第287話 既に計画は始まっている

 イージスたちの乗る魔法船は、無数のモンスターによって襲撃を受けていた。その元凶は、船上に空いた謎の穴、そこからモンスターが未だに湧き続けている。その数は止むことはない。

 モードレッドとジークフリートだけでは押さえきれず、とうとうイージスたちのいる部屋までモンスターが来た。

 しかし、そのモンスターたちを水流の如くアリシアは斬り伏せた。その素早い太刀の間に、イージスたちは微動だにしなかった。いや、できなかった。


「速い……」


 速すぎるその一太刀に、驚きを垣間見せる。

 アリシア、彼女は元名士四十一魔法師であるが、未だその実力は衰えていないのか、それとも全盛期はこれよりも強かったのか。詳細は不明であるが、彼女が強いということは思い知った。

 イージスたちは体力を温存したままアリシアに護衛を任せる。

 そもそも、自分たちが手を出せば邪魔になる。ただ護られている方が良いだろう。


「もうすぐ魔法城か。ならこのまま船は止めず、魔法城へ突撃する。それが最も効率の良い策だ」


 アリシアはモンスターと戦いながらも、イージスらへと気を配っていた。

 周囲の魔法船が魔法城付近で止まり、魔法城へ飛び込む中、アリシアたちの乗る船は魔法城の壁に激突した。壁は粉砕され、魔法城の中へと突撃をした。

 魔法城前方は粉々に砕け、モンスターたちも潰されている。船上で戦っていたジークフリートは竜に乗ってモードレッドと避難しており、無事であった。


 魔法城内へ侵入したのはアリシア、イージス、アニー、スフィア、シャリオ、ルクスリアの六名。


「魔法城内にいるであろう『鍵』を奪還し次第、速やかに魔法城から撤退する」


 アリシアの迅速な判断の下、イージスたちは彼女の背中を追いかける。


「もっと下から気配を感じます」


 イージスは『鍵』の気配を下の階層から感じていた。

 それに従い、アリシアは水を纏って螺旋階段へと向かう……が、しかしーー


「行かせないよ」


 駆け抜けるアリシアへ、魔法船の突撃によって空いた穴から漆黒の軍服を着た男が拳を振るいながら突撃を仕掛けてきた。

 アリシアは剣で受け止めるも、その力は強く、その力に圧し負けそうになっていた。


「水の姫か」


「そういうお前はガノン=イーラか。五神に続き、君たち七罪人も蘇っていたか。実に厄介だな」


 アリシアはガノンの拳を受け流し、空いた腹部へと剣の柄で突いた。ガノンは吹き飛ぶも、着地してアリシアを視界から離さない。


「七罪人、その全員が名士四十一魔法師と渡り合えるほどの力を有している。面倒なほどに強いけど、私の相手には不足だということまでは理解できぬか?」


「残念。俺は最強、無敗の最恐、恐怖の再骨頂まで連れてってやるYO」


 ラップ口調でガノンは言った。


「耳障りだよ。普通に会話できないわけじゃないだろ」


「お前相手に余裕をかませはしない。ラップはなしだ。本気でいかせてもらうぜ」


 ガノンはアリシアへ向け全力で駆け抜ける。アリシアは背後にいるイージスたちへ言う。


「ここは私に任せて、お前たちは『鍵』を救い出せ」


「分かりました。すぐに救出して来ます」


「信頼しているぞ。イージス」


 アリシアはそう呟くと、ガノンの剣を真っ向から受け止めた。


「速度のお前が、力でかなうものか」


「私には護るべきがある。よって憤怒の罪人ーーガノンよ。その首、ここで落とさせてもらう」


「やってみろ」


 ガノンの拳とアリシアの剣とがぶつかり合う。

 それを背に、イージスたちは螺旋階段を駆け降り、『鍵』の救出を目指す。


「すぐに『鍵』を救い出します。だからそれまでーー」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「ヘラヘラ、どうするの?もう魔法城に敵が侵入しちゃってるよ」


 虹色の髪をした女性ーーイリス=ペインティアは、ヘラヘラ=ナイトクイーンへそう質問を投げた。

 ヘラヘラはただ周囲の状況を魔法城内で観察するのみで、動きはしない。


「ヘラヘラ、ねえ、聞いてるの?ねえ、聞こえてーー」


「ーー安心せぇ。主の戯言、全て聞こえておったよ」


「で、どうするんですか?」


「後は全てに任せるだけだ」


「彼?私たち〈魔法師〉の戦力は、捕まっている者以外全員ここにいるはずだけど……。他に協力者でもいるのですか?」


「そうだとも。ゼウシア、あやつは最初からノーレンスによって魔法牢獄の中へ囚われることを分かっておったのじゃ。だがアーサー家でなければ『鍵』は開けぬ」


「では『鍵』はどうするのですか?」


「そもそもじゃ、ゼウシアの目的をお主は認知しているのか?」


「いえ……分かりませんが……」


「では教えてやろう。じきに発動される、"古代の世界を甦らせる"計画を」


「古代の世界を……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る