九頭竜修行編

第271話 アノの心に空いたページ

 後日、魔女教の本堂にてイージスは『鍵』であるグラン=シャリオと会う。


「イージス、シャリオを頼むぞ」


「はい。護ってみせます」


 グラン=グリモワールの期待を受け、イージスはシャリオを連れ、ノーレンスのもとへと向かった。

 アニー、カーマ、スフィアを連れた一行は、ノーレンスとともに名門ヴァルハラ学園へと戻ってきた。


「ではスフィア、グラン、二人はこれより名門ヴァルハラ学園の敷地内で預かる。ここならば安全だ。だが〈魔法師〉殲滅の作戦を始めるまで、この学園の敷地から出ないでくれ」


「了解っす」


「はーい」


 スフィアとグランは名門ヴァルハラ学園により、厳重な警備のもとで護衛されることとなった。


「これでひとまずは大丈夫か。だが『鍵』があとどれだけいるのかが分からない以上、探すのは困難だな。イージス、アニー、二人は特定の魔法に固執しすぎている。だから修行をするぞ」


 ノーレンスへ連れられ、イージスとアニーは修行することとなった。

 そのため、二人はノーレンスの創り出した固有結界の中へと移動させられた。

 スフィアとシャリオはカーマへ連れられ、学園内を案内される。

 その頃、ノーレンスの結界内にいるイージスとアニーは、ノーレンスによる修行が始まろうとしていた。


「修行ですか?」


「ああ。だってイージスは〈絶対英雄王剣アーサー〉と〈絶対守護神盾イージス〉に、アニーは転移魔法に頼りすぎだ。まあしばらく五神の一件で魔法を教えられていなかったのもあるが。

 だからこれより二人へ原始魔法を叩き込む。現在原始魔法の属性は十二存在している。火、水、風、氷、雷、光、木、土、虫、音、毒、無属性。これらの魔法それぞれ百個を全て叩き込む」


「百と十二で百二十もあるんですよ。それを全てですか!?」


 驚くのも無理はない。

 そもそも魔法をひとつ習得するのだってそう簡単な話ではないのだ。

 だがノーレンスは虚言を吐きはしない。


「断固、叩き込む。これから大きな戦いが始まる。それに備え、二人には魔法を駆使し、を倒してもらう」


「我々……?」


「ああ。理事長と九人の教師ーー九頭竜、我々を倒した暁には、二人には条件無しで成績を全て最高評価にしよう」


 理事長兼魔法聖ーーノーレンス=アーノルド、ならびに名門ヴァルハラ学園創立時から存在している九人の教師ーー九頭竜、彼らを倒す。

 それは容易いことではない。


「では始めよう。修行の始まりだ」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 名門ヴァルハラ学園学生寮。

 そこのイージスたちの住まう一室では、アノという少年とブックが話をしていた。


「アノ。君はやはりアンノウン=クロノスタシスの欠片で間違いない。この書には嘘偽りが書かれることはない。つまり真実であることは間違いないだろう」


「そうなんだ。じゃあ僕は……人間じゃないの?」


 アノは悲しそうな視線をブックへと向ける。それにはブックも返答に困る。


「ブック。どうかしたの?」


 そこへ魔法職である魔法武者の仕事を終えたスカレアが、顔を見合わせ困っているブックとアノを見てさらに困惑している。

 困惑と困惑が渋滞し、困惑の大名行列状態。


「スカレア。ブックはアノから自分が人間か訊かれて困っているんだよ」


「なるほど。そういうことか」


「アノは人間になりたいのか?」


「人間……分からないの。僕は分からないの。何か知りたいの。だけどその知りたいことが分からないの」


 アノはアンノウンの欠片のようなもの。

 人間と言えるかは曖昧な存在であった。彼は人間か、それともそのままアンノウンの欠片と言えば良いのだろうか。

 彼の心にはその答えがない。解答用紙は白紙のまま、そこには間違いである解答も書かれておらず、白紙のまま。まだ答えはない。それが間違いであれ正解であれ、答えは書かれていないままだ。

 その空白にアノは心をどよめかせたまま。落ち着かない心に彼は不思議な感覚を味わう。心を知るまでは。

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