第285話 勝利と敗北を積み重ねて

「ノーレンス聖……」


 騒然とする二人の名士四十一魔法師の一人ーーモードレッド、彼女へ向けてフラッシュは斬りかかる。疾風迅雷、その異名の如く、フラッシュの動きは素早く、モードレッドは呆然としていた。

 フラッシュの剣がモードレッドの喉元を貫く寸前、その横にいたもう一人の名士四十一魔法師ーージークフリートは剣を握り、剣を受け止める。


「ジークフリート、さすがだな」


「フラッシュ、かつてのあなたはもういないのですね」


「昔の私はもういない。今の私は罪人だ。つまり、貴様らの敵さ」



 その頃、他の魔法船では動きがあった。

 イシスはヒミコ、ギルヒメシュと戦闘を繰り広げていた。


「さすがはアーティファクトシリーズ、水氷の皇女。一筋縄ではいかないな」


「当たり前だ。アーティファクトシリーズの中でも私は稀に見る最高傑作だ。この私に、君たちは勝つつもりでいるのかな」


「ああ。当たり前だ」


 ギルヒメシュは槍を手にし、イシスへと走りかかる。イシスは水と氷を掛け合わせ、水氷の剣を創造した。その剣でギルヒメシュの槍を受け止めた。

 槍の一撃に、イシスの剣の水氷の残骸が周囲へ飛び散る。

 ギルヒメシュが槍でイシスを押し込んでいる間に、ヒミコは精霊魔法にて、火炎をイシスへと飛ばす。イシスは水の壁を作り、火炎を防いだ。


「二対一、それでもよく耐えるじゃないか」


「私は水氷の皇女だぞ。二対一でも余裕だ」


 イシスは名士四十一魔法師の二人を相手にしても、依然として余裕の笑みは崩さない。イシスは冷気と水気を纏い、静かにもそこへ舞い降りた。

 魔法船へ降りた瞬間、周囲には水気が駆け抜け、その後すぐさま冷気が駆け抜けて周囲は凍てつく。極寒の魔法船、魔法船の動力源である魔法石が壊れない限り、魔法船は落ちることはない。

 凍てついた魔法船は、それでも飛び続けた。ただ真っ直ぐに、魔法城を目指して。


 戦況は依然として動かない。互いに一進一退の攻防を繰り広げ、どちらが上か下かもない、平等な対決。それは平等故に決着がつかない。

 だがその平等の均衡を壊すが如く、隣の魔法船より矢が一発放たれた。矢はイシスの心臓を撃ち抜いた。


「な、何……」


「あの矢、アーラシュか」


「アー……ラシュ…………」


 イシスは心臓を押さえながらも、矢が飛んできた方向へ視線を移す。そこには名士四十一魔法師の一人ーーアーラシュ=ビェが弓を構え、そこに立っていた。


「貴様か……」


「さようなら。イシス」


 イシスは心臓を押さえながら、遥か上空から海へ向かって落ちていく。

 海へ消えたイシスを見て、アーラシュと同じ魔法船へ乗り合わせていたヒノカミは言う。


「アーラシュ、私たちだけでもここに残ってイシスを捜索しようか」


「いいや。それよりも優先すべきことがある。我々は魔法城へ行き、既に捕らえられている『鍵』を救出しなくてはいけない。彼女が生きていようが死んでいまいが、今は後回しだ」


 アーラシュの乗る魔法船には彼の直属の仲間である六芒星が乗っている。

 もうじき魔法船の集団は魔法城へ着く。だがそれまでに、彼らの襲撃から生き延びることができるのか……。


 イシスからの奇襲を切り抜けたアーラシュたち、だが他の魔法船では悲惨な光景が広がっていた。

 そこは名士四十一魔法師のハンゾウ=カグラの乗る魔法船。そこにはペインが襲撃しており、ハンゾウは恨みや怒りを込めてペインへと飛びかかった。

 ーーだが、結果は一瞬で決まった。

 ハンゾウはペインによって黄金へと変えられ、身動きが取れなくなった。


「無謀だったな、ハンゾウ。君は最初から体のいたるところが黄金へ変わっていたのに、それでも戦いを挑んだことには驚いたよ。エリア、君が魔法を使うまでもなかったな」


「うん。私の射撃術を披露したかったけど、そうも行かないのね」


 体が小柄な少女ーーエリアは自分と同等の大きさはあるスナイパーライフルを堂々と肩に担いでいた。


「エリア、この船にはこの男しかいないようだし、魔法石を破壊して落とすとしようか」


「そうだよね。名士四十一魔法師って、名前だけなんだね」


 エリアは黄金と化したペインを蹴り、床に転がす。


「もう少し強くないと、護りたいものも護れない」


 そう呟くと、エリアはペインのもとへと走った。魔法船へ静かに転がるハンゾウ。

 彼はもう、起き上がれない。

 その魔法船の中枢へ、ペインとエリアはたどり着いた。


「落ちてもらおうか。魔法船」

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