第260話 悪魔と化す

 ノーレンスとアポレオンが激突していた。

 そう簡単にお目にかかれるはずがない強者同士の戦い、一進一退の攻防、だが微かにも、ノーレンスの方が優勢に見える。

 アポレオンもそれには気づいているようで、引きどころを探していたが、ノーレンスはそれをさせない。


「アポレオン。ここでお前を仕留める」


「俺を仕留めるか……。業火よ」


 アポレオンの全身には火炎が纏われ、周囲には激しい火炎が吹き荒れる……はずだった。しかしノーレンスが手をかざすと、アポレオンの火炎は消失した。


「何が……」


「火炎を私の所有する魔法の牢獄へ閉じ込めた。そしてアポレオンよ、今ここで我が牢獄の中に永遠に閉ざされよ」


 アポレオンの足元には、気づかれぬ間に描いていた魔方陣が光り始めていた。

 アポレオンはそこから何が起こるのか瞬時に察した。


「まさか……」


「アポレオン、貴様が俺の氷結魔法を弾く度、周囲には氷に残骸が散る。それらを操り、魔方陣を描く。どうだ?魔法聖の実力は」


「これが魔法聖……。だがそれでも」


 アポレオンはノーレンスへ手をかざした。しかし、何も起きず、アポレオンは動揺する。


「魔法を使いたいのか?残念ながら、お前が魔法を使うことはない。魔法を使ったところで、その起源となる魔力は魔法牢獄へ飛ばされる。つまり魔法を使おうと思えば思うほどに、魔力を失う。その魔方陣の中にいる限りな」


「さすがですね。にしても……ここで負けですか」


「さらばだ。アポレオン」


(イシス。あとは任せましたよ)


 アポレオンはノーレンスの固有魔法〈魔法牢獄〉の中へと閉じ込められた。そこから出れる者はおらず。たとえ出れたとして、その場所は異次元、規格外な世界へと出ることとなる。

 アポレオンは倒され、〈魔法師〉は一人脱落した。

 だが彼らはまだ気づいていない。スフィアが拐われているという状況に。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 イージスは『鍵』の存在を強く感じる。故に彼女がどこへいったのか、その居場所を正確に掴むことができた。


「感じる。けどもうすぐスフィアは学園の外に出てしまう」


「なら急ぐぞ」


 イージスとリューズは剣を握り、学園内を走り抜ける。そして学園の扉を蹴り破り、外へ出た。

 そこではイージスたちが来るのを待っていたかのように、一人の女性がスフィアの手を握ってそこにいた。


「やあイージス。おひさ」


「お前は、イシス」


「そう。私はイシスだよ。魔法船での一件以来だね」


「ああ。そうだな」


 怒鳴るようにそう叫び、イージスはイシスへ向けて剣を振るう。しかし頭上より、一人の男がイージスへと打撃をいれた。それを流れるようにかわし、イージスは男へ剣を構えて警戒する。


「ダイニング。そろそろ決着つけようじゃねーか」


「お前へ敗北を刻んでやる。来い」


「開幕速攻で決めろ。〈絶対英雄王剣アーサー〉」


 イージスは瞬時に剣へ純白の光を纏わせ、ダイニング目掛けて勢いよく振るう。だが剣をダイニングは素手で受け止めた。


「なぜ……」


「知ってる?呪いは人を殺すためだけにあるんじゃないよ。自らを強化するためにも使える。まあ、寿命は縮むけどね」


 イージスの剣を受け止めるダイニングの腕は真っ黒になっており、呪いにのまれていた。


「俺は両腕を呪いに託した。今の俺は少なくとも君より強いよ」


 漆黒に染まったダイニングの腕、その一撃がイージスへと振るわれる。咄嗟に剣で受け流そうとしたイージスであったが、その一撃は重く、イージスを軽々と吹き飛ばした。


「イージス!?」


「リューズ。お前も俺の邪魔をするつもりか」


「ふざけるな。私は全てを聞いた。なら尚更、ダイニング先輩、あなたを止める剣となる」


 リューズは剣をダイニングへと振るう。だがイージスが一撃で吹き飛ばされたのだ。リューズがその一撃を受け止められるかどうか。

 振るわれるダイニングの拳、それらを紙一重でかわし、リューズはダイニングの腹へ剣を突き刺した。


「な……ぜ……」


 攻撃を受け、ダイニングは驚いていた。

 そんなダイニングを見ながら、リューズは叫ぶようにして答えた。


「先輩。あなたの剣を誰よりも見てきたのは私です。あなたに何度も鍛えられた私だからこそ、あなたを敗北に誘う。それが私だ」


「強欲で傲慢だな。邪魔をするのなら、お前を殺す」


 ダイニングの全身は漆黒に染め上がる。それとともに、腹の傷口は塞がり、だがしかし、頭からは悪魔のような角が生える。


「さあ来い。リューズ」


「ああ。望むところだ」

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