第265話 ハンゾウの誓い

魔法錬金術時間ショー・タイム。この時間になれば私は魔力を消費せずとも魔法錬金術を使用可能になる。ただしこの時間の間、私は魔法を使えず、錬金術も使えない。使えるのは魔法錬金術のみ」


「魔法錬金術……。そんな得たいの知れないものよりも、魔法か錬金術の方がまだましだ」


 イージスはペインを前に、緊張感を感じていた。

 アニーは関節を黄金へ変えられたリコリスを救出し、屋根の端に避難させた。


「魔法錬金術、見せてあげよう。少年よ」


 ペインは両手を重ね合わせると、イージスへ視線を向けた。睨み付けるような視線にイージスは警戒し、魔方陣から剣を取り出す。


「さあ来い」


 イージスは剣を構えて足を下げた。

 その瞬間、背後より近づいていたハンゾウが背中に下げていた二本の刀を抜き、ペインへ向けて振り下ろす。刀は見事にペインの背中へ傷をつけた。


「ぐふっ。……エリアぁぁぁああ」


 そう叫んだ瞬間、ペインはハンゾウの背後へ移動していた。


魔法錬金術時間ショー・タイムは解除だ」


 ペインはハンゾウの背中へ手を当てるとともに、段々と体が黄金へと変わっていく。ハンゾウはすぐにペインを蹴り飛ばし、距離を取る。


「ハンゾウ、俺も戦います」


 イージスは剣を握りしめ、ハンゾウの横に並ぶ。


「気をつけろ。触れられれば体を黄金へ変えられる」


「分かっています」


 そう言っている間にも、ペインは火炎の矢を幾つか出現させ、イージスたちへ飛ばす。


「避けろ」


 ハンゾウとイージスは飛び上がってかわす。火炎の矢は屋根へぶつかった瞬間、雷鳴とともに弾けた。周囲には電撃が流れ、屋根に足をつけていたアニーとリコリスは痺れに襲われる。


「まずい」


 ペインがアニーへと手を伸ばす。


「させない。〈絶対守護神盾イージス〉」


 イージスの右腕には青い脈が流れ、彼がかざす先には巨大な盾が出現する。それに阻まれ、ペインはアニーへと近づくことはできない。


「仕方ない。作戦レッサーだ」


 そう叫ぶと、ペインは神隠しにでもあったかのように姿を消した。

 その代わりに弾丸が屋根を転がる。


「逃がした……」


「違う。恐らく奴は標的を変えただけだ。他の誰かに」


「他の誰か。それって一般市民なんじゃ……」


「その可能性は大いに有り得る、というかその奴ならそうする。奴には一度狙った相手を追い詰めるというプライドはない。だから恐らく……」


「早くしないと」


「いや、お前はここに残れ。二人ともこの場から去れば、リコリスたちは狙われる。奴の捜索は拙者に……」


 そこへ暗い顔をしながら、ラビットが駆け寄ってきた。


「ペインにより、市民が再び黄金へと変えられました」


「やられたか」


 ペインを捕らえる作戦は失敗に終わった。

 何人目の犠牲者だろうか、ペインを捕まえない限り、彼による犠牲者は減ることはない。

 ハンゾウの顔には焦りが見える。


「明日の朝、作戦会議だ。どうせ明日の夜も現れる。それまでに再び作戦を練る」


 指示を出し、ハンゾウは思い詰めたような表情をしながらその場を後にする。そして泊まっていた宿へついたハンゾウは、部屋に付属されている風呂に入り、壁を叩く。


「早く、早く奴を仕留めなければ」


 苦悩する彼の背中は黄金に変えられていた。背中だけではない、過去の戦いで負ったであろう場所がいくつもあった。右腹や左足のふともも、左肩が黄金に変えられていた。


「ランマル、もう少しだけ待っていてくれ。必ずお前を、解放するから」

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