第289話 魔法城陥落

 イージスたちは魔法城最下層へついていた。そのひとつ上の階層では、ティアマティアとヘラクレスが激しい戦闘を繰り広げている。

 そんなことには気づかず、イージスは最下層にあった扉を開け、その中へと入った。するとそこには、巨大な結晶があり、その中には謎の少女が囚われていた。

 だが驚くべきことに、その少女はイージスたちは知らない者ではなかった。そう、そこに囚われている者はイージスが知っている人物、いや、知り合ったばかりの人物。


 振り向き、背後に立っている者たちを見た。

 アニー、シャリオ、スフィア、そしてーールクスリア。


「なあ、結晶の中に囚われているのは……ルクスリア、だよな」


 ルクスリアは数秒の間を空け、考えていた。

 そして決意を決めたのか、息を飲み、そして言う。


「私は……私は『鍵』であり、そして七罪人。そして……私はーー」


 その時、背後から現れた少女によって、腹をその少女の素手で貫かれた。ルクスリアの体からは血は出ない。まるで人間ではないような……。


「誰?」


 ルクスリアは背後にいる謎の少女へ言う。その少女は満面の笑みで答える。


「私はナノナノ=グーラ、君たちを食べるナノ」


 明らかに異彩を放つその少女へ、イージスたちは強い警戒心を向ける。それ以上に、ルクスリアが腹を貫かれても平然としていることへ、疑問を抱いていた。


「ルクスリア、大丈夫なのか」


「言ってなかったんだけどさ、私、見ての通り人間じゃないんだ。私はゼウシアエイリアンによって創られた、色欲の七罪人ーーレイジア=ルクスリアの複製体……なんだ」


 自らが人間ではない。

 そう語った彼女の表情はどこか悲しげであった。

 まるでそれはーー人間のように……。


 呆然とするイージスたちの前に、青髪のツインテールの女性ーーティアマティアが現れる。


「ナノナノ。何してる」


「何って、侵入者は皆殺して良いって言ったナノ。だから殺しているナノ」


「例外もいると言ったはずだ」


「ではこの少女は何ナノ?」


「『鍵』だよ。それも奇妙なことに、レイジア=ルクスリアの複製体の一人、そこのマイナスタイプのみが『鍵』となった」


「なるほどナノ。『鍵』がなければゼウシアは力が使えないナノ。あの雑魚雑魚は今は意気がっているみたいだけどさ」


「ゼウシア様への侮辱はわらわが許さぬ。お主は生き返らされた身、ならば我々も言うことも少しくらいは聞いてもらおうか」


 ティアマティアはナノナノに対し、怒っている様子であった。

 しかしナノナノは終始満面の笑みを浮かべ、ティアマティアをにやにやしながら見つめていた。


「分かったよ。じゃあ私は上の階で侵入者たちを消しておくから、後はご自由に」


 そう言うと、ナノナノはその部屋を後にする。

 ナノナノに憤りを抱きつつも、ティアマティアはナノナノへ危害を加えることはなく、ただルクスリアを見ていた。


「マイナスタイプ。お前は人間ではない。だから腹に風穴が空いた程度では死ぬことはないだろ。ならばわらわと共に来い。そこの『鍵』も皆」


「渡さない」


 イージスは剣を構え、ティアマティアへ抵抗する意思を見せた。


「今は急いでいるんだ。遊んでいる暇はないんだよ」


 ティアマティアは獅子の姿をしたモンスターを出現させた。


「この程度のモンスターであろうと、お主の足は止められるだろう。その隙に『鍵』はいただーー」


「『鍵』よ、開け」


 イージスは純白の光に包まれた。その横で、アニーも純白の光に包まれていた。

 ーー鍵は開く。

 イージスとアニーは内側から膨大な力が溢れ出す。


「アーサー家に、アーノルド家の『鍵』……こんな状況でどう勝てと……」


 イージスの剣には純白の光が流れ込み、その剣をイージスは勢いよく振るった。その一振りで純白の光が放たれ、ティアマティアが産み出した獅子のモンスターは一瞬で消失した。

 その一撃に、ティアマティアは驚苦の中に叩き落とされた。

 圧倒的な一撃、それは全ての理不尽を覆すほどの理不尽的な強さ。


「まだだ」


 イージスはティアマティアを逃がすまいと、走りかかる。

 ティアマティアは無数のモンスターを生み出し、イージスを襲わせる。しかしそれらのモンスターはイージスの素早い動きによって一瞬で倒された。


「逃がしはしない」


 イージスはティアマティア目掛け剣を振り下ろす。

 剣の一振りより放たれた純白の光がティアマティアを飲み込もうとしていた。


「〈魔物入換モンスターチェンジ〉」


 部屋の片隅にいたモンスターとティアマティアの場所が入れ換わり、イージスの剣はティアマティアのいた場所へ現れたそのモンスターを純白で帰せた。

 その隙にティアマティアはルクスリアだけでも連れ帰ろうとルクスリアへと走るが、突如天井が砕けた。


「まさか……」


 そこからは、ヘラクレスが剣を振るって現れた。


「あれほどの分厚い氷の中に閉じ込めたから五分は持つと思ったが、まさか一分も経たずに抜け出してきたか」


 ティアマティアはヘラクレスのしつこさに怒り、ルクスリアを奪うのを諦めた。そのまま部屋を後にし、去っていく。

 ヘラクレスが天井を壊して現れた際、本体であるルクスリアが囚われている結晶に亀裂が走る。そしてその亀裂は少しずつ大きくなっていき、そして結晶は砕けた。


 だがそれが引き金となった。

 魔法城は海上に浮かぶ孤独な城、その城の浮力の動力源はレイジア=ルクスリアであった。その動力源である彼女が結晶から解放されることにより、城は落ち、崩れる。


「まさか……落ちるというのか」


 ヘラクレスは状況を認識に、そして周囲を見渡す。


「君たち、すぐにここから離れるぞ」


 ヘラクレスは壁に穴を空け、イージスらとともに外へと避難する。

 海上に浮かんでいた魔法城は、今ゆっくりと落ちていく。

 戦闘が終わり、冷静になったイージスはふと思った。


 レイジア=ルクスリアは『鍵』ではなかった。

 だがイージスは、地下から確かに『鍵』の気配を感じていた感じていた。ではその正体は何者なのか。

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