ラグナロク編

第291話 神イーロンの暴虐

 世界中で始まった巨大な戦い。

 あらゆる場所で〈魔法師〉勢力の兵があらゆる島を制圧していた。その中には、魔法牢獄に囚われたはずの五神、その他にも無数の罪人が。

 彼らにより、世界は今支配されつつあった。


 聖域では、その暴動を食い止めるために知恵のある者たちが指揮をとっていた。


「ここ聖域にいる護衛をしている者の半数を襲撃が行われている島へ送り込め」


「サクリーファ様。ですがそれではーー」


「ーー構わん。この聖域を護るよりも、今は人々の安全を護ることが最優先だ。ここで人々を護れず、何を護るというのだ」


 サクリーファの指示通り、聖域の守護に務めていた魔法使いの半数を襲撃が起きている島へと送り込んだ。

 しかし圧倒的に戦力が足りていなかった。

 戦場の指揮は困難を極めていた。


「サクリーファ様、まだ救援を送れていない島が六つほどあります」


「まだそんなにあるのか……。この状況じゃ、どうすることもできないか」


 戦況は誰の目から見ても明らかに不利であった。


 救援を送れていない島の中には童話島や炎上島など、かつて激しい戦いが行われた場所が含まれていた。だからだろうか、〈魔法師〉陣営の襲撃を受けてもそう簡単には落とされなかった。


 それらの島のひとつーー魔法鎖国島

 その島では現在、五神の一角を担っていたイーロン=センターが全身に龍の鱗を纏って街を破壊しながら暴れていた。


「絶好の機会だ。弓の男も純白の剣の少年もいない。この街は破壊させてもらうよ」


 イーロンの手元には魔方陣が出現する。魔方陣が出現するとともに、イーロンの手は矢によって貫かれた。


「アーラシュがもう来たか」


 しかしその矢の射手はアーラシュではない。

 彼女は時計塔の上に立ち、静かに弓を構えて天高く浮かぶイーロンへ矢を向けていた。


「お前は……」


「ペルシャ=ビェ。魔法弓士であり、アーラシュ聖の妹であり、そして貴様を討つ者だ」


 ペルシャは堂々としたたたずまいでイーロンへ鋭い視線を向けた。


「貴様、死ぬ覚悟はできているか」


 イーロンは自身の背面に魔方陣を出現させる。しかしその全てが一瞬にして矢によって貫かれた。

 魔方陣は貫かれ、さらにはイーロンの右足には矢が刺さる。


「これならどうだ」


 イーロンの周囲には無数の光の魔方陣が創製される。軽く百は越えるだろう。

 それらの魔方陣を前にしても、ペルシャはただ平然と弓を引く。


「無駄だ」


「〈複製ミラージュ〉」


 ペルシャが放った矢は、魔方陣の数に対応して無数に分裂した。それらの矢がひとつもくるうことなく魔方陣を貫いた。


「なんて正確さ。お前たちの一族は代々私を邪魔するようになっているのか」


「そんなわけないだろ」


 冷静にツッコミをいれつつ、ペルシャはイーロンの右腕を射ぬいた。


「くそぉぉぉおおお」


 無言で矢は放たれ、右腹、左肩、左手、右太もも、次々と射ぬかれていき、イーロンは血を流しすぎた。

 意識は朦朧としている。


「まずい……このままでは……」


 ペルシャの放った矢がイーロンの頭部目掛けて進む。少しのくるいもない、完璧な一手。その矢がイーロンの額を貫くーーその寸前、巨大な龍がとぐろを巻いてイーロンを護るように現れた。


「来てくれたか。黄龍」


 黄龍は巨大な雄叫びをあげる。

 ペルシャはその龍の登場に驚きを隠せない。しかし黄龍の登場だけで終わることはなかった。

 突如港から火の手が上がる。


「あれはいったい……」


 恐る恐る見てみると、そこには海中より無数のモンスターがこの島へ上陸しているではないか。

 ブレイバー兵長たちが剣を持って対抗しているが、どれだけもつか。


「決着をつけようか。アーラシュの妹よ」


 戦況は一転。

 先ほどまでイーロンを一方的に追い詰めていたペルシャであったが、無数のモンスターの登場と黄龍の登場により、街には大きな被害が。


「黄龍、行くぞ」


 それを見上げていたペルシャの妹ーーマレーシャ=ビェは手を握って拝む。


(アーラシュお兄ちゃん……助けて)


 だがその頃、アーラシュは紅碧島にてある罪人と交戦状態になっていた。


「やはり強いな。電雷の不死鳥、その異名がつけられた凶悪犯罪者ーーギン=クロノコフィン」


「アーラシュ=ビェに六芒星。期待以下だよ。君たちの力は」


 ギンという男、彼の傷は電雷を纏うとともに消えていく。まるで電雷が覆い消してくれるように。

 アーラシュは電撃を受け、地面に横たわっていた。


「そろそろとどめを刺そうか」

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