第264話 魔法錬金術

「イージス様。あなたのおかげで私たち魔女教は今では堂々としていることができたんだよ。本当にありがとうね」


「まら良かった。皆元気にしてるか?」


「うん。イージス様様だよ。魔女教の皆は本当にイージスに感謝してるよ」


 リコリスは心からイージスに感謝しているようだった。

 周囲から忌み嫌われていた彼女らを救ったのがイージスであったからだ。


「なあリコリス、この島で何か起きているのか?」


「まあ普通気付くか」


 リコリスはイージスへ話し始める。


「最近この島には出没しているんだよ。真夜中、無差別に人を襲う謎の犯罪者が。その犯罪者は人々を黄金へ変える。まるで錬金術士のように」


「そんな恐ろしい事件が起きているんですね」


「未だ捕まっておらず、手がかりは乏しい。だが一度、ハンゾウさんは彼を見ている」


 リコリスの話を変わり、ハンゾウが話し始める。


「俺は名士四十一魔法師の一人、ハンゾウ=カグラだ。彼の特徴は黄金の瞳をしており、決まって白マントに身を包んでいることくらいだ。そして拙者と会った時、彼は自らこう名乗った。"ペイン=メタリオン"」


「ならば易々とこの島から帰るわけにはいきませんね」


「協力してくれるのか。五神を倒したほどのあなたが」


「そう言われるとプレッシャーが募るばかりなのですが……俺にできる範囲でなら協力します」


「では早速だが、今日の夜、またここへ来てくれ。毎晩、彼によって犠牲者が出ている。今日でそれに終止符を討つ」


「はい」


 と言ったは良いものの、人を金属へ変えてしまう恐ろしい魔法があるなんて、勝てるだろうか。

 イージスは不安を募らせるも、多くの死地を乗り越えてきた彼はあまり恐怖を抱いてはいなかった。

 泊まっていた宿へつくなり、ノーレンスへ事の成り行きを話した。

 グラン=シャリオの保護について、ペイン=メタリオンという罪人が出没している件について。


「確かにそれは放っておけないな。ではペインという者の件に関しては任せた。渡しは引き続き〈魔法師〉がこの島へ来ないよう監視をする」


「お願いします」


「アニー、スフィア、二人はカーマの側にいろ。想定外のことが起きるかもしれないからな」


 スフィアは元気良く返事をしたが、アニーはどこか元気がないように見えた。

 何か言いたげで、もじもじしている。


「アニー、どうかしたのか?」


「父上。私もペインとかいう者の討伐に協力したいです。私はイージスの『鍵』、イージスがピンチになった時に私がいなければいけないんです」


 アニーは強くノーレンスへ語りかけた。


「分かった。アニーはイージスとともにペインの件を頼んだ」


「はい、ありがとうございます」


 アニーの顔には喜びからか、笑みがこぼれる。

 そして夜、イージスはアニーとともに魔女教の本堂へと向かった。そこにはハンゾウやリコリスの他に、魔女教の精鋭と思われる者たちが集まっていた。


「来てくれたか。隣の子は誰だ?」


「アニー、彼女は信頼に足る人物ですので、ご心配なく」


「そうか。まあ数は多い方が良いしな」


 リコリスはアニーを見てそう呟く。

 アニーは大勢の知らない人に驚き、イージスの側へ一歩近づく。


「ラビット。時刻は?」


「もうすぐで二十二時です」


「了解。では皆それぞれ配置につけ。イージスとアニーは私たちとともにここ本堂の警備に当たってもらう」


「「了解です」」


 緊張感が流れている。

 リコリスの指示のもと、皆迅速に配置へついていく。この島全体を囲むような包囲網が敷かれ、多くの魔女教が身を潜めている。

 それほどまでにペインを捕まえるのに必死なのだろう。


「二十二時になりました」


 ラビットは言った。

 瞬間、皆周囲へ警戒の目線を向ける。

 リコリスは魔女教の屋根の上で島中を見渡し、イージスとアニーは本堂の入口でペインの襲撃に備える。

 静寂が響く夜の中、足音すらも聞こえない。ペインは姿を現さないのか、そう思われた矢先、コツン、コツン、足音が響く。


「来る。警戒せよ」


 リコリスの声が島中に響き渡る。


「大声を出せば待ち伏せしていることくらいは気付きますよ。リコリスさん」


 その声がしたのはリコリスの背後。


「いつの間に」


 咄嗟に振り返り剣を振るおうとするが関節は既に黄金へ変えられていた。黄金へ変えられた体は動かず、身動きが取れない。

 イージスとアニーはその気配を察知し、屋根の上へと飛び上がる。


「まだいましたか」


 イージスの前にはハンゾウが言っていた通り、白マントに身を包み、黄金の瞳をした男が立っていた。

 彼は後ろへ体を倒す。


「逃げる気か。そうはさせない」


 イージスは屋根の上を駆け抜け、ペインの懐へ忍び込んで腹部へと手をかざす。


「最近覚えたばかりの魔法、雷属性原始魔法弐七〈電縄ジジカ〉」


 イージスの手には電気が紐状になったようなものが現れ、それはペインの体へと巻きついた。ペインの胴体は縛られ、その上電流も流されている。逃げることは……


「すまないね。魔法錬金術士にとって、魔法は錬金術の良い材料さ」


 そう呟くと、イージスが出現させた電気の縄は水の縄へと変わり、ペインが纏う火炎に蒸発して消えた。


「これが魔法錬金術。さあ、魔法錬金術時間ショー・タイムだ」

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