第275話 木枯し村襲撃

 木枯し村。

 そこでは現在吸血樹というモンスターが人々を襲っていた。

 木のような見た目をしたモンスター、吸血樹は根を伸ばし、枝を伸ばして人々を襲う。

 だが人を襲う根は斬離された。ひと振りにされた剣、それの持ち主はその村の守人ーーネザーズ=ロザリア。

 彼女は剣を振るい、無数にいる吸血樹を次々と斬り裂いていく。


「ここは私に任せて。まだここにいる村人はシーフ、君に任せたよ」


 シーフ=ホーム。魔法狩人。

 村人を託された彼は、弓を握って覚悟を決める。


「村人の皆さん、僕についてきてください」


 シーフは避難し遅れた村人を率い、すぐ近くにある闇裂村へと向かっていた。

 シーフたちが村人を避難させたのを確認すると、ネザーズは剣を握り直し、その剣に毒気を混じらせる冷気を纏わせた。


「さて、これで思う存分戦える。毒と冷気のフルコンボ、我が剣の一撃をくらえ」


 視界にいる吸血樹だけでも二十、その後ろにも吸血樹はまだまだいるのだ。無数の吸血樹を前に、ネザーズは剣を構える。


「凍てつけ。毒牙の刃」


 ネザーズは剣を振るう。その一撃が吸血樹の体を凍りつかせた。完全に凍りつき、吸血樹は身動きを取れなくなる。そこへ毒牙追い討ちをかけ、吸血樹は死滅する。

 冷気による束縛、そこで毒による決定的な一撃、それにより無数にいた吸血樹は枯れていく。


「これでもまだ限りが見えない。まだいるのか……」


 ネザーズは息を荒くし、剣を地面に突き刺して膝をつく。

 毒魔法と氷魔法、二つの魔法の同時使用に、魔力も底を尽きようとしていた。体力も限界が近づき、剣を握る手に力が入らない。


 まだ倒れない彼を見て、ひときわ大きな吸血樹がネザーズのもとへと歩み寄ってくる。徐々に近づいてくるその吸血樹に、ネザーズは絶望を抱く。

 薄れ行く力を振り絞り、剣を強く握りしめて吸血樹へと構えた。

 剣に冷気と毒気を纏わせた瞬間、巨大な吸血樹の頭上から声がする。


「とどめを刺せ」


「まさか人がーー」


 ーー直後、巨大吸血樹の根が地面を突き破って出現し、ネザーズを腹部から殴り飛ばす。

 ネザーズは激しく地を転がり、地面に横たわった。


「なんだ……強い…………」


 ネザーズは倒れ、意識を喪失させた。

 倒れたネザーズの前に、一人の男が降り立った。


「早く帰らないとカルナに怒られるな。とりあえず血を集めないと。儀式を完遂させるためにも」


 ネザーズの体には巨大な吸血樹の根が突き刺さる。その根はネザーズかた血を吸い取っている。

 それだけではない。無数にいた吸血樹たちが巨大吸血樹へと集まり、根を巨大吸血樹から刺され、血を吸い取られていた。


「まだ花は咲かないか。血はまだまだ必要そうだね」


 男はそう呟き、ため息を吐く。


「確か向こうの方に逃げていったっけ。確かそこには、闇裂村があったっけ。じゃあそこから血を奪うとするか。


 花はまだ咲かない。

 それに彼はため息をこぼす。

 花が咲くまで彼は血の採取をやめることはないだろう。


「そういえばまだ闇裂村に避難しようとしている村人がいたっけ。奴らから血を頂くとするか」


 男はそう決めると、吸血樹を率いて急ぎ彼らを追う。

 追われているとも知らず、シーフは村人を率いて闇裂村へと急ぐ。だがその行く手には吸血樹が五体ほど待ち構えていた。


「五体も……。だがやらなければ」


 シーフは汗ばむ手で弓を握り、矢をつがえて吸血樹へと放つ。だがその攻撃はまるで効かず、吸血樹は地面から生やした根でシーフへ打撃を与えた。

 その一撃にシーフは倒れた。弓を手放し、そこへ吸血樹の根が横たわるシーフの背中から突き刺された。

 シーフは血を吐き、意識を朦朧とさせる。血を吸血樹へ吸われる。

 村人たちはただ脅え、何もできずにいた。そこへ吸血樹たちは歩みを進める。村人の一人を襲おうとした瞬間、吸血樹の体は上部と下部に真っ二つに斬り裂かれた。


「させるものか」


 斬られた吸血樹の背後には、血を流しながらも剣を構えるシーフの姿があった。


「ロザリアから託されたんだ。村人を守ってくれと……。だから僕は、負けない」


 シーフは立ち上がる。

 一体の吸血樹が斬られたことで、他の吸血樹は皆シーフへと進む。

 

「かかってこい。お前たちは僕が倒す」


 ロザリアより託された使命を全うするため、シーフは命がけで剣を振るう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る