第253話 決着

「ダーク=ブラックウルフ。お前にだけは言わなきゃいけないことがあったんだ」


「何だ?」


「俺の強さを、思い知れ」


 イージスは剣を握り締め、ダークへと襲いかかる。ダークは漆黒の剣でイージスの剣を受け止める。

 金属音が響き、重たい剣同士がぶつかり合う。


「イージス。君が弱いのがいけなかった。君が弱いから俺に負けた」


「弱いからとか、弱いのがとか、お前はそうやって人を見下すことしかできないのか」


「俺が優等生だから。なぜ下の者を見下す以外の視線で見なきゃいけない?劣等生は見下すためだけに存在する。弱者であることを受け入れろ」


 ダークの剣からは黒く重たくどんよりとした雰囲気の突風が放たれ、イージスを吹き飛ばす。そこへ追い討ちをかけるようにダークは駆けるも、イージスは剣を地に突き刺し、そのままの体勢で〈絶対英雄王剣アーサー〉を放った。

 イージスは空高く舞い上がる。


「無意味なことを。それに何度もそれを乱射しているせいで、魔力にも限界がきているだろ。いい加減諦めろ」


 頭上で体勢を立て直したイージスは剣を強く握り締め、風を水を纏わせた。


 ーーこれまで学んできた全てを集束させろ。


 天から降りるイージスは剣をダークへと振り下ろす。それをダークは紙一重でかわし、しゃがみこむイージスの腹へ蹴りを入れた。


「お前ならそうするよな」


 ダークの蹴りを予想していたのか、腹には盾を創造し、ダークの蹴りを防いだ。

 硬直するダーク目掛けて、イージスは剣を振るう。ダークの体には剣による斬撃の一撃が、それにダークは膝をついた。


「見下す?膝をついて、何を見下せる」


 その声には怒りが混じっている。

 わずかながらの、イージスの怒りが、殺意が込められている。


「まだ終わりじゃねー」


 ダークは剣を地面へ突き刺した。地面には亀裂が走り、足場が崩壊する。体勢もろくに取れぬ状況下で、ダークは地を蹴ってイージスの腹へ剣を突き刺す。


「油断するからだよ」


「そう先走るな。それは幻覚だ」


 ダークが剣を突き刺したと思っていたイージスはもやのように消えていき、姿は見えなくなった。声がしたのは頭上。


(まずい。避けられない)


 イージスが振り下ろす剣がダークの頭を叩き、地面へ顔を叩きつけた。

 意識を失うような一撃に、ダークが血反吐を吐いて意識は朦朧としている。


(こんなところで……しかも格下に負けるなど……)


「ダーク。下ばかり見ているお前には分からない。上を目指す俺たちの努力が。その過程が。慢心、過信、それらがお前を地面に這いつくばらせた。これが俺の力だ。どうだ?悔しいだろ」


 ダークは起き上がれない。

 剣は手離し、遠く離れた地面に突き刺さっている。


「ダーク。お前の敗けだ」


「残り時間は、何秒だ?」


 薄れゆく意識の中で、ダークはイージスへ質問を投げる。

 それにイージスはこう答えた。


「残り三十秒」


「なぜ終わらないか、分かるか?」


「どうしてだ?」


 長く間を溜め、ダークは言った。


「大将は俺じゃない。適任がいる。目立たない者が敵将を務めた方がーー」


「ーーそのことなんだが、シャインはもう捕まえた。それにとっくに終わっているよ。この魔法城での戦いは」


 ダークは絶望のどん底へ叩き落とされた。

 勝機はあった、はずだった。だがそれらを一つずつ彼らに潰されたのだ。


「負けた……だと」


「ダーク。よく覚えときな。下ばかり見ていると、何も見えなくなるぞ」


 そう言い、イージスは仲間とともに去っていく。


「勝者、四年生チーム」


 仲間の喜ぶ声とともに、イージスは魔法城を後にする。

 その背中を眺め、ダークはおもむろに嘆く。


「随分強くなったじゃねーか」

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