第295話 アノ≒アンノウン

 ティアマティアのモンスターを一度は操ったイージスであったが、それを上回る力で無理矢理ねじ伏せられ、イージスはモンスターを操れない。

 イージスは剣を握り、襲いかかってくるモンスターを次々と斬り伏せる。


「わらわの独壇場に入ろうとした瞬間に怒りは最高潮に達しているわ。あまりわらわを舐めるでない。特別に貴様には私のとっておきの怪物を用意してあげよう」


 ティアマティアの背後には巨大な門が二つ出現する。それぞれの扉が開き、そこから二匹の怪物が現れた。

 一匹は巨大な獅子のような怪物、その巨大さは人一人を軽々と飲み込めるだろう。もう一匹は翼の生えた筋肉質の雄牛。額に生えた角は鋭く分厚い。


「巨大な獅子ウガルルム、有翼の牡牛クサリムよ。あの無礼者を噛み殺してしまえ」


「イージス、ここはーー」


「ーー大丈夫ですよ、先生方」


 イージスは純白の光を纏う剣を握り、自分を護ろうとしたカーマとアズールの前に立った。


「俺はもう弱くはないですから。借り物の力でも、大切なものを護れるくらいは強くなったのですから」


 イージスへ二匹の怪物は一斉に襲いかかる。それに動じることはなく、イージスは剣を二匹の怪物へ向けた。


「〈纏水テトラアトラ〉」


 二匹の怪物には水が纏われた。


「〈氷華レイジ〉」


 二匹の怪物の体には、花が咲くように氷が侵食する。

 二匹の怪物に纏われた水がその氷に侵食され、一瞬にして怪物の体は氷の中に閉ざされた。


「〈光剣アヌンナキ〉」


 光の剣が氷漬けにされて動きが鈍った怪物へ突き刺さる。怪物の悲鳴が響き渡る。


「〈土結ドトード〉」


 二匹の怪物の足は土と一体化し、動きが取れなくなった。そこへイージスは電撃を纏う純白の剣を握り、駆ける。


「〈電切エレキジオ〉」


 二匹の怪物の体は粉々に、そして木っ端微塵に消失した。

 イージスによって最高傑作の怪物十一体の内の二匹が瞬殺され、ティアマティアはイージスへ恐怖を抱いていた。


「有り得ない……有り得ない…………」


「ティアマティア。ここでお前を倒す。逃がしはしないぞ。だから、俺に戦いを挑んだことを後悔しろ」



 その頃、ヴァルハラ学園のいたるところでモンスターが襲撃していた。

 学園の裏側から襲撃してきたモンスターを、九頭竜の一人ーーエスト=クロニクルは竜に乗り、空を駆けながら戦闘を繰り広げていた。


「このモンスター、統率されてやがる……。そいつを倒さないことにはこの状況は打開できないぞ」


 他の場所でも戦闘は行われていた。

 ハーブ=ノコリガやカミソリ=クールガイ、サウス=キャットハニーやスナイプ=ハンターらが必死の猛攻で何とか学園を死守していた。


 寮でも、生徒たちはモンスターと交戦状態にあった。


「ブック、モンスターはまだ来るの?」


「まだ、まだ千体以上はここ寮に攻めてくる。何とか持ちこたえてくれ」


 ブックやスカレア、クイーンやイスターらは寮を必死に護り抜いていた。だがさすがに数が多く、限界は近づきつつあった。

 その時、スタンプはモンスターによって横腹を水の弾丸に貫かれ、膝をついた。そこを複数のモンスターに囲まれ、絶体絶命の状態に陥っていた。

 そこへ、アンノウンの欠片ーーアノという少年がスタンプの前に立つ。


「アノ、危ない」


「大丈夫。僕は、ようやく思い出したよ」


 そう呟くアノへモンスター拳が振るわれる。だがそのモンスターの動きはなぜか止まった。まるで時間でも止められたかのように。


「僕はアンノウン=クロノスタシスの欠片なんだ。多くの大罪を犯したんだ。僕はーー」


「ーーああ。お前は俺なんだよ。だから俺のもとに戻ってこい」


 そう言って姿を現したのは、死んだはずのアンノウン=クロノスタシスであった。


「お前がいれば俺は魔法聖に負けることもなかった。さあ、早く戻ってこい」


「嫌だ」


「……はぁぁあ!?」


 アンノウンは怒りに飲まれた。


「お前、誰のおかげで生き残れたと思っていやがる。お前は俺なんだよ。とっとと俺のもとに戻ってきやがれ」


「僕はこの人たちと一緒にいて学んだんだよ。アンノウン、君がしていることは間違っている」


「力ずくで取り込んでやるよ。俺の中に」


「無駄だよ。だって君と僕は全く同じ存在であるから」


 アンノウンの動きは止まった。


「ねえ。僕は仲間に出会って、ブックさんやスカレアさん、クイーンさんやアタナシアさん、イスターさんにイージスさん、アニーさん、数えきれないほどの仲間に出会って思ったよ。今が一番幸せだって」


「何を……」


「僕でさえそう思えた。だからきっと君も、本当は僕と同じ道を歩めたんだよ。人生っていうのはさ、出会う人によって変わってしまう。だから本当に、悲しいよね。

 アンノウン、もう一人の僕よ。これからは僕が君と一緒にいるから。だから悲しまないで。一人で苦しまないで。僕が君とともに終わるからさ」


「アノぉぉぉぉぉおおお」


 ブックたちはアノの名を叫んだ。

 最後、アノはブックらに笑みを向けた。そして「ありがとう」と、そう言った。


 そしてアノは、アンノウンのもとへと飛び込んだ。


(僕という欠片には絶対的な力がひとつある。それはあらゆるものの時間を進めたり、戻したりすることができるということ)


「うぉぉっぉぉおおおおおおおおおおおお」


 時間は巻き戻った。

 それが存在しない遥か昔の時間へと、その時に走馬灯が過った。楽しい思い出も、悲しい思い出も、笑えるような思い出も、嬉しいような思い出も、全部が全部、大切なものであった。


「皆、ありがとう。そして、さようなら」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る