第266話 作戦会議
その日の晩、黄金へ変えられた人が魔女教の本堂へと運ばれていった。まだ死んではいない。その希望を持って、魔女教が崇める魔女ーーアブソリューラーの下で厳重に避難させている。
次の日の朝、魔女教の本堂にはハンゾウやリコリス、イージスたちが揃い、作戦を考えていた。
「今回ので確信した。やはり奴には瞬間移動系の魔法を使える仲間がいる。その者の名はエリア」
「まずはエリアをどうにかしなければ、また昨晩のように簡単に逃げられてしまう。それだけは避けたい」
「ああ。それには同意見だ。だがペインを追い込もうにも、もう俺は戦えない」
ハンゾウは悔しそうにそう言った。彼へイージスは問う。
「そういえば昨晩、ペインに背中を触れられていましたね。それが関係しているのですか?」
「いや、昨晩だけではない。拙者はこれまでに何度も奴と戦っている。その度に拙者は奴に少しずつ体を黄金へと塗り替えられている。昨日ので左肩を侵食していた黄金が広がり、もう左腕は上がらない」
ハンゾウは強く腕を押さえ、悔しさを滲ませていた。
「早く奴を倒さないと……」
ハンゾウたちは策を練る。だがそう簡単にペインを打倒する作戦が思い付くはずもない。
その時、昨晩の戦闘を思い返していたイージスはペインについて不審な点に気付く。
「もしかしたらなんだが、俺が考えている考察が事実だった場合、ペインを倒せるかもしれない」
「倒す!?」
「ああ。昨晩の戦いで、ペインは
だがハンゾウが来た瞬間、その固有魔法を解除した。ハンゾウの戦闘を思い返してみると、ハンゾウは一切魔法を使わず、刀のみでの戦闘を行っていた。解除した後、すぐに魔法を使った。つまり固有魔法を発動している際は、魔法錬金術以外は使えない、という可能性が高い」
「だとすれば……」
「だがそれがわかったところで、奴を倒せるわけじゃない。そもそも魔法錬金術が何か分からない限りは」
ハンゾウが話している最中、イージスは言う。
「魔法錬金術についてはヴァルハラ学園で学んだことがあります。魔法錬金術、それは魔法が干渉しているものの性質などを自由自在に変化させる術」
「では魔法がない限りは、諸刃の剣ということか」
「そうでしょう。つまり固有魔法を発動させ、そこで魔法なしの戦闘を行う」
「だがそんな状況になれば誰だってそんな固有魔法は解除する。それでは浅はかだ。それに追い込まれれば奴は仲間の転移系の魔法で逃亡する」
ハンゾウの言う通りだ。
ペインには執拗に策を用意してある。逃げるための策、勝利するための策、他にも無数の策を彼は用意している。そんな彼を倒すにはそれを上回るような策がなければ。
「ペインの仲間のエリアに関しては私に任せて欲しい」
そう言ったのはアニーだ。
「君が?」
「私は転移魔法に関しては知識がある。それと前回の転移を見ていた限りでは、あれは射撃系の転移魔法。ペインが転移した際に弾丸が落ちていたから間違いないと思う」
「エリアは倒せるか」
「多分、いける」
「エリアさえ仕留めれば、ペインに逃げられることはない。今日こそ奴を仕留めるぞ」
作戦会議が終了すると、そこへグリモワールとシャリオが姿を現した。
「もしかしてペイン対策の作戦会議中だった?」
「丁度終わったところだ。で、何のようだ?」
ハンゾウの鋭い視線にも怯むことなく、グリモワールは笑みを見せながら言う。
「実はイージスに用があったんだけど、それはペイン討伐の作戦が終わってからの方が良いかな?」
「はい。今晩こそペインを確保しますので、それまで例の件は保留でお願いします」
「了解。ところでまたペインを逃したの?」
その発言に、ハンゾウは苛立ち、怒りの視線をグリモワールへと向けた。
「グリモワール、お前は元十六司教だろ。ペインすらも倒せる力を持っている。なのに何故協力してくれない?」
「俺が戦う理由はもうなくなった。だから後は全て君たちへ任せるよ」
「引退ってやつか。まあ良い。今回こそペインは捕まえる」
「頑張ってね。名士四十一魔法師にも選ばれているんだから」
「随分と上からだな。拙者の権限でお前を捕まえることもできるんだぞ」
「それは困る。せっかく戻れたのに。ハンゾウ、俺も協力したいけど、頑張ってくれ。俺はもう戦う理由がないからさ」
そう言い、グリモワールとシャリオは去っていく。
ハンゾウは舌打ちをし、魔女教本堂の地下へと去っていく。そこに足を運んだハンゾウは、並べられた黄金の人の中から、ある少女の前で足を止めた。
「ランマル。必ずお前を救い出す。だからそれまで待っていてくれ」
彼は誓う。
一度失った彼女を、取り戻すために。
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