ブリキの恋編
第240話 恋の秋
裏童話島での一件は終わった。
イビルとパールはノーレンス理事長によって牢獄へ捕らえられ、リーファは裏童話島という偽りの夢を捨て、リーフたちとともに現実を歩もうとしていた。
あれから数ヵ月。
夏も終わり、秋が来た。
多くの職業を経験し、イージスはふと感慨に更ける。
「なあアニー。俺たち、これまで多くの職を経験してきたな」
「はい。かなり多くの経験をしてきましたね」
「そういえば最近アタナシアを見ないが、どこかに行ってるのか?」
「それは秘密です」
アニーはいかにも何か知っているような様子であった。
気になりはしたものの、イージスは魔法銃士の補習を受けなければならず、それ以上の詮索はすることができなかった。
イージスが去ったのを確認すると、アニーはイスターへと駆け寄る。
「イスター。アタナシアは大丈夫かな」
「ちょっと心配だけど、まあ大丈夫でしょ」
イスターはそうアタナシアへ期待を寄せる。そんな二人はアタナシアが思いを寄せる相手を知らない。
その頃、アタナシアはというと……
そこはおもちゃなどが売られている店の中、そこでアタナシアはある一つの魔法人形を見ていた。それはあくまでも人形であり、人間ではない。
その人形へ、アタナシアは恋をした。
どこぞの島の兵隊のような黒い縦長の帽子を被り、背中にはスナイパーライフルのような銃を装備し、赤い軍服と黒いズボンを履いた男の魔法人形。
魔法人形というくらいなのだ。その人形にはもちろんある仕掛けが施されている。
話しかければ言葉を返してくれるし、手を振れば笑顔で手を振り返してくれる。どこか優しい雰囲気のその人形さんへ、アタナシアは惚れていた。
だがあくまでもそれは魔法の力。
当然のことながら人形に心があるはずもないし、意思があるはずもない。手を振り返すのだってそう魔法で構築されているからであって、あくまでも人間的な本能で手を振っているわけではない。
だが今まで世間を知らなかった彼女がそんなことを知るはずもない。
毎日毎日その店へ通い、商品を買うということが分からないアタナシアはその人形を眺めてはふと妄想にふける。
いつしか彼女は何も買わない常連として顔を覚えられていた。
そんなある日、アタナシアが恋をしていた人形は売れた。それに彼女は動揺していた。
だが彼女はこう思っていた。
きっと今日は風邪をひいてどこかで休んでいるのだろうと。だから今日は仕方なく家へ帰った。
落ち込んでいるアタナシアを見て、アニーは何かあったのではないか、そう感じていた。
そこで次の日、クイーンとイスター、スカレアを呼び、アタナシアの尾行を開始した。
「ねえアニー、尾行なんて」
「仕方ないでしょ。ブックが言ってたけど、アタナシアは世間を知らないお嬢様なんだ。だからきっと積極的にいけないだけなんだって」
「ねえ、さっきから何の話をしてるの」
スカレアはずっと疑問に思っていた謎をぶつけた。
「そんなの決まってるでしょ。アタナシアは今恋をしてるの。だから今日も、おめかしをして店に着ているんでしょ」
昨日もゴスロリ、今日もゴスロリと、アタナシアはアニーから買ってもらったゴスロリの衣装を着て毎日店へ訪れていた。
だが店へ入ったアタナシアは今日も落ち込んで店を出ていく。
「何かあったのかな」
「もしかして待ち合わせしてたけど来てない的な感じなんじゃない」
「だとしたらかなり発展してるじゃん。アタナシアって意外と積極的なのかもね」
女性陣たちは恋愛の話で盛り上がっていた。
だがアタナシアは落ち込んだまま、重たい足を寮へと進める。過ぎる日過ぎる日と店へ訪れたアタナシアであったが、とうとうその人形へ出会うことはなかった。
失恋したのだろう、そう思ったアニーたちは特に特別な日でもなかったがアタナシアへ贈り物をすることにした。
アニーたちは何でも売っている店で買い物を始める。
「ねえ、これなんかアタナシア喜びそうじゃない」
クイーンが手にしていたのは大きさ1メートルはある巨大なリボン。
「違いますよ。やはりアタナシアにはこれが良いですよ」
イスターが手に取ったのはまさかのロボットなどに使われるネジであった。
「いやいや。イスターにはこれでしょ」
スカレアが手に取ったのはなぜか分からないが名刀、と言った感じの刀であった。
さすがにそれはないと皆一喝する。
「じゃあアニー、まだ何も意見出してないからアニーが決めて」
アニーが悩んだ末に出した答え。
それは視界へ入ったある魔法錬金術士の造った人形であった。
「これなんかどう?」
「なるほど」
「その手があったか」
「まあ良いと思うよ。値段も安いし」
「じゃあこれで決まりね」
それを買い、アニーたちは元気を失くしたアタナシアへプレゼントを持ってきた。
「アタナシア、私たちからのプレゼントだよ」
そう言い、アニーから1メートルはある箱を渡された。それを開け、アニーは中身を見てみる。
「これは……」
アタナシアは箱の中を開けた。その中に入っていたのは、アタナシアが恋をしていたあの人形であった。
「どう?アタナシア」
アタナシアはしばらく固まった。
その人形を眺め、アタナシアは人形へ抱きついた。
「皆、ありがとう。もう一度、もう一度彼に会わせてくれて」
嬉しさを滲ませ、アタナシアはアニーたちへそう言った。
何故泣いているのか分からなかったが、嬉しそうにしていたのでアニーたちは笑みを浮かべて喜んだ。
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