第290話 ラグナロク
魔法城は落ちた。戦いは終わったのだ。
しかし最小限の犠牲によって、〈魔法師〉の一人、イシスを海へ落とし、七罪人の内三名の身柄を拘束することに成功した。その内の一人には、まだ謎多き女性ーーレイジア=ルクスリアも含まれていた。
イージスたちは魔法船に乗り、千年魔法教会のある聖域へと帰還する。
魔法船の中、イージスはしばらく考え込んでいた。
(あの時感じた『鍵』の気配は、一体誰のものだったのだろうか)
気付けば魔法船は聖域へと到着し、そこへ戻るとすぐさま会議が行われた。その会議中、イージスたちは相変わらず外で待たされていた。
「どうして私たちは会議に参加できないんだろうね」
「まあ私たちはまだ子供だし仕方ないよ」
スフィアとアニーは退屈そうに言った。
きっと今、あの部屋では会議が行われているのだろう。この戦いで失ったもの、そして得たもの。
何を失い何を得たとしても、この戦いの真実はひとつ。
我々は〈魔法師〉の手の上で踊らされたのだ。最初から全て作戦が読まれていたのだ。それ故、得たものの代わりに犠牲を伴った。
イージスは会議室を見つめていた。
そんなイージスを、ルクスリアは見つめる。
その頃、会議室では会議が行われていた。
魔法聖ノーレンス=アーノルドがいなくなった今、その代役としてクレナイ=アズマが話し合いを統率していた。
「では、この戦いでイシスに重傷を負わせ、七罪人三名を捕らえた。しかしハンゾウ=カグラは行方不明、そして数名が負傷した。代償はそこそこに大きいが、その分多くの者を手に入れられた」
「クレナイ、ひとつ言いか」
魔法聖ーーアイリス=ヘルメスは何か納得がいかない様子であり、意見を唱える。
「この戦いにより、ノーレンス聖はゼウシアとともに魔法牢獄へ。これで〈魔法師〉に存在する厄介な存在をしばらくの間封印できた」
「ああ。そうであるが」
「〈魔法師〉の狙いとは何でしょうか。ゼウシアが囚われたというのに、なぜ彼らはゼウシアを取り返しに来ない。百歩譲って分が悪いからだとして、では彼らの目的は何でしょうか」
「何か心当たりでもあるのか?」
「彼らが集めていると言われている『鍵』、しかし未だ一人も見つかっていない。なぜ見つかっていないのか。それはある目的のためにそこへ移動させておいたから」
「その場所とは?」
「枯雪島、五神が甦ったことにより気候変動が起きた島です」
「なぜその島に?」
「これは私の部下たちに調べさせておいた情報です。どうやら枯雪島に〈魔法師〉のメンバーが密かに出入りしていることが分かった。そしてそこには古代遺跡が存在している」
「なるほど。では彼らの目的は」
「その古代遺跡の復活、そしてーー」
会議中、一人の男が慌てた様子で入ってきた。
彼を見て、アイリスは「ようやくか」と呟いて彼へ視線を送る。
「ローゼン。どうだった?」
「枯雪島、そこに存在していた古代遺跡が復元されました」
「やはりか」
「ですが、それだけではありません」
「何!?それはどういうことだ」
アイリスは予想外だったのか、ローゼンへ強く問う。
ローゼンは冷や汗を流しつつ、その事柄について述べた。
「枯雪島、そこに存在していた古代遺跡が復活したとともに、その時代に生きていたであろう無数の人間やモンスターが復活を遂げました。それも十や百ではなく、万は越えるかと……」
予想外の状況に、その場にいた者は皆驚きを隠せなかった。
もしそれが事実だとすれば、この世界は大きな戦いに巻き込まれることとなるのだ。それはつまり、この世界の崩壊を意味する。
しかしローゼンは嘘などついていない。それが彼らを更に絶望の底へ叩きつけた。
「そして現在、枯雪島に存在していた巨大な氷の壁が砕け、それとともに枯雪島全域が〈魔法師〉によってまるで要塞と化しました。巨大な領土と膨大な魔力、圧倒的な兵力、それらを兼ね備えた〈魔法師〉は、今の我々に倒せるかどうか……」
絶望しかなかった。
島まるごとが要塞のように厳重な体制がとられ、さらには万を越える兵力がその島に存在している。
容易くは倒せない、落とせない。
「そして……」
「まだあるのか!?」
「どういうわけか、ノーレンス聖がゼウシアによって捕まっており、現在も魔法牢獄へ囚われているはずの罪人が皆枯雪島に……」
唖然とした。
絶望とした。
殺伐とした。
彼らはここまで見通していたのだ。見通していた上で、この作戦に乗っかったのだ。
完全にはめられた。完全に打ち負かされた。
〈魔法師〉、彼らが一枚どころか百枚も上手だったのだ。
世界は今、〈魔法師〉によって恐怖に叩き落とされる。
ーー枯雪島
「ゼウシア様、作戦通りですね」
「世界は今、我が手に落ちる。作戦名ラグナロク。さあ世界よ、揺るえ脅え称えよ。我らが神という存在を」
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