第277話 悲しき人形(ドール)
リーフがカノンへ襲われている頃、闇裂村でも動きがあった。
闇裂村へ吸血樹が出現したのだ。ネザーズとシーフは次々と倒していく。だがそこへ最悪なことに、巨大吸血樹が出現したのだ。
苦難の連続、まるでイージスたちが村からいなくなったタイミングを見計らっての襲撃に、ネザーズとシーフは冷や汗をこぼす。
「ふざけるな。どうしてこのタイミングで」
「シーフ、口を動かすくらいなら手を動かして。考えたところで今はこいつらを倒さないと」
ネザーズは必死に剣を振るう。
だがネザーズの発言に、巨大吸血樹の上から返答が来た。
「倒す?まさか吸血樹を倒そうとしているのかい?」
そこにはネザーズが会った時とは別の者がそこには座っていた。
ネザーズが昼間に会った時はもう少し歳をとっていた男が座っていたはずだが、そこから姿を現したのは幼い少年。
「ねえ、そういうのを何て言うか知ってる?」
その少年は両手を合わせると、電撃が両手の間から溢れ出る。両手を広げるとともにそこからは青色と橙色の、まるで朝焼けのような彩飾が施された剣が創造された。
「
少年はその剣を手にし、ネザーズへ向ける。
「"朝焼けの剣"。これが僕の最強の武器さ」
「お前が何者であれ、この村はお前たちには歩ませない」
ネザーズは、自らが握る黄紫色の剣に毒気と冷気を纏わせた。
「くらえ」
ネザーズは素早く大地を疾走し、真正面から謎の少年へと突撃を仕掛けた。少年の懐へと入った瞬間、剣を何度も少年へ振るった。
ーーだが、剣は少年の体には効かなかった。
「言わなかった。
少年の喉元へ突き刺されたネザーズの剣であったが、その剣が少年の体を貫通することはなかった。まるで機械のように硬く、刃が通ることはない。
動揺するネザーズ目掛け、少年は剣を振るう。何とか剣で攻撃を受け止めたものの、体勢を崩して地を転がった。
「無駄無駄。君たちがどれだけ頑張っても、僕には勝てない」
少年は剣を肩に担ぎ、倒れるネザーズへ近づいて腰を落とした。そして顔を近づけ、言う。
「ねえ。君は僕よりも歳上だろ。だったら僕と結婚してよ。僕は歳上の女性が大好きだからね」
少年は笑みを浮かべ、ネザーズの顔を見ながら言った。
ネザーズは既に二十歳は越えている。それに対し、その少年の容姿はお世辞にも二十歳を越えているとは思えない。それほどに幼い容姿。
そもそも今は戦闘の最中、そこで冗談を言うなどあり得ないことだ。
その少年へと危機感やそれ以上の何かを抱いたネザーズは、大地を蹴ってその少年から距離を取った。
「おいおい逃げないでくれよ」
「お前は何者だ」
「あ、僕と結婚することを前提にお付き合いを考えてくれるのかい。僕のことなんて何でも教えてあげるよ」
話が噛み合っていないことに少年は気付いていない。
少年は平然と自己紹介を始める。
「僕はゼロ=アーティファクト。アーティファクトシリーズのひとつ。僕につけられた異名は"鋼の貴公子"。僕は金属系の魔法に特化していてね、さっきみたいに剣を意のままに造り出せる」
「それで、ここへ来た目的は何だ?」
「
「それは誰だ」
「言えるわけないでしょ。それはさすがに婚約者の君にも話せないことなんだ。だから黙秘させてもらうよ」
「ならお前がどうしてもここを襲う目的はないんだな」
「まあそうだけどさ、その人の命令に逆らうのは嫌だし。お世話になったからさ。だから従わないといけないんだよね。血を集めなきゃ」
「ふざけるな。そのためだけにこの村の人々は犠牲にならなければいけないのか」
「進化に犠牲は付き物だ。だからこの犠牲を期に進化すれば良いじゃないか。だって君たち全員、下等種族なのだから」
「貴様ぁぁあぁぁあああああ」
ネザーズは怒り、ゼロへ目掛けて剣を振るう。
「だから無駄だって」
ネザーズの剣はゼロの首へ当たる。だが首を斬ることはない。その剣が纏っている冷気も毒気も効かない。
ゼロはそれが分かっているからこそ、微動だにしなかった。
「君、名前教えてよ」
「なぜお前なんかに」
「さてはツンデレだな。仕方ないな。こういう時は男が先導するって僕の中の情報にも記されているしね。じゃあ、」
ゼロは大きく足を一歩踏み出し、地面を粉砕した。足場を崩したゼロにより、ネザーズは足を崩す。そこでネザーズの両腕を掴み、ゼロはネザーズを地面へ押し倒した。
「捕まえたよ。ネザーズ」
ゼロはネザーズを直視するも、顔を見ないようにとネザーズは目を逸らしていた。
「恥ずかしがらなくて良いよ。僕の嫁になるんだから」
シーフはゼロへ向けて矢を放つ。だがゼロは矢が止まっているように見えたのか、冷静にその矢を人差し指と中指で挟んで掴んだ。
「僕の嫁に当たったらどうする」
ゼロの視線は一瞬にして鋭く、恐ろしいものとなった。それに怯え、シーフはしりもちをつく。
これほどまでに恐ろしい者がいるのかと。
ゼロは矢を捨てた後、シーフへ手を向けた。その瞬間、何をされるのかシーフは悟った様子だった。
それはネザーズも同じことで、悟ったからこそゼロへ言う。
「やめて。彼には手を出さないで」
「駄目だ。あの少年は僕たちの仲を邪魔したんだ。殺さないと」
「私は気にしていないから。だからシーフを殺さないで」
ゼロへすがりつくように、ネザーズは言った。
そこまでやられると、ゼロはシーフへの攻撃を躊躇い、そして腕を下ろした。
「分かったよ」
「ねえゼロ。私はあなたの嫁になる。だからどうか、この島から退いてくれない」
「それはできない」
「お願い。何でもするから」
「何でもか。それは困ったな。それではまるで奴隷みたいじゃないか。そういうのはさ、夫婦とは呼べないだろ」
「でも……」
「分かった。じゃあこの島から手を退くよ」
それを聞くと、ネザーズは笑みを浮かべた。その笑みを見て戸惑うも、ゼロはネザーズを魔法により眠らせた。
「すまないな。これから僕は嘘つきになる。だからそれまで、どうか起きないでくれ。愛しき愛しき美しき天使よ」
悲しげな顔でゼロはネザーズを見て呟いた。
「シーフ、君は殺さない。だから教えてほしい。彼女の名前を」
「僕は……」
「教えてくれないのか。なら殺すけど、それは彼女は望んでいない。どうする?彼女の名前を教えずに君が死に、彼女の心に永遠の傷を残すか、それとも彼女の名を教え、平和的に解決するか」
シーフは悩んだ。
悩んだ末、彼は自らの選択に答えを出したーー
「言えない。僕からは、彼女の名前は教えれない」
「そうか。ならーー」
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