第252話 入学の妨害者

 既に二十名ほどに減った四年生チーム。体して六年生チームは未だ百以上という数で戦力的には圧倒的に四年生チームが不利であった。

 それに気づかず、魔法城内へ侵入しているイージス、アニー、アタナシアは階段を守備する魔法使いを蹴散らし、二階へ上がった。


「ねえ。今外で大きな音しなかった」


「そういえばあの作戦、まだしないのだろうか。もうすぐしても良い頃なのだが」


 走りながら彼らはスカレアの言っていた作戦が始まらないことに違和感を覚えていた。

 だがその作戦は既に失敗している。それに彼らはまだ気づかない。


「とりあえずこのまま上の階に進んじゃおう。このまま敵将を討ち取るっていうのも……」


 角を曲がると同時に潜んでいた男の気配を感じ取り、その男が飛び出てきた瞬間にイージスは剣を男へと振るう。剣は男を真っ二つに切り裂いた。

 そのはずだった。しかし男はいつの間にか背後に移動しており、アタナシア目掛けて握っていたクナイを差し込む。

 だが、金属音が響いてクナイは弾かれた。


「硬い……。頭が金属でできているのかよ」


 アタナシアの頭の硬さに意表を突かれ、追い討ちをかければ良いところを距離をとり、身構えてしまった。

 その隙にイージスは振り返り、その男へ剣を向ける。


「なるほど。角に隠れていたのは分身で、お前は壁に同化して息を殺していたのか。魔法忍者、ボルト=ライデン」


「合同合宿以来だな」


「ああ。海での宝探しでは負けたが、二度も負けるわけにはいかないのでな」


 ボルトは電撃を纏うクナイを飛ばしてくる。それをイージスは剣で弾き、側面からアタナシアがボルトへ襲いかかる。


「〈ボルト〉」


 アタナシアの心臓部には黄色く美しい色の花が咲き、電流が流れる。その電撃にアタナシアは膝をつく。

 すぐにアニーがアタナシアを自分の側へ転移させた、それと同時、イージスは壁を蹴ってボルトへ剣を振り下ろす。ボルトはクナイで防ぎ、そのクナイに纏われる電流がイージスへ流れる。


「ぐぁぁぁああああ」


 イージスは電流に耐え、剣を振り下ろし続ける。

 だが電流によってダメージを負ったイージスはボルトによって力負けし、吹き飛んで壁へ勢いよく背をつけた。


「イージス」


「大丈夫。アニーはそこでアタナシアの治癒を」


 既にアタナシアへ治癒魔法をかけていたアニーであったが、アタナシアの負う傷は治らない。

 何かがおかしい、アニーはアタナシアへ疑念を抱きつつあった。


「アタナシア。もしかしてアタナシアは……」


 イージスは剣を構え、ボルトと向かい合う。

 そこへ六年生もう一人の成績優秀者ーーロンギヌス=レイは槍を構え、現れた。

 彼もまた合同合宿に参加していた者の一人だ。


「まずい状況になった」


 イージスは手に汗握り、危機感を抱いていた。

 それにそこへ現れたのはロンギヌスだけではない。その他にも三十名ほどの六年生が周囲を囲み、現れた。逃げ場はなく、数で言えば圧倒的に劣る。


「諦めろ。既に外にいる四年生はダークの策によりほぼ全滅。対して我々六年生の多くが未だ生存している。さあ、どうする?」


「なあロンギヌス。諦める、俺がそう言うとでも思ったか?」


「現実を見ろ。周りを見ろ。戦場を正しく理解できない者に、勝利を掴むことはできない」


「だがな、ロンギヌス。すぐに諦めてしまう奴だって勝利を掴むことはできないだろ。諦めが悪い奴こそ、戦場で勝利を掴むことができる。勝利に強欲にある者こそ、勝利を掴めるんだよ」


 イージスの剣には純白の光が現れる。


「この狭い場所でそれを撃てばお前の仲間も皆瓦礫の下」


「それを踏まえた上でダークという男はお前らをここに呼んだのだろう。なら今俺がすべきことは一つ、ダークの予想を断ち切る」


「まさか……とめろぉぉぉぉぉおおおお」


 ボルトやロンギヌスたちは一斉にイージスへ襲いかかる。だが既に時遅し。イージスは剣を振り上げ、白い純白の光は天井を破壊しながらダークへと向かう。


「やはりそう来るよな。反転まほーー」


「ーーさせない」


 城壁の上に構えていたブックはイージスが〈絶対英雄王剣アーサー〉を放ったと同時、スカレアを魔法城のすぐ側へ転移させた。

 魔法城内部へ魔法で干渉することができないため、外にしか転移させられない。


「借りるぞ。アニー」


 ブックの転移により魔法城のすぐ側へ飛んだスカレアは刀を構え、風を纏いながら壁を突き破りながらダークがいるであろう最上階である五階へ突撃を仕掛けた。

 だがそこにはダークはいない。そこにいるにはダークの指示を皆へ伝達していたシャインのみ。


「いない……」


「全てダークさんの予定通り。はめられたな。スカレア」


 シャインは勝ち誇った顔でそう言った。しかし、スカレアは笑みを浮かべる。


「良かった。あの男が私の行動を読んでくれて」


 そこでシャインは気づいた。


「お前……その光……」


 スカレアの刀には純白の光が纏われている。その刀を握りしめ、スカレアは振り下ろす。


 ブックの固有魔法〈全知全能禁忌之書アカシックレコード〉、その魔法には謎が多い、そしてその魔法はとても脅威的な能力を幾つも有している。

 その一つ、他者の魔法をコピーし、一時的に使用することが可能。その魔法を一時的に他者へ付与することも可能だ。


「イージス、力を借りる。〈絶対英雄王剣アーサー〉」


 スカレアは剣を振り下ろす。

 その一撃は五階の床を破壊し、四階に身を潜めていたダークを襲う。下からのイージスの攻撃のみに備えていたダークは床に反転魔法を張り巡らせていたが、頭上からの予想外の攻撃を防ぐことができなかった。

 二方向からの威力の大きい剣の一撃に魔法城は崩壊する。


 城壁の上で見ていたブックやピットたちは息を飲み、魔法城を見ていた。

 崩れた魔法城の外には、アニーの魔法により転移していたアタナシアとイージス、そしてアニーがいた。


 魔法城が崩落してから数秒後、瓦礫の中からスカレアが肩を押さえながら現れた。


「イージス……。あの一撃、意外にやべーな」


 そう言うと、スカレアは力尽きたように倒れた。

 すぐにスカレアのもとへ駆け寄ろうとするも、瓦礫を吹き飛ばし、ダークが剣を強く握りしめながら現れた。


「よくもやってくれた。下級生ども」


 ダークの握る剣には闇が纏われ、それが溢れている。


「イージス。どうする?」


「一騎討ちがしたい。ようやく思い出したんだ。あの男が、何者だったか」


 イージスは剣を握り、ダークの前に立ち、言う。


「ダーク=ブラックウルフ。ようやく思い出した。入学初日、俺に大怪我を負わした不良生徒。お前だったよな」


「ああ。あの時お前を入院させるほどの怪我をさせたのは、紛れもなくこの俺、ダーク=ブラックウルフだよ」

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