千年魔法教会VS〈魔法師〉編

第282話 戦いの狼煙は上がる

 広大な海の上に、ポツンとそびえるは千年魔法教会の聖域であった。その聖域は神聖な魔法によって護られ、入場を許された者のみが入れる特別な場所であった。

 そこには十字架のような建物が建っており、そこが千年魔法教会の教会であった。

 そして現在、そこには名のある多くの魔法使いが一同に集められていた。

 その中には、ヒミコ=アマノカミやギルヒメシュ=ウルク、アーラシュ=ビェやハンゾウ=カグラ、カルナ=サンなどといった名士四十一魔法師。

 それだけではなく、ヴァルハラ学園の九頭竜であるアリシア=コウマやエスト=クロニクル、アーカイブ=シスイテイムなど。

 そして何より、ノーレンス=アーノルド、アイリス=ヘルメス、クレナイ=アズマという四人の内の三人の魔法聖。


 なぜそれほどの者たちが集められているのか。

 それはノーレンスが密かに計画を進めていたある作戦ーー〈魔法師〉討伐作戦に関係するものであった。


「よくぞ集まってくれた。千年に一度もないだろうな。これほどまでの魔法使いが終結するのは」


 そう大勢の前で言ったのは、千年魔法教会教皇ーーサクリーファ=カミビト、彼女であった。


「皆に集まってもらった理由はただひとつ。世界を危機に脅かしている大罪人ども、〈魔法師〉を討伐するためだ」


「ひとつ良いか」


 群衆の中で名士四十一魔法師の男は手を上げた。


「何か意見があるのか。ヘラクレス」


 名士四十一魔法師の一人、魔法剣聖ーーヘラクレス=アルカイオス。

 彼はサクリーファへと問いかけた。


「今回の作戦で〈魔法師〉を討つらしいが、彼らの居場所は分かっているのか」


「ああ。そのことなら心配はない。既にノーレンス聖が捕らえている〈魔法師〉の一人、アポレオンが話してくれたよ」


「罠という可能性は?」


「名士四十一魔法師の中に、真実を嘘偽りなく話させる者がいる。その者に頼んだからな」


「なるほど。では信頼できる情報で間違いないと」


「信頼できる。それにたとえ罠であろうとも、これほどの戦力を集めたのだ。そう簡単に敗北するはずもない。ではこれより作戦の内容を発表する」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 千年魔法教会で作戦の概要が話されている中で、その話を聞くこともなく、イージスとアニー、スフィアとシャリオは聖域内を散策していた。

 千年魔法教会が守護する聖域は広く、その広大さ故にイージスとシャリオ男勢の好奇心を激しくくすぐっていた。

 それに対し、アニーとスフィア女性陣はそこまで好奇心をくすぐられていないのか、聖域内を走り回る二人をベンチに座り、静かに眺めていた。


「全く、あの二人ははしゃぎすぎろ。これから何が起こるのか分かっているのか」


「まあ良いじゃないか。無理にかしこまっても本領が発揮できなくなるだけだ。今は、今だけはああやってはしゃいでいた方がいい」


 スフィアは紺碧に輝く美しい指輪を手に持って眺め、そう呟く。

 イージスとシャリオは聖域内部にある巨大図書館への扉を開け、中へ入る。するとそこには、神聖なる輝きを放つ髪色の少女がまるでイージスたちが来るのを分かっていたかのように立っていた。

 そして少女は一言言う。


「『鍵』、そしてその鍵を開く者。君たちもこの戦いへ参加するのだな」


「あ、ああ……」


 なぜか自分たちのことを知っている少女へ、イージスたちは警戒心を抱く。


「君は?」


「私は……そうだな。ルクスリア、私はルクスリアだ」


「君はなぜここにいる?」


「私もこの戦いへ参加するからだよ。それにイージス、君は『鍵』を開く存在だから故、だいたい見当はついているのだろう」


「ルクスリア、君は『鍵』だろ」


「正解だ。私は『鍵』、そしてこの作戦で君たちと戦いを共にすることになった。よろしくな」


 ルクスリアはイージスへ手を差し出した。

 イージスは警戒心を解き、ルクスリアの手を掴んだ。


「こちらこそよろしく。ルクスリア」



 もうすぐ始まる巨大な戦い。

 集められた精鋭の魔法使いによって構成された彼らは、〈魔法師〉の根城となっている海上に浮かぶ孤独な城ーー魔法城を目指して魔法船を走らせる。


「ようやく来たか。千年魔法教会の魔法使いども。全力で迎え撃て。戦争を始めるぞ」


 魔法城の玉座に君臨するゼウシアは、高みから見物するように彼らを見下していた。

 今、戦いは始まる。


「さあ、滅ぼせ。この世界を」

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