第273話 強くなったな

 黒い脈を纏うアーカイブ、それに対抗するは、まだ若き魔法使いのイージスとアニー。

 二人は身体速度を上昇させる魔法を使った。


「アニー、行くぞ」


「ああ」


 イージスとアニーはアーカイブを挟み込むようにして駆け抜ける。そして側面へ来た瞬間、イージスとアニーはアーカイブへ手をかざす。


「「風属性原始魔法壱二〈重風ドドンパ〉」」


 重たい風がアーカイブへと吹き荒れる。だがその風を受けたが、アーカイブは微動だにしない。腕のひと振りで風を払い、イージスへと足を進めた。

 拳を強く握りしめ、イージスの腹へ拳を振るう。拳が当たった瞬間、アーカイブは感じた。


「これは……甲殻類の虫の殻か」


 虫属性原始魔法参二〈甲殻鎧カブト

 自身の体を甲殻で覆う。その鎧は銃弾を砕くほどの頑丈さを有する。


 だがイージスの腹部を覆っていた甲殻は砕け、体の内側まで衝撃を走らせた。

 吹き飛ぶ寸前にアーカイブの顔へ蹴りを入れるが、腕で防がれた。


(まだ俺の固有魔法には気付かぬか。まあ、当たり前か)


 イージスとアニーの攻撃に、アーカイブは無傷のまま攻撃を受け続けた。さすがに何か違和感を感じ、イージスとアニーは動きを止めた。


「おや。止まって考えさせると思うなよ」


 アーカイブはイージスとアニーへ駆け寄り、拳を振り下ろす。黒い禍々しいオーラを纏った拳を避け続けるも、全てを避けきることはできない。

 魔法を何度も放ちはしたものの、アーカイブの前には無力。


「魔法が効かない……なるほど。あなたの固有魔法は魔法を遮断する、もしくはそれに近しい能力か」


「さすがに気付いたか。だがどうする?俺にどう勝つ?」


「勝つ手段ならあるさ。まだ奥の手が残っているからな」


 その時、アニーは両手を地面につけた。


「土属性原始魔法壱二〈大穴クラッシュ〉」


 アーカイブの立っている地面には大きな穴が空き、そこへアーカイブは落ちた。それと同時、イージスは地面を崩壊させ、土の中にアーカイブを生き埋めにしようよ目論んだ。

 地面は崩れ、アーカイブは埋める。

 死んでしまっただろうか、そんな不安は彼らの胸中にはなかった。なぜならアーカイブはーー


「危ないところだった」


 アーカイブは平然と背後から現れた。

 ーーアーカイブがこの結界へ入ってきた時、それは結界内部に亀裂が入り、それによってできた穴からアーカイブは出てきた。

 そして今回も同じようなことをし、穴からアーカイブは出てきたのだろう。


「異次元の使用。これが俺の固有魔法だ。応用をすれば、魔法を遮断したり空間に亀裂を入れることも可能だ」


「…………」


「作戦は失敗、もう策がない。勝てない、だろ。見え見えさ。だからいい加減諦めろ。本気の俺に、九頭竜の一人である俺にはかなわない」


 アーカイブは余裕綽々とそう宣言してみせた。

 アーカイブは無傷、対してイージスとアニーはアーカイブによって怪我を負っている。明らかに次元が違う。

 追い込まれた状況下で、イージスはひらめいた。


「なるほど。アーカイブ教頭のその魔法、ひとつ欠点がありますね。明確な欠点が」


「欠点?さあ、それはどうかな」


「あなたが纏っている黒く禍々しいオーラは次元を分断するものでしょう。そしてそれがあるせいで魔法があなたへ届かない」


「ああ。子供でも分かることだ。それがどうかしたか?」


「いえいえ。そうは言っても、既に俺の魔法はあなたに届いている」


「魔法が?理解に苦しむよ」


「届いていますよ。あなたを殺す必殺の刃となって、あなたのその耳元へ」


 イージスは指を鳴らす。瞬間、響いた音が周囲へと届いた。その音を聞いたアーカイブは全身が痺れたように全身を震わし、倒れた。


「まさか……」


「できないか、それとも意図的にしていなかったかは分かりませんが、あなたは耳だけは異次元で覆わなかった。つまり音属性の魔法ならば届く、ということです。

 音属性原始魔法壱五〈痺音パライヤー〉、この音を聞いた者を痺れさせる」


 アーカイブは全身が痺れ、動けないまま。

 なんとか口だけは動かせるらしく、苦しみながらも喋り始めた。


「できない、ではないだ。ただしなかっただけだ。だがそれを見破られるとは、俺もまだまだだ」


「強かったよ、教頭。あなたはまた本気を出さなかった。それ故、俺はまだ本気のあなたには勝ったことはない。いずれ本気のあなたと戦ってみたいものです」


「俺はもうこりごりだ。ひとまず、これで終了だ。俺からの修行は」

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