第243話 合同合宿
名門ヴァルハラ学園と都立ホーヘン学園との合同合宿当日。
それぞれの学園より選ばれた十名がその合宿には参加していた。
集められた場所は名門ヴァルハラ学園からはかなり離れた島であり、島の半分以上が森に囲まれ、その上広大だ。それに人の気配がなく、訓練にはうってつけという場所だ。
名門ヴァルハラ学園より
イージス=アーサー、シャラ=エリエッタ、ボルト=ライデン、ロンギヌス=レイ、ディエス=イレなど、一年生から六年生までの優秀者が集められていた。
都立ホーヘン学園より
ローズ=エクセプティブ、ショウ=カイザー、スカーレット=ナイトメア、パーフェクト=ヒューマンなど、こちらも匹敵するほどの強豪が揃っていた。
それぞれの校で十名ずつ、という話であったが、そこへ急遽一人ずつ増やすこととなった。
名門ヴァルハラ学園からはアニー=アーノルド、都立ホーヘン学園からはクシロ=シロロが参加することとなった。
「では合同合宿を始めましょう」
都立ホーヘン学園教師のニアーザ=スカイ先生が生徒十二名の前で話し始めた。
「今回の合宿ではお互い違う学園の方とペアを組んでもらいます。あくまでも今回は協力が目的ですので、ペアを組む者同士での対立はしないようにお願いしますね。それとペアなのですが相性を考えて決めてありますので、そちら通りに組んでくださいね」
イージスたちの魔法手帳にはその情報が送られていた。
イージスのペアはどうやらローズ=エクセプティブという女子生徒らしい。アニーのペアは急遽決まったからなのか、相手も急遽決まった参加者であるクシロ=シロロであった。
「では早速訓練を開始しましょう。今回行う訓練は三つほどあります。まずは簡単なものから始めましょうか」
一つ目の訓練。
それはペアとの料理であった。
「さあ互いの愛を育むように、そして料理という些細な瞬間に幸福を分け合えるように。どのペアが一番美味しい料理を作れるか。開始」
どのペアも楽しく和気あいあいと料理を作っている。
特にシャラとショウ=カイザーとのペアはとても楽しそうだ。
「ちょ、シャラ。それは味付けの調味料じゃないよ。間違えて入れた調味料の味を消す粉だよ。おかげで味なくなっちゃったよ」
「良いじゃん良いじゃん。また味付けすれば」
そう言うと、シャラは作っているカレーライスのルーに塩を振りかけた。
「ちょ、シャラ……」
年上のシャラに抵抗できず、カイザーは料理を好き放題に荒らされている。
他のチームも黙々と料理を作り終え、ジャッジはニアーザ先生がすることとなった。
名門ヴァルハラ学園の引率にはアズール=コースター先生が来ていたものの、彼女は大人しくビーチでよく見かけるような椅子に寝転がり、日傘を立てて本を読んでいる。
「全く、あの人は何をしに来たんだ」
シャラのペアの料理を食べさせられたニアーザ先生は味覚を故障させたアズール先生へ愚痴をこぼす。
「あら。大変でしたのね」
「大変どころじゃないですよ。どうやったらあんな料理を作れるのか知りたいくらいですよ」
ニアーザ先生は砂浜で横たわる。
十分後、息を引き返さないニアーザ先生の代わりとして、アズール先生は立ち上がり、水着を纏ってイージスたちの前に姿を現す。
「お前ら。よく聞け。お前らはこれから海中に潜り、隠されている宝箱を見つけろ。だが数は一つだけ、その箱を私のところへ持ってきたら、ある魔法を一つ伝授してやろう」
だがそんな話よりも、彼らには気になっていることがあった。
「というか先生、何で水着なんですか!?」
「海に潜るのだぞ。なぜ服を着る必要がある?」
「そんなの魔法でいくらでも……」
「そんなことはどうでも良いだろ。さあ既に訓練は始まっている。宝箱を見つけ出せ」
その掛け声とともに、イージスたちはアズールへ見とれながらも海へ飛び込む。
だがカイザーだけはアズール先生の水着姿に見とれ、放心状態となっていた。それを見たシャラは呆れていた。
