魔法城決戦編
第250話 ダーク=ブラックウルフの爪痕
早いもので、冬がやってきた。
名門ヴァルハラ学園内は特殊な固有結界に囲まれ、寒波が来ることはなく、いつものような適切な気温。
イージスたちはいつものように学校へ通い、一時間目が始まろうとしていた。教室へカーマ先生が入ってきた。
「先生。今日は何の授業をするんですか?」
「今日行うのは六年生と四年生による勝負を行ってもらう」
瞬間、教室はざわつき始めた。
期待と高揚にクラス中胸を踊らせる。
「今回行うのは攻城戦。あと一応言っておくが、この勝負は学年対抗。つまり四年生計百六十名と六年生百六十名による決闘だ。ワクワクするだろ」
百六十名と百六十名。
さすがに数が多すぎやしないかと思ったのだが、会場を見ればそれに疑問を呈する者はいなかった。
会場は名門ヴァルハラ学園に附属する四つの浮き島の一つーー魔法戦場。そこにある魔法城と呼ばれる城。
魔法城は五階建てで中には五百人ほど収容できる大きさがある。その上魔法城は高さ二十メートルはある城壁に囲まれている。
「まずルールについてだが、守備側は大将を一人決め、その大将を一時間護りきったら守備側の勝利。だが大将が倒されれば攻め側の勝利となる」
カーマの簡潔な説明に、大半の生徒は理解していた。
「では攻守についてだが、くじ引きによって決めてもらおう」
既に魔法城へ来ていた六年生の代表として、どこかで見たことのある男がやってきた。
四年生代表としてイージスがくじを引くこととなった。
その男はイージスを睨み付けるようにして視線を送っていた。イージスはやはり見覚えがあると感じつつも、思い出せないでいた。
くじを引くと、イージスのくじには攻、その男子生徒のくじには守と書かれている。
「では攻めが四年生。守りが六年生とする。試合開始は一時間後。それまでに用意しておけ」
六年生は城の中へ入っていく。
四年生は魔法城の外で待機し、作戦を練っていた。
四年生でも戦略家としての才を有するスカレア、そして無限の知識を持つブックを中心に作戦が練られていく。
「まず問題となってくるにはどこから侵入するか。侵入経路は二つ。一つだけある巨大な扉、もしくは城壁を上って侵入するかだ。だがどちらの策も向こうは罠魔法で対策してくる」
「地雷や麻痺魔法を仕掛けている可能性が高いよね。それに六年生の中にはダークという知将がいる」
「ダークってくじを引いた人のことか」
「うん。魔法戦略学っていう学問があるのだけど、それで彼は一位を取っているほど戦略には長けている。普通の策では対策され、一気に数を減らされる可能性が高い。攻城戦では攻撃側が守備側の三倍の兵力を持っていなければ勝てる確率が低い」
「かなり厳しい状況だな」
ブックでさえも侵入方法には頭を悩ませている。
そんな中、アタナシアは素朴な疑問を呈するように、彼らへと言った。
「ねえ。一つ思い付いたんだけどさーー」
そこでアタナシアが言った侵入方法に、ブックは活路を見いだした。
「それでいくぞアタナシア。その策なら、その策なら行ける」
四年生側の作戦は整った。
攻城戦開始まで残り一分、そこでイージスは夕焼けの剣を構え、呼吸を整えていた。
百六十という仲間との協力戦、初の試みにイージスは期待と不安を抱えていた。
その頃、魔法城の屋根の上に座るダークは腕を組み、鋭い眼光を光らせていた。
そんな彼のもとへ、シャインという男が駆け寄った。
「ダークさん。皆配置に着きましたよ」
「そうか」
「それと残り三十秒で攻城戦は始まります」
「ちゃんと伝えたか。あの件は」
「ええ。イージス=アーサーは仕留めるな、でしたっけ。彼のことなら安心してください。それに彼ならきっとここまでたどり着きますよ」
「でなきゃ、俺がここまであの男に妬みを抱くはずもない。とっとと来いよ。イージス=アーサー」
ダークは魔法城の屋根の上で剣を構え、城壁の外にいるであろうイージスへ怒りを向ける。
「では攻城戦、開始」
その声がかかったと同時、イージスは剣を強く握り締め、剣を振り上げた。
「〈
開始早々、イージスの一撃が魔法城の城壁へと直撃する。その一撃に魔法城の城壁は見事に破壊された。そこからは砂煙が舞い、視界も丁度良く塞がれた。
「何だ……。何が起きた!?」
突如壁が破壊されたことにより、ダークは驚き、破壊された城壁に目を向けた。
砂煙ではっきりとは見えないが、その先陣を橙色の剣を握る少年が駆けているのが見える。
「やはりお前か。イージス」
ダークは歓喜する。
「さあ来い。ここまで」
イージスは今、魔法城周辺に散らばる六年生を蹴散らし、魔法城へと突撃を仕掛ける。
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