第296話 次の標的

 ティアマティアは追い詰められていた。

 イージスというたった一人の少年に、敗北しようとしていたのだ。


「なぜ……なぜわらわの怪物が……」


「ティアマティア、俺は今まで何度も失ってきた。その度に俺は強くなってきたんだよ。だからお前は俺には勝てない。覚悟しろ、世界を狂わせた大罪人よ」


 イージスは空を走り、ティアマティアへと直進する。ティアマティアは数多のモンスターを体から解き放つも、それらを全てイージスは一掃した。


「無駄だ」


「わらわが、わらわがここで討たれる?有り得ぬ、有り得はしてはいけないのだ」


 ティアマティアは脅えていた。


「イージス、本気でわらわを殺すつもりか」


「失ってきた多くのものを代償にし、俺はここでお前を倒す義務がある。だから、さらばだ」


 イージスはティアマティアの心臓目掛け、握る剣を突き刺した。ティアマティアは血を吐くが、それでもイージスの頭を掴もうとする。

 しかし剣が抜かれるとともに、ティアマティアは浮遊している魔力を保てなくなり、ヴァルハラ学園の下に広がる巨大な湖へと落ちていった。


「さようなら。ティアマティア」


 ティアマティアは倒された。

 イージスが纏っていた純白の光は消え、それとともにアニーが纏っていた純白の光も消えた。

 一度開いた『鍵』は、今再び閉じられたのだ。


 ティアマティアが倒されたことで、モンスターたちは統率されなくなっていた。


「イージス、疲れただろう。後は私に任せておけ」


 アズールは釣竿を無数のモンスターの群れへと向けた。モンスターたちは動きを止め、皆湖の中へと落ちていく。


「その湖は魔力が眠っている。しかし生半可な力しか持たぬ者は、その魔力に飲まれて消えるだろう。眠っていてもらおうか、モンスター諸君」


 学園の前方にいたモンスターたちは皆湖の糧となり、消失した。

 後方では、統率されていないモンスターたちを教師たちが次々と討伐していった。

 戦いは今、決着がついた。

 ティアマティアの襲撃を、ヴァルハラ学園はしのいだのだ。


 しかし寮では、アノが自らの命を犠牲にしたことへ悲しんでいた。


「アノ……」


 アンノウンは倒され、それとともにアノも消えていった。

 戦いは終わったのだ。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「ゼウシア様、ティアマティアが敗れたよ。それもイージスちゃんに」


 ヘラヘラは巨大な鎌を肩に担ぎながら、玉座に座るゼウシアへそう言った。


「イージスにか。奴もなかなかに強くなったではないか。だがまだまだだ。ひとまず、今は最も邪魔な連中を消しておかなくてはならないな」


「最も邪魔な連中とは?」


「"アーサー家"」


「良いのですか?」


「イージスだけは殺すなよ。ただ、殺せるのならば殺しても構わん。ここで死ぬような奴など、利用する価値もない」


「了解。では後はアポレオンにでも任せましょうか」


「好きにしろ」


「では好きにさせていただきます」

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