第276話 大罪人の陰謀

 木枯し村へと向かっていたイージスたちは、その村へ着くなりそこで起きた惨状を目の当たりにする。

 吸血樹が何体か倒れており、血が周囲には飛び散っている。そこからそこで起きた惨劇を想像するには容易であった。


「吸血樹と誰かが戦っていたみたいだ」


「あそこに誰か倒れています」


 リーフは倒れている女性を見つけ、すぐさま彼女のもとへと駆け寄った。

 血を流しているものの、まだ意識はあった。アズールはすぐに治癒魔法を施し、彼女の傷を癒した。


「……こ、ここは……」


 アズールの治癒魔法をかけられた女性は目を開けた。


「起きたか。ここで何があったか覚えているか?」


「ここで……。そういえば、吸血樹、吸血樹がまだどこかに」


 彼女は慌てたように周囲を見渡した。だが既に吸血樹は姿を消していた。どこにも吸血樹がいないことに彼女は悪い考えを抱いた。


「まずい……」


「何があったか教えてくれるか?」


「ああ。私はこの村の守人、ネザーズ=ロザリア。突然この村をあの吸血樹とかいうモンスターが襲ってきたんだ。私は吸血樹を足止めし、その間にシーフという仲間に逃げ遅れた村人の避難を頼んだ。

 その後だった。ひときわ巨大な吸血樹が現れて、私の前に現れた。そのモンスターの上には人間が座っていた。顔は見えなかったが、どうやら血を求めているようだった。何のためかは分からないが。

 私が知っているのはそこまでだ。で、あんたらは何者なんだ?」


「私たちはこの童話島にあるリーフ村から来た。この村に吸血樹が出現したという報告を受け、ここへ来た次第だ」


「ならすぐにシーフとともに逃げた村人を追ってくれ。恐らく奴はそこを狙うはずだから」


 ネザーズはアズールの手を掴み、皆へ訴えかけた。

 イージスは頷き、遠くへと視線を向けた。その方角には吸血樹に襲われているシーフの姿が、それをイージスは魔法によって視認していた。


「そこか」


 イージスがその方角を指差した。その瞬間、アニーは転移魔法を発動させた。

 転移した瞬間、シーフは吸血樹によって額を貫かれる寸前であった。そこへイージスが剣を振るい、吸血樹を斬り裂いた。


「伐採」


 吸血樹の一体が斬られ、次にアニーは吸血樹を燃やし、リーフは腰に差していた刀で吸血樹を真っ二つに斬る。

 シーフを襲っていた吸血樹は全て消失した。


「君がシーフか。大丈夫か?」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 イージスたちに救われ、木枯し村の人々は吸血樹からの襲撃を逃れた。闇裂村へ避難した人々は休息を取り、シーフとネザーズはイージスたちに呼び出されていた。


「私たちを呼んだ理由は?」


 ネザーズとシーフが呼び出された場所には、イージスだけでなくアニーやリーフ、リーファやアズールが集められていた。

 アズールはネザーズの問いに答える。


「ネザーズ、シーフ。二人は吸血樹の襲撃から村人を守ったそうじゃないか。だから引き続き、村人の守備を君たちへ任せたい」


「ああ。そのつもりだが、どこかへ行くのか?」


「ネザーズは言っていたよな。巨大吸血樹と謎の男の存在を。この二つは未だ見つかっていない。つまりこの二つの問題が見つかるまで、この島に平穏は訪れることはない」


「では彼らを探しに行くのか?」


「その通り。だからそれまでの間、ここ闇裂村で村人を守ってほしい」


「了解だ。私とシーフに任せておけ」


 ネザーズはシーフの胸を叩いてそう言った。


「では今晩中に作戦を開始する。警備は任せた」


 まだ太陽が出る気配のない真夜中に、イージスたちは密かに動き出していた。

 吸血樹が動くとすれば夜。

 そもそも吸血樹は生物から血を吸い、成長するモンスター。基本は夜行性であり、朝や昼間に姿を現すのは珍しい。操られていると仮定すれば、その謎へ解を与えられる。


「皆、今夜中に巨大吸血樹とそれらを操る者を見つけるぞ。既に島の周囲はゴブリンやその他モンスターたちに包囲させている。今しかチャンスはない。行くぞ」


 イージスたちはそれぞれ別々に動き、木枯し村や闇裂村の周囲を中心に巨大吸血樹たちを捜索する。

 その内の一人、リーフは暗黒狼である黒丸の背中に乗り、木枯し村から少し離れた桃神村周辺を捜索していた。


 吸血樹はまるで木そのものだ。普通の木と見分けがつかないこともある。それが夜ともなれば尚更。

 リーフは警戒心を強めながら森を進み、抜けようとしたその時、


「来たか。やれ」


 その指示とともに、リーフを囲むように一斉に吸血樹が姿を現した。それらは全て森に木となって完全に同化していた吸血樹だ。


「まずい。早くしらせないと……」


 笛を吹こうとしたリーフの腕を、一発の銃弾が射抜いた。リーフは笛を落とし、さらにその笛へ銃弾が放たれた。


「笛が……」


 笛は破壊され、イージスたちへ連絡する手段が途絶えた。

 ひとまずここから離れようとするも、リーフの体には痺れが走る。


「魔法具、電撃弾丸パラライズブレッド。やはりボクの魔法具は万能だね」


 そう呟いてリーフの前に姿を現したのは、既に消えた五神の直属の兵ーー十六司教の一人、カノン=ギルティであった。


「何者だ。お前は」


「ボクは大罪人。この童話島で研究をさせてもらうよ」

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