第294話 ティアマティア、襲撃

〈魔法師〉陣営と千年魔法教会陣営の戦いには、次々と決着が着きつつあった。

 紅碧島は護られ、魔法鎖国島も護られた。それらを筆頭に、数多くの島で千年魔法教会陣営は勝利を治めていた。


「サクリーファ様。何とか窮地は回避したと思われます」


「まあ、このまま〈魔法師〉やつらが何もしなければの話だが」


「サクリーファ様、緊急報告です。〈魔法師〉の一角、ティアマティアが名門ヴァルハラ学園に襲撃を仕掛けました」


「そう来るか……。援軍を送ろうにも、皆疲弊しきっていてそれほどの戦力は送れない」


 サクリーファは頭を悩ませる。

 そこへ一人の男が姿を現す。


「初めまして。名門ヴァルハラ学園より派遣されて来ましたアーカイブ=システイムです」


「なぜヴァルハラから……」


「現在ヴァルハラ学園は襲撃を受けている。しかし援軍を送る必要性は皆無です。ティアマティアはここで捕らえますので、どうかご心配なく。クレナイ聖からの伝言です」


「分かった。それで良いんだな」


「ええ。むしろその方が良いでしょう。我々ヴァルハラ学園は、そう簡単には落とせませんから」



 名門ヴァルハラ学園へ襲撃を仕掛けたティアマティア。彼女は一万を越えるモンスターの軍勢を率いていた。

 圧倒的な戦力に、ヴァルハラ学園で授業を受けていた生徒たちは困惑を隠せない。しかし彼らの不安を取り除くように、ヴァルハラ学園の教師たちは武器を取る。

 そしてイージスも剣を抜き、アニー、スフィア、シャリオ、ルクスリアとともにモンスターの前に立ち塞がる。


「イージス、君たちにも戦わせてしまってすまないな」


 カーマはイージスの近くに立ち、そう謝罪した。


「良いんですよ。悪いのは先生ではないですから」


「ここにいたのか」


 そこへアズール=コースターが釣り竿を持ってイージスの前に降り立った。


「先生、どうされたのですか?」


「イージス、都立ホーヘン学園との演習の後に教えた魔法、今はもう使えるようになったか?」


「あの魔法ですか。一応、こういう時が来ると思ってあの魔法だけはちゃんと鍛えておきました。そして今、その魔法を使える絶好のフィールドがすぐそこにある」


「暴れろ、イージス。お前が護りたいものを護るために」


 イージスはアニーへと手をかざす。するとイージスとアニーの体は純白の光を纏い、輝き出した。

 ーー鍵は開く。

 両者ともに膨大な量の魔力が溢れる。


「あそこにいたか。イージスは。それに『鍵』もいる。最終計画発動のためにまだまだ『鍵』は必要になる。やっちまいな。モンスターども」


 ティアマティアがイージスを指差すと、一斉にモンスターたちはイージスの方へと走り出す。

 モンスターが向かってくるにも関わらず、イージスは剣を地面に突き刺し、モンスターたちへ視線を送るのみ。


「イージス、一体何を……」


「敵を統べて敵を討つ。〈操獣テイム〉」


 イージスへ向かっていたモンスターは、一斉に歩みを止めた。かと思うと、次の瞬間、一斉にティアマティアへと襲いかかる。

 ティアマティアは動揺し、周囲のモンスターで壁を作り、そのモンスターらの襲撃を防いだ。


「まさか……」


「モンスターを操れるのはお前だけじゃない。覚悟しろ。ティアマティア=ソフィア」


 操っていたモンスターが逆に操られ、ティアマティアは動揺していた。だがすぐに状況を理解し、微笑んだ。


「なーんだ。たかが私のモンスターを操っただけでいい気になっちゃって。モンスターを従える天才、このわらわに敵う通りがあるはずなかろう。私の独壇場、他の追随をも許さない私の領域に踏み込もうとするかーー愚か者。

 滑稽にして愚直。誰が私に敵うことがあろうか。あらゆるモンスターの統率において、私が貴様に劣る部分は何一つない。そこには圧倒的な格の差が存在する。

 貴様らが私の襲撃を退ける?できるわけがなかろうが。貴様たち被支配民はただ脅えて見ているが良い。お前たちが刻一刻と滅ぶ様を。ここでお前らは終わるのだよ。

 あまり調子に乗るなよ。イージス。『鍵』を開き魔力だけ上回ろうとも、経験という圧倒的格の違いを教えてやろう。さあ来い」


 ティアマティアと名門ヴァルハラ学園の戦い、今、始まる。

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