第279話 花は枯れる、それでもまた芽は開く。

 童話島の枯れた木々が立ち並ぶ森の中で、少女は一人、泣いていた。

 どうして私は生まれながらに呪われているのだろうか。どうして私はこんなにも醜い力を持っているのだろうか。


「もう……辛いよ」


 そこへ一匹の狼が現れた。


「王女。今この島は大変なことになっているんだ」


 白丸はそう言い、そこへ座り込む少女へ話しかけた。

 少女は顔を太ももに埋めつつも、言った。


「そんなの、私には関係のないことでしょ」


「でも……君の力が頼りなんだ。どうか力を貸してくれ」


「私にしかできないからって、全部私に押し付けないでよ」


 少女は叫び、白丸の言うことに耳を塞ぐ。

 彼女は嫌なのだ。自分が何かをしたところで、それは呪いの力。感謝されることなどないのだ。

 これまでそうだったように……。


「白丸。私は、私は自分に嘘は吐きたくない。これ以上、嘘は吐きたくない」


「…………」


「だから、これが最後だ。人助けなんてするもんじゃない。だから私がこれからするのは人助けじゃない。自分勝手なわがままだ。付き合ってくれるか?」


「ああ。もちろん」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「君はもうじき終わりだよ。少女よ」


 カノンにより、リーフは追い詰められていた。

 腕を撃たれ、痺れによって体を動かせずにいる。笛は砕け、仲間を呼ぶことすらままならない。


「君はあくまでも童話の中の登場人物。実在しないはずの存在なのだろう。ならその首、跳ねても問題ないよね」


 カノンの手からはいつの間にか銃は消え、刀が握られていた。


「少女よ。実験材料になってもらおうか」


 カノンはリーフ首目掛け、刀を振り下ろした。

 だがその寸前、周囲に気配を感じ、刀をリーフの首へ当たる寸前で止めた。

 カノンとリーフは吸血樹に囲まれ、誰が来ようとも吸血樹へ阻まれる。だからカノンは気配を感じつつも、安心していた。

 ーーしかし、吸血樹は一瞬にして枯れていった。


「何!?」


 一体や二体ではない。カノンの周囲を囲んでいた百ほどの吸血樹が一斉に枯れたのだ。驚かないわけがない。


「これほどの力……何者だ」


「仕方ないでしょ。私が彼女を救いたいと思ったんだから」


 そう呟き現れたのは、木枯らしの少女ーー花枯れ王女であった。

 彼女の横には白光狼の白丸もいる。


「どうせまた童話の登場人物だろ。面倒だな。お前らは」


 カノンは顔を押さえつつ、怒りの視線を彼女へ向けた。だがそれに怖じ気づくことなく、花枯れ王女はカノンの前に立っている。


「リーフ。大丈夫?」


「ああ……、ありがとう」


 彼女の登場に戸惑いはしていたものの、リーフは立ち上がって花枯れ王女の傍らに立つ。


「私の友達を随分と痛めつけてくれたね。分かっているだろ。どうなるかぐらい」


 花枯れ王女は手をカノンへとかざす。


「さあ始めようか。私の因縁の決着の邪魔者を排除するために」

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