第247話 友達はそこにいる

「我が絶対領域を知っても尚、それでも来るか。返り討ちにしてくれよう」


 キクノスケは刀を握り締め、人三人が通れるほどの路地に立ち塞がる。正面からスカーレットは剣を握りながらキクノスケへと斬りかかる。

 だがスカーレットの剣は一瞬にして弾かれ、スカーレットは後ろへ体勢を崩す。そこへキクノスケは狙いを定めるも、ボルトはクナイを両手に握り、キクノスケの一撃を何とか受け止めた。しかしキクノスケもまた、吹き飛び距離を引き離された。


 その隙に、イージスはキクノスケの横を通り抜けようとするが、キクノスケは刀を横へ振るう。


「予想通り、無駄だよ。青年」


 キクノスケの刀はシャラの横腹へ直撃した……はずであったが、刀は弾かれ、キクノスケはそれに動揺して体勢を崩した。

 その隙に、イージスはキクノスケから遠ざかっていた。既にキクノスケの絶対領域からは出ている。


「絶対領域?ならば私は反転魔法で対抗しよう。絶対すらも弾き返す無敵の魔法で」


 シャラはマイクを握り、キクノスケへ不敵な笑みを向ける。

 キクノスケはやや苛立ちを感じながら刀を握り直した。


「君、無性に腹が立つ。こうなったら全力でいかせてもらう」


 強がるキクノスケへ、シャラは言う。


「最初から全力で来い。素人侍」


 その発言に腹を立てたのか、キクノスケは勢い良くシャラへ襲いかかる。

 対してシャラは余裕の笑みをかまし、棒立ち。戦意がないわけではない、ただ動かなくても勝てるだけだ。



「始めようか。反転魔法、発動」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 その頃、イージスは脇目もふらずにアニーのもとへ一目散に駆けつけていた。

 鉄製の扉を大胆にも剣で木っ端微塵にして破壊し、その残骸は歪んだ形状で床に音を立てて転がった。その部屋に突撃したイージスは、檻の中に閉じ込められているアニーを見た。


「良かった」


 安堵し、イージスはアニーのもとへと駆け寄る。

 しかしアニーは天井を見ながら叫ぶ。


「イージス。上」


 直後、イージスの頭上から振り下ろされた細剣での一撃は床を貫き、周囲へ烈風を放つ。イージスはその風に飛ばされ、アニーが囚われている檻まで吹き飛んだ。

 鈍い音を立てて檻に全身をぶつけ、イージスは意識が飛びかけた。しかし舌を噛み、それを堪えた。


 イージスは起き上がりつつ、襲ってきた者の正体を視界にいれるや二三度確認のため、襲撃者を何度も何度も目を凝らして見つめる。だが目の前にいるには、何度見ても都立ホーヘン学園のクシロであった。


「クシロ。どういうつもりだ」


「仕方ない。だから僕は、今ここで君に挑まなくちゃいけない。名門シロロ家、その称号を背負っているのだから。故にイージスさん、僕はここであなたを倒す」


 クシロは細剣を貴族のように礼儀正しさを漂わせながら構え、イージスへ向ける。

 イージスも剣を握り、クシロへ飛びかかる。金属と金属はぶつかり合い、激しい金属音が奏でられた。


「クシロ。お前は敵で良いんだな」


「そうだ。僕は敵だ。アニーを救いたかったら、僕を倒してからいけ」


 そう叫ぶクシロであったが、強いイージスの猛攻に耐え続け、反撃に苦しんでいた。

 攻撃を仕掛ければその隙に仕留められる、それが分かっているからこそクシロは攻められないまま、防戦一方。


「その程度で倒してから行けとは、お笑いだな」


「僕は弱くなんかない。ここで君を止めないと……」


 クシロの目には涙が浮かぶ。それに気付き、イージスは剣を握る力を弱めた。その瞬間にクシロはイージスへ力強く剣を振り下ろす。


「油断したな。イージス」


「クシロ。お前は、」


「負けられない。僕には護るべきものがある」


 クシロはそう叫び、状況が一変する中でイージスへ細剣を振りかざしていた。


「負けない。負けられない。僕は、負けられないんだ」


 イージスは体勢を立て直せず、力負けしそうになっていた。だがその時、アニーは叫んだ。


「クシロ、君は私の祖父に人質を取られているんでしょ。だから君は私を誘拐した。そうでしょ」


 そうアニーが言った瞬間、イージスはクシロの力が弱まったのを感じた。その瞬間にクシロの剣を弾いて距離を取った。


「クシロ。そうなんでしょ。あなたは、だからーー」


「ーー黙ってくれよ。そんなことを言われたら、戦えなくなるだろ」


 クシロは細剣を下ろした。


「僕には子供の頃から側にいてくれた龍がいたんだ。その龍は私の親代わりをしてくれて、いつも楽しく遊んできた。そしてこれまで長い間一緒に過ごしてきたんだ。けど、けどペンタゴンとかいうおっさんに拐われた。もう……ワケわかんないよ」


 苦しむように、嘆くように、クシロは胸を強く押さえつけながらそう叫んだ。

 悲痛、その叫びが部屋中にこだまする。


「そうか」


 イージスはクシロの横を素通りし、アニーが囚われていた檻の前で立ち止まった。


「待てイージス。何をするつもりだ」


 クシロは動揺し、イージスへ駆け寄る。

 だが時既に遅し。イージスは剣を一振りし、檻を斬った。それによりアニーは檻の外へ脱け出した。

 くしは膝をつき、絶望に身を染める。そんな彼のもとへ、アニーは歩み寄る。


「ねえクシロ。そういう時は一人で抱え込まなくて良いんだ。私たちに相談してくれれば良いんだ。困った時は助け合う、それが友達ってものだろ」


「友達……、僕が!?」


「ああ。今日の合同合宿で君と私たちは楽しい時間を過ごしただろ。だから私たちはもう友達なんだ。もう、友達だよ。私たちは」


 その言葉を聞き、クシロは胸を押さえながら涙を流し、叫んでいた。


「クシロ。君の龍を助けに行こうか」


「……うん」


「じゃあ泣くのなんかやめて、早く行くよ。君に会いたがっているはずだから。君の龍はさ」


「うん」


 クシロは涙を腕で拭き、静かに起き上がった。


「頼む。アニー、イージス」


「お安いご用だよ」


「任せとけ」


 二人の友を横に、クシロは微笑んだ。

 先ほどまでの悩んでいた彼はもういない。


「じゃあ行くよ。転移」

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