第267話 彼は現れた

 二日目の攻防戦。

 真夜中の戦闘、皆配置につき、今度こそはペインを捕らえようとしていた。イージスとアニー、ハンゾウは魔女教本堂の屋根に立っている。

 リコリス両腕の関節を黄金に変えられたため、本堂の中で守備をする。


「もうすぐ時間だ。警戒せよ」


 今度こそペインを捕まえる、ハンゾウはそう固い決心を刻み、片腕のみで刀を構える。

 静寂が真夜中に流れる。ここにピアノの伴奏でも流れたら美しいハーモニーが奏でられるのではないか、そんな気すらも起こしてしまいそうな美しい夜。

 そこへ昨夜同様、足音が響き渡る。コンコンと高く響く靴の音、それとともに白マント姿の男ーーペインがイージスたちの前に姿を現した。


 ハンゾウはペインへと刀を向ける。


「まさか正面から来てくれるとはな。ペイン」


「当たり前だろ。君たちがこの私に勝てるはずがないのですから」


「昨日は散々怪我を負わされたくせにな」


「君はもう左腕が上がらない。だからいい加減諦めなよ。私の魔法と錬金術に君が敵うわけないだろ」


 ペインは煽るようにハンゾウへ強気の態度を見せた。だが反撃できないのも無理はない。ハンゾウは左腕が上がらず、足もまともに動かない。それでも動けているのが奇跡だろう。


「まずは君から黄金へ変えるよ」


「黄金に?残念ながら、それはできない」


 ペインの背後へアニーの瞬間移動で回り込んだイージスは剣を振り下ろす。だがペインは消える。その後には弾丸が屋根を転がった。


「転移魔法。こんなあっさり使うんだね。エリア」


 アニーは自らを瞬間移動させた。その頃、エリアの転移魔法によって移動したペインはハンゾウの懐へ忍び込んでいた。

 だがハンゾウは影に吸い込まれるように消えた。


「今だ」


 ハンゾウがそう叫んだ時、既にイージスの剣には純白の光が纏われていた。


「〈絶対英雄王剣アーサー〉」


 イージスは勢いよく剣を振るう。だがその瞬間、イージスの剣は動きを止めた。

 イージスは自分の体が動かないことに違和感を覚えた。すぐにその答の正体を予測したイージスは、恐る恐る腕へ視線を向けた。

 黄金へ変えられた腕、それによって腕が動かなくなっていた。腕だけではない、足や体も黄金へ変えられている。


「触れられていないはず……」


「確かに触れられてはいない。けど私は魔法錬金術という術を持っていることをお忘れか?魔法錬金術は魔法を錬金する。そして君は今魔法での一撃を撃とうとした。純白の光は君の体へ纏わりついている。つまりさ、黄金に染まれ」


 イージスの全身は黄金に染められた。身動きひとつ取れず、イージスは敗れた。


「呆気ないな、君たちは。それで私に勝てると思ったのかな?」


 ペインは笑みを浮かべ、ハンゾウへ見下すように視線を向けた。

 ハンゾウは刀を鞘に納め、膝をついた。絶望したのだ。そんな彼へペインは手を伸ばす。


「大丈夫。君もすぐに後を追えるから」


 ペインがハンゾウへ手を伸ばした瞬間、ペインの手は火炎を纏う矢によって撃ち抜かれた。すぐに魔法錬金術で火炎を水へ変えたものの、手には風穴は空いていないものの、火傷痕が残っている。

 ペインは手を押さえながら、矢が飛んできた方向、つまりは空を睨んだ。


「誰だ」


「駄目だよ。まだ作戦は始まったばかりなんだから。簡単には彼を殺さないでくれよ」


 空に浮かぶは一人の魔法使い。彼を見たペインはさすがに危機感を覚えた。


「どうしてここに君がいる!?魔法聖、ノーレンス=アーノルド」


「すまないね。周辺の警戒にすぐに戻らなくてはいけない。一分で片をつけさせてもらうよ」


 ノーレンスは強者の風格でそう宣言した。

 圧倒的強者を前に、ペインは臆することなく彼を見上げた。だが到底、彼を倒せるビジョンは浮かばない。


「こうなったら投げやりで行こうか。魔法錬金術時間ショー・タイム、魔法錬金術の限界を越えた力を見せてやる」



 ーーまあ、すぐに逃げられるから良いけどさ。

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