第272話 始まる戦闘

 ノーレンスにより原始魔法の修行を受けているイージスとアニー。


「イージス、アニー。もうへばったのか。まだまだ修行は始まったばかりだぞ」


 そう言うノーレンスの前に、イージスとアニーは息を荒くして手を地面についていた。

 ノーレンスの創り出した固有結界は荒野のようだ。周囲には障害物や視界を遮断するするような建造物もない。魔法の練習には打ってこいの絶好の空間だ。


「で、既に三時間は経っているが魔法の習得具合はどうだ?」


「一応、五十個ほど魔法は覚えましたが、熟練度がまだまだです。使いこなすのはどれも難しいです」


「まあそうだな。少し焦りすぎた」


 ノーレンスは疲れている二人を見て考え直す。

 三時間で五十もの魔法を覚えること自体凄いことであるが、魔法を浅く覚えるよりも、広く深く覚えた方が実践では使いこなせる。


「さて、どうしたものか」


 悩むノーレンスは気付く。

 結界内に突如出現したひび割れた穴、そこから出てきたのはアーカイブ=システイム教頭、九頭竜の一人だ。


「アーカイブ。どうかしたか?」


「ノーレンス理事長へお客様がいらっしゃっております。マリアンヌと言えば分かると言っていましたが」


 イージスとアニーへ聞かれぬよう、アーカイブはノーレンスの耳元へ呟いた。


「来てくれたか。待たせるのは悪いし、だからといって二人の修行を中断するわけにも……」


 そこでノーレンスはアーカイブを見て思った。


「アーカイブ。暇なら二人の修行に付き合ってくれ。今原始魔法を教えていたところだ。その魔法の練習相手をしてくれないか?」


「またですか。一度彼らには負けているので、あまり乗り気はしないのですが。だからこの二人、トラウマなんですよ」


「まあ良いじゃないか。リベンジマッチ、してみたらどうだ」


 そう言うと、ノーレンスはその場から去っていく。

 アーカイブはイージスとアニーの前に取り残された。こうなったらやるべきことはひとつ。


「さあ来い。再び相手をしてやろう。この、アーカイブが」


 アーカイブは両腕に黒い脈を走らせる。その脈は頬辺りまで侵食し、そしてアーカイブは黒いオーラを纏っている。それは禍々しく、恐ろしいものであった。

 前回戦った時は纏っていなかったような黒い脈、それを見てイージスは言う。


「アーカイブ理事長。まさかとは思いますが、本気、出していなかったのですか?」


「ノーコメントで。ではリベンジマッチを始めよう。九頭竜の本気を舐めるなよ」


 アーカイブは両手を打ち付け、戦意をむき出しにした。

 アーカイブが纏う黒い邪気に、イージスとアニーは身構えた。前回のように簡単には倒せはしない、そう悟ったからだ。

 イージスは夕焼けの剣を取り出しはせず、まずは自身に魔法を付与する。


 無属性原始魔法壱四〈速化ソニック

 付与した者の速度を上昇させる。


 アニーもその魔法を自身へと付与した。

 魔法を付与した二人へ怯まず、アーカイブは言う。


「俺の本気をご覧あれ。まだ駆け出しの魔法使いども」

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