第278話 黒幕登場

 現在、イージスはリーフ村の周辺を捜索していた。だが吸血樹はおらず、そこを早々に後にしていた。

 吸血樹の活動が活発になるには夜のはず。そしてこの事件の首謀者はそれを利用しないはずがない。吸血樹の習性を利用すれば、この島などいかようにも落とせるのだから。

 だがイージスは、未だ一体も吸血樹を見ていない。


「さすがにおかしいな」


 イージスは足を止め、周囲を見渡す。

 気配は感じられない。すぐ近くには吸血樹はいないのだろう。


(いない……それとも木に紛れているのか。夜だから視界がはっきりとせず、見分けがつかない。では一体どこに。早く見つけて倒さなければ、闇裂村にいる住人が……って、まさかそこに)


 イージスは一目散にそこへ走っていた。

 素早く木々の間を駆け抜け、そして闇裂村へたどり着く。

 案の定、そこには吸血樹の群れが集まっていた。巨大吸血樹もそこにはいた。


 イージスがついた頃、ゼロという少年がシーフへと剣を振り下ろす寸前であった。その瞬間にイージスは夕焼けの剣でゼロが振り下ろした朝焼けの剣を受け止めた。


「危ないところだった」


 イージスは息をあげ、ゼロの剣を受け止めていた。

 ゼロはイージスの登場に動揺を見せる。


「邪魔をするな」


「それはこちらの台詞だ。今は君たちに構っている暇はないんだよ」


 イージスは剣を振るい、ゼロの剣を弾いた。力に押されたゼロは、イージスと自身との間に巨大な金属の壁を生成する。


「君、強そうだけど、何者かな?」


「名乗るほどの者じゃないさ。お前たちの目的は何だ?この島を襲って何をするつもりだ」


「皆そういう質問するよね。でも僕は知らないんだよ。本当の目的について。だからさ、今は君を倒すことに専念するよ」


 その時、イージスの頭上からは無数の剣が降り注ぐ。咄嗟に頭上に光の盾を出現させて剣を防いだ。だが剣が降り注ぐ中を、ゼロは駆ける。


「君、厄介だね」


 ゼロはイージスへ剣を振るう。その一撃をかわし、イージスはゼロの体へ剣を振るった。だが体は硬く、剣は体を通らない。


「無駄だよ。僕に物理はーー」


「ーー〈火炎砲カオスメッド〉」


 火炎の一撃がゼロへ目掛けて放たれた。ゼロは右腕を犠牲にし、受け止めた。

 さすがに無傷とはいかず、ゼロの右腕には焦げ跡が残された。


「面倒な相手だ」


 ゼロはイージスを前に積極性を失っていた。


「いいや。僕もそろそろ本気を出そうかな。でなきゃ、カノンにも怒られるし」


「カノン……!?」


 イージスは聞き覚えのある名前に、驚きを隠せない。


「知っているのかい?カノンのことを」


「知っているも何も、世界を世界を狂わせた大罪人だ。そういえば奴だけはまだ捕まっていなかったな」


「彼、罪人なんだ。でもさ、生きていれば皆罪人さ。そこまで恨むことなのかい?」


「恨む?違う。俺は怒っている」


「怒るか。そんな一時期の突発的な感情に君は身を委ねているのか。愚かだね」


「愚かでも、それでも俺は自分が定めた道を進み続ける。だからーー」


 イージスは地を駆け、ゼロへと飛びかかった。


「無駄」


 剣を振り下ろしたイージス、だがその一振りは突如生えた金属の壁に阻まれる。すかさずイージスは壁を蹴り上がり、ゼロへ目掛けて火炎を飛ばす。


「脆い」


 ゼロは拳に金属を纏わせ、その拳で火炎を殴った。火炎は風船が割れるように、弾けて消えた。

 そこイージスは剣を振り上げ、ゼロの頭上から振り下ろす。


「〈鉱樹オルガマリン〉」


 ゼロの横の足元からは、金属が突発的に生えてイージスを飲み込んだ。その金属はまるで木のように生えていき、そして天高くまで伸びた。


「僕は鋼の貴公子。金属魔法の天才さ。君なんていとも容易く、」


「〈絶対守護神盾イージス〉」


 巨大な金属の木はなぜか二つへ枝分かれしていた。枝分かれが始まった場所には、イージスが創造した巨大な盾が出現していた。


「君も面白い魔法を持っているんだね。だけど、周囲に金属があればあるほど僕は強い」


 ゼロは金属の木ーー鉱樹を駆け上がり、イージスのいる場所まで進む。そのイージスへ瞬時に創造した無数の剣を飛ばした。剣はイージスの腕や足を貫いたーーが、それは分身であった。

 背後に潜んでいたイージスは剣を横一線に振るう。


「とどめだ。〈絶対英雄王剣アーサー〉」


 純白の光の一撃がゼロを飲み込む。ゼロは光に飲まれ、吹き飛んだ。

 真夜中に、刹那ではあったものの目映い閃光が島を照らす。


「これでさすがに倒れたか」


 イージスは魔力を消耗し、膝をつく。

 周囲には白煙が立ち込め、視界がおごそかになっていた。徐々に煙は晴れ、周囲の様子がはっきりとなる。

 イージスの前には、ゼロが意識を失って倒れていた。


「お前の野望、阻ませてもらったぞ」


 イージスは剣を松葉杖のようにして地面を突きながら歩き、倒れるゼロの側へと寄った。

 だが直後、周囲には激しい風が巻き起こる。気付けば目の前には謎の男が立っていた。


「ゼロを倒したか。イージス=アーサー、やはり君についてはもう少し研究をしてみたいものだね」


「誰だ」


「カルナ=サン。名士四十一魔法師の一人であり、この島に吸血樹とこの少年を送り込んだだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る