思っているのなら舐めすぎさね」
「そうね。五神の強さ、知らないね?」
スーウェンとスーザンは勢い良くクレナイへ襲いかかる。クレナイは火炎を纏う刀で対抗するも、あと一歩のところでとどめを刺しきれない。
苦戦する状況下で、クレナイは苛立っていた。
刀を握る手には汗が滲み出ており、スーウェンとスーザンの猛攻に攻撃をいれる隙も少なかった。
「確かお前、あのノーレンスの嫁さんらしいさね。夫を取り戻しに来たのさね。だがあのノーレンスもお前も、弱いさね」
スーウェンは攻撃を入れながらクレナイへと嘲笑うように言った。それを聞いたクレナイは怒りに染まり、目が火炎を纏った。それに加え、クレナイの全身が火炎に覆われたのだ。
「おいおい。あまり私の夫をバカにするなよ。奴は本来は世界最強なんだよ。それをお前ごときがバカにするんじゃねー」
クレナイの灼熱に焼かれ、スーウェンの手は黒こげに焼け焦げていた。そこへ追い討ちをかけるように、クレナイは刀を振るい、スーウェンの両腕を斬り飛ばした。
「ちっ。スーザン」
スーザンはクレナイへ蹴りかかるも、クレナイが視線を向けただけで熱風がスーザンへと吹き荒れ、スーザンは吹き飛んだ。
動揺して体勢を崩したスーウェンへ、クレナイは背中から熱風を出してスーウェンの心臓へ刀を突き刺した。
「燃えろ、業火の如く」
スーウェンの心臓に突き刺さる刀からは爆炎が吹き荒れ、その爆炎に飲まれてスーウェンは跡形もなく消えていった。
次にスーザンへ視線を向けたが、スーザンは脅え、逃げていく。
「まあ良い。今はゼウシアが最優先だ」
クレナイはゼウシアのいる最北端を目指す。
逃げたスーザンはというと、その後を追って一人の魔法使いが彼女の背後に立っていた。
「やあスーザン」
「お前はーー」
「ーーさようなら。スーザン」
スーザンの首を、その魔法使いは大鎌で斬り落とした。突然のことに、スーザンは微動だにできなかった。
「なぜ……」
「わらわが見たいのはラグナロクによって滅んだ世界ではないわ。わらわが望むのは人とモンスターが平等に生きる世界じゃ。それを叶えるために、ラグナロクを、ゼウシアを利用する。わらわの野望のために」
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