第286話 幻影の光は未だ見つからず

 青髪のツインテールの女性ーーティアマティア、彼女は名士四十一魔法師のヘラクレスと戦っていた。

 ティアマティアが次々と創造するモンスターたちをヘラクレスはいとも容易く倒していた。武器はその手に握る剣のみ、未だ魔法の一つも使わず既に百以上のモンスターを倒した。

 それにはティアマティアは険悪な表情を浮かべる。


「お前、英雄ではなく化け物か」


「俺は英雄だ。不滅の英雄。ここで貴様らの悪行を止める」


 ヘラクレスは剣を握りしめ、ティアマティアへと斬りかかる。


「本当に、無意味だということを知れ」


「何匹でもかかってこい」


「ヘラクレス、英雄はここで死せ。わらわの愛しき怪物たちに喰われてな」


 ティアマティアは手に十の鍵がつけられたリングを手にする。その内の一つ、その鍵を手にし、まるで鍵穴へ差し込み、その鍵を開くように彼女は鍵を動かす。

 当然そこには何もない、ただの空白。だがそこには突如巨大な門が出現し、その門が開くとともにそこからは巨大な竜がそこから現れたのだった。


「英雄ヘラクレスよ。そなたでもわらわの怪物はそう容易くは倒せんぞ。かの怪物の名はウシュムガル。どれだけの英雄伝説を重ねてきたそなたでも、この怪物は倒せぬよ」


「俺は英雄だ。英雄にできないことはない」


「かっこいいな、そなたは。ならば血で染め上げてもっと格好良くしてやろう」


「英雄剣ヘラ・クレス、この剣に斬れぬものはない」


 ヘラクレスへと飛びかかる巨大な竜、背中に生やした翼を振るい、ウシュムガルは前足の爪でヘラクレスを斬り裂く。しかし爪はヘラクレスの剣に防がれ、そして弾かれた。


「さすがは英雄、といったところでしょうか」


「ウシュムガルはそう簡単には倒せないよ」


 ウシュムガルの猛攻に、ヘラクレスはかわすのみでむやみやたらに攻撃を仕掛けることはできずにいる。だがヘラクレスの剣さばきは一流のものであり、まだ一度も体に傷を負っていない。


「さすがは英雄と称されただけはある。だが、」


 ウシュムガルは火炎を吐く。その火炎すらもヘラクレスは斬り裂く。


「火炎だろうと無駄なことだ」


「いいや。わらわのウシュムガルを舐めるでない」


 火炎を斬り裂いたことにより、周囲は火炎に覆われた。視界が悪くなったその中で、ウシュムガルが尻尾を振るう。

 だが、それすらも気づかれていた。


「俺が英雄たる所以は、あらゆる攻撃を予測し、対応するから。英雄とは奇跡ではない。実力だ」


 ヘラクレスは振るわれたウシュムガルの尻尾を斬り裂いた。


「これが……英雄……」


「では受けるが良い。英雄の一撃を」


 ヘラクレスは勢い良く剣を振るい、ウシュムガルの首を斬り飛ばした。首からは血が雨のように錯乱し、飛び散った。

 魔法船に充満する血のにおい。ヘラクレスは血の霧を一掃し、ティアマティアへと剣を向ける。


「これほどまでに壊れてしまった魔法船。もう制御は利かず、誰も止めることはできない」


「だが、既に怪物は討たれた」


 ヘラクレスはティアマティアへと言う。


「俺の勝ちだ」


「いいや。君の負けだよ」


 戦いに集中していたため、ヘラクレスは気づいていなかった。既に魔法船が魔法城のすぐそばまで移動していたことを。ヘラクレスは魔法船から避難しようとした時、足場が崩れ、足が船体に埋まる。

 ティアマティアは魔法船から飛び、その瞬間にヘラクレスの乗る魔法船は魔法城へと打ち付けられた。


「さようなら。ヘラクレス」


 ティアマティアは激突し、炎上するヘラクレスの乗っていた魔法船へ視線は向けず、すぐそこまで迫ってきている魔法船の一団へ視線を向けた。

 どの魔法船でも戦いが繰り広げられている。それほどまでに〈魔法師〉が厄介なのかが理解できる。

 ティアマティアは魔法城の中へと入り、一足速くある場所へ向かう。


「さあて、私専用の階層フロアで待っているよ。誇り高き魔法使いたちよ」


 この戦いの行く末はいかに。

 魔法船の一団が魔法城へついたと同時、魔法船を襲撃していた〈魔法師〉の連中はすぐに魔法城へと移動した。


「逃がすな」


「魔法城に行かせる前に捕らえろ」


 魔法城へあと少し、その状況下でもまだ攻防は続く。

 イージスたちの乗る魔法船では、モードレッドとジークフリートがフラッシュを捕らえていた。ノーレンス聖に重傷を負わされていたためか、すんなりと捕らえることができた。

 抵抗するフラッシュを、強い力でジークフリートは掴む。

 そこへ、船の端に一人の少年が着地した。


「ねえ。彼女を離してくれる」


「誰だ!?」


「知らないのも無理ないか。エイリアン=ライター、それだけで分かるでしょ」


「モードレッド」


「ああ」


 モードレッドは鈴のついた自分の身長ほどはある棒を握り、それを華麗に振るう。音が周囲へ響きわたっている。


「魔法巫女聖モードレッド=ムーンライト。君は戦闘向きではないのに、どうして戦場にいるのかな」


「そんなの決まっているだろ。〈魔法師〉を討ち滅ぼすためだ。特にエイリアン、お前さえいなければ」


「そういうことか。やはり恨んでいるのか」


「当たり前だ」


「だけど今は君に構っている暇はない。返してもらおうか」


 突如空間に切れ目が入り、そして穴が開いた。そこから無数のモンスターがわき出、モードレッドたちを襲う。


「噂通りの魔法を……」


「フラッシュは返してもらったよ」


 気付けば、エイリアンの腕の中にはフラッシュが担がれていた。


「じゃあね」


 エイリアンは消えた。

 そこに無数のモンスターを残し、消えていった。

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