第263話 懐かしき者たちとの再会

 日は昇り、朝が来た。

 イージスは結局眠れず、アニーも目の下にくまをつくりながらの寝起きのような振る舞いをした。

 二人は朝早くに顔を合わせ、恥ずかしくなってすぐに顔を背けた。


「あれ?二人とも早いね」


 スフィアも体を伸ばして起き上がり、カーテンを開けて光を部屋へ散らす。それでもカーマだけは未だ眠ったまま。


「むにゃむにゃ……。私が名士四十一魔法師にですか、はい、是非ともその役を私目に」


 そんな寝言をカーマは呟いていた。

 どんな夢を見ているのか、イージスたちは察していた。きっと良い夢を見ているのだろう、だからカーマを起こさず、皆それぞれ顔を洗ったり体を動かしたりして寝起きのルーティーンを行っていた。

 それが一通り終わると、ノーレンスが部屋へと戻ってきた。どうやら一晩中寝ずに見回りをしていたようだ。


「起きていないのはカーマだけか。仕方ないか。まだ朝も早いし」


 ノーレンスは気持ち良さそうに眠るカーマを見てそう呟いた。


「ところで父上、グランは見つかったのですか?」


「ああ。見つけた。だが〈魔法師〉の気配がないため、今すぐにグランのもとへ行く必要はない。だから一時間後、グランのもとへ向かおう」


「分かりました」


「ノーレンスさん、俺、ちょっと散歩してきて良いですか?懐かしいこの場所を見てきたいので」


「ああ、だがすぐに帰ってこいよ」


「ありがとうございます」


 そう言い、イージスは部屋から去り、島を徘徊することにした。

 炎上島、かつてそこでイージスはアリシアとの厳しい訓練をしていた。そのおかげで五神を倒すことに成功している。だがそこではひときわ大古な事件があった。

 それは今では脱退しているが、十六司教の一人であったグラン=グリモワール、彼と魔女教との戦い。その元凶であるグレイトは討たれ、今では魔女教は堂々と道を歩いている。


「良い島になったな」


 そう呟いた。

 そこで一人、イージスへ話しかける者がいた。


「イージス。覚えているか?」


 振り返ると、そこにはグラン=グリモワールがいた。その横にはグラン=シャリオも。


「まさかこんなにも早く会えるとは!?」


「まるで探しているみたいじゃないか」


「実はグラン=シャリオさんに用があったんです」


「シャリオ。お前に用だってさ」


 グリモワールはシャリオの肩を叩いた。シャリオは何事かとイージスを見ていた。


「グランさん……じゃなくてシャリオさん。前日、秀才アマツカミ学会にて、『鍵』であるスフィアが〈魔法師〉に拐われ欠ける事件があったんです。そこでもしかすれば『鍵』であるシャリオさんも〈魔法師〉に狙われるかもしれない、そう思って保護しに来ました」


「そういうことか。まあ良いけど」


 あっさりとしたその返答に、イージスは驚いた。

 もっと抵抗されると思っていたが、そういうわけでもないようだ。


「良いんですか?」


「良いけど、俺を保護するのは誰なの?」


「魔法聖の一人、ノーレンス=アーノルドです」


「なるほど。彼なら安心できるね。俺を保護するってことは、もうじき〈魔法師〉を倒す作戦を始めるってことだろうね。だったらそれまでにおよそ一年ほどか。その分の身支度をするから、明日魔女教の本堂まで来てくれる?」


「分かりました」


「じゃあそういうことで」


 意外とすんなりことが運び、イージスは呆然としていた。

 そこで魔女教のことも思い出し、魔女教の本堂へと足を運ぶ。


「あれ……誰もいない?」


「誰だ?」


 突如、イージスは後ろから首筋に刀を向けられた。それに気付き、イージスは大人しく手を上げる。


「俺は怪しい者ではない」


「信用できるか。今この島の状況を理解しているのか」


「島の状況?何かあったんですか?」


「とぼけるな。ここ数日この島へ来た者は誰もいない。知らないはずがないだろ」


 イージスは転移魔法によりここへ来た。ほうきに乗ってこの島へ来たわけではない。つまり彼らがここ数日の間にこの島へ来たことは誰も知らない。

 何も言えず固まっていると、一人の女性が現れ、言った。


「ハンゾウさん。その刀を下ろしてください。その人は私の命の恩人です」


 その声には聞き覚えがあった。

 振り返ってみると、そこにはやはり魔女教のノクス=リコリスがいた。


「やはり君だよね。イージスさん、いや、イージス様」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る