グラン編
第262話 懐かしき炎上島へ
スフィアは無事救出し、この事件に一段落ついた。そこへアマツカミ学会会長のセイバーが歩み寄ってくる。
セイバーはおおまかな状況を把握しているのか、周囲が荒れていることには何の言葉も使わなかった。
「すまなかったね。ノース、いや、ノーレンスかな」
「気付いておられたのですね」
「ああ。一応この学会の周囲は結界で覆ってあったから逃がす心配はなかった。それにイージス、君には期待していたから、どのような活躍をするのか見て見たくなって、助太刀するのを忘れていた。すまんな」
「いえ。大丈夫です。構いませんよ」
そうイージスはセイバーへ言った。
「スフィア、彼女を保護してくれるのだろ。ノーレンス、彼女は任せた」
セイバーはノーレンスを期待の目を向け、そう言った。
「ああ。ところでこの学会に他に『鍵』はいないのか?」
「もう一人います。彼の名はグラン=シャリオ。確か今は故郷の島で兄弟とともに話をしていると思います」
「兄弟?」
イージスには覚えがあった。
「そういえば炎上島でグランの兄弟と会いました。グランとも会っています。恐らくそこにグランはいるでしょう」
「なるほど。兄弟でいるところを邪魔するのは申し訳ないが、仕方ない。今は炎上島へ行くぞ。今すぐだ。〈魔法師〉に取られてからでは遅いからな」
「はい」
「ではセイバー会長、またいつか協力する機会があればよろしくお願いしますね」
「ああ。こちらこそ」
セイバーとノーレンスは互いにお辞儀を交わした。
その後、ノーレンスたちはすぐさま炎上島へと移動するため、ノーレンスへ近づいた。
ノーレンスの持つ転移魔法は、アニーの転移魔法とはレベルが格段に違う。範囲は不明、だがこれまでに転移できなかった場所はなかったという。だが今は別、罪人を収容する魔法牢獄のせいで、魔力は半分以下、転移できる範囲には限りがある。
だが偶然にも、炎上島は転移の範囲内にあったらしく、一瞬でそこまで転移した。
「イージス。グランの気配は?」
「分かりません。あまり近くにいなく、そこまで密接な関係を持っていないためでしょうか」
「そうだろうな。今日中に見つけたいが、疲れているか?」
「はい」
イージスたちはアマツカミ学会での戦闘で既に体力を消耗していた。仕方なく宿を借り、そこで一晩を過ごすこととなった。その間にも、ノーレンスは寝る間も惜しみ、周囲の警戒を兼ねてグラン探しに務めていた。
その頃、イージスは眠ろうと布団へ潜る。カーマはスフィアとともに温泉へはいっている。つまりその部屋にはイージスとアニーの二人きり。
「ねえイージス。スフィアの『鍵』を開いたんだよね」
「ああ。だがそこで一つ不思議なことに気付いてな、アニーの『鍵』を開いた時とはまた違ったんだ。スフィアの『鍵』を開いた時には冷気のようなものを感じた。恐らく人によって『鍵』の特性が変わってくるんじゃないかって思ってるんだけど……」
「そんな話がしたいんじゃないよ。イージスはさ……その……」
「どうかしたのか?何でも言ってくれ」
「その……」
アニーはイージスとスフィアが手を繋いでいた様子を思い浮かべつつ、イージスへ言おうとするも、喉元まで出かかった言葉は詰まり、彼へ伝えることはできない。
「何でもない」
そう言ってイージスは布団の中へ潜った。
イージスは聞き返そうとするも、何か聞いてはいけないことではないのかと思い、聞き返すことはできなかった。
アニーは布団の中でうずくまり、考える。
その横で、イージスは眠らずにアニーの質問を待っていた。だがアニーの覚悟が定まる前にスフィアとカーマは温泉から上がり、部屋へ戻ってきた。
「二人とも寝てるから起こさないようにね」
「はーい」
スフィアは足音を立てないようにし、静かに布団の中へ潜った。
だが二人は眠っていない。イージスもアニーも、未だ胸に秘めたもっと奥底にある思いは、未だ言えぬまま。
好きという言葉は伝えられても、まだ抵抗はあった。二人はまだ、恋人未満。
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