「全く、最初はクールでプライドが高いガキだと思ったが、まさかただの変態少年だとはな。とりあえず行くよ」
シャラはカイザーの腕を引っ張り、海へ飛び込む。
その頃、既にイージスたちは宝箱の捜索を始めていた。
「イージス。私は探知魔法が得意なのだ。それ故、宝箱の位置が既に分かっている」
ローズはそう言う。彼女についていくと、確かにそこには宝箱が隠されていた。それを持って海を上がろうとすると、ボルト=ライデンが電撃を纏う手裏剣を投げ、襲いかかってくる。
「〈
盾を創造して手裏剣の攻撃を防ぐも、背後からはもう一組違うペアが接近してきている。
「スカーレットか」
「ボクは強くなったんだよ。だからイージス、宝箱はボクが貰っていくよ」
スカーレットは剣を握り、イージスへ向けて剣を振り下ろす。イージスは咄嗟に剣を取り出して受け止める。
だが宝箱を持っているペアのローズはボルトに狙われている。
「仕方ない。ローズ、自分の背中を防御魔法で覆え」
「分かったけど、何を?」
「まあ見ていれば分かる」
イージスは剣を強く握りしめる。彼の剣には純白の光が纏い始める。
その時、ボルトはローズへと手裏剣を投げる。水中でも水の抵抗を魔法によって百パーセントカットされている手裏剣は一直線にローズへ向かう。だがその瞬間、イージスは剣を振り上げた。
「〈
純白の光がローズを一気に海の外へと吹き飛ばす。背後を防御魔法で覆っていた彼女は、怪我をすることなく海上へ飛び出る。そのまま飛行魔法でアズール先生の前に着地する。
「アズール先生。宝箱、見つけてきました」
「イージスとローズのペアか。よくやった。では次の訓練終了後、私のもとへ来ると良い。イージスにも伝えておけ」
「はい」
二つ目の訓練はイージスとローズのペアの勝利に終わった。
少しの休憩を挟み、最後の訓練が開始される。
「では最後の訓練を始める。薄々勘づいているとは思うが、この島にはモンスターが生息している。そこでだ、森の中で一日生き延びてもらう。ただそれだけの訓練」
「それだけで良いのですか?」
カイザーの質問に、アズール先生は怖い顔をして答えた。
「それだけ、か。カイザー、君はこの島を舐めているようだが、それは危険なことだ。まあすぐに分かる。じゃあ一日後、またこの海岸へ集合していろ。さあ、森へ入った入った」
アズールの促しにイージスたちはペアとともに恐る恐る森へ入る。
油断していたカイザーは、シャラとともに森へ入っていく。
「シャラ。どうせそんなに強いモンスターもいないだろうし、どこかで眠った方が良いんじゃね?」
「カイザー。それは少し舐めすぎだ。私が一年生の頃あの先生の授業を受けたことがあるのだが、一言で言えば最悪だった。まるで拷問でも受けている気分だった」
「そんなに……ヤバイんですか……?」
まるで怖い話でもするかにように話すシャラの話に、カイザーは息を飲んだ。
「べ、別にそこまでじゃないですよね。さ、さすがに。死ぬかもしれないなんて……」
だがなぜかシャラの返答はない。
それに不審に思い、カイザーはシャラを見た。シャラは自分の後ろをじっと見ている。一体何かいるのか、振り向いてみると、そこには首を三つ生やした骸骨のようなモンスターが一本ずつの右腕に剣を、左腕には盾を持って現れた。
「モンスター……」
次の瞬間、そのモンスターの剣がカイザー首目掛けて進む。それもカイザーの目にも止まらぬ速さで。
「速……」
だがその剣は、シャラがそのモンスターの顔面へ蹴りを入れたことにより止まった。
「カイザー。油断はしても構わないよ。だって私がいるんだから」
シャラの蹴りが入った骸骨の顔は振動し、骨と骨を繋ぐ関節は振動により外れた。プラモデルが壊れるようにそのモンスターは崩れた。
「アズールは確かに怖いよ。けどそんなの、私にとっては優しいくらいだよ」
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