第238話 かつての恩師の力を借りて

 アタナシアを襲ったのはまさかのイスターであった。


「イスター、どうして」


「ハイジョ、シンニュウシャハハイジョ」


 昔までの人間っぽさを交えた喋り方はどこへやら、今のイスターはもとの機械へ戻ったかのように、そして人の心を忘れたように機械的に喋り、今度はクイーンへ襲いかかる。

 イスターの鋼鉄の蹴りの一撃を、アタナシアは黒くダイヤモンドには敵わないものの、それほどの硬度へ変化させた腕でイスターの一撃を受ける。

 だがその一撃は重く、アタナシアの体を内部から衝撃を与えた。アタナシアへ追い討ちをかけるように、イスターは両腕を鎖へ変え、鎖の先にはトゲがついている鉄球へ変わる。


「転移の札」


 クイーンはアタナシアへ迫る危機を感じ取り、転移と書かれた札をアタナシアへと向けた。

 イスターの腕より振るわれる鉄球は床を砕くも、アタナシアへは当たらない。それもそのはず、アタナシアはクイーンの背後へ転移されていた。


「アタナシア。大丈夫?」


「ああ。私なら、十分平気さ……」


 と言いつつも、アタナシアは苦しそうに腕を押さえている。


「クイーン。今治すから」


 クイーンは回復と書かれた札をアタナシアへと向ける。

 その札を向けられたものは傷が治るはずなのだが、どういうわけかアタナシアが抱える痛みは癒えることはない。


「クイーン。心配すんなよ。こう見えても、痛がっているだけなんだぜ」


 アタナシアは強がりを言い、痛みを抱えながら立ち上がる。

 両腕をモーニングスターへと変形させたイスターは、今にもアタナシアへと襲いかかろうとしていた。

 アタナシアは歯を食いしばり、彼女の攻撃へ備える。


(やっぱり怖いし、戦いたくないな。私は不完全だから、失敗作だから。負けちゃうよ……)


 アタナシアは苦悩するも、彼女を待つことはせず、イスターは刃へ変えた足を振り下ろす。

 サイドステップでかわす、だが左腕には切り傷がつく。血が飛ぶことはない。だって彼女はーー。

 アタナシアは仲間であるイスターへ反撃はできず、攻撃を受けるのみ。


 既に意識は朦朧とし、気絶する寸前。

 そんな中で、彼女は走馬灯を見た。



 ーーアタナシア。宝石は欲しくないか。

 そう誘われ、私はいつからか盗賊になっていたんだ。あの盗賊に、私はいつしか魅了されていたのだろう。だがそれを私は受け入れようとはしなかった。

 けど、私は、リーダー、あなたの力、お借りします。


 アタナシアの全身には漆黒の脈が現れる。それらとともに、アタナシアの脳裏には多くのデータが送信された。

 ダイヤモンドという男が使ってきた魔法について、他にも多くの情報がアタナシアのもとへ送信される。


 人造機械アーティファクトシリーズの一つ、アタナシア。

 私はそんな自分が嫌いだった。けれどそんなある日、彼は私を奪いに来た。機械である私を奪いに来た。

 ーーアタナシア、俺とともに来い。


 今私は、一段階強くなるよ。


黒い宝石ブラックダイヤモンド


 アタナシアの全身は漆黒色に染め上げられた。

 黒く鋼鉄の鋼へと成り変わった今の彼女には、どんな攻撃を無へと帰す。


「ありがとう。ダイヤモンドさん。あの時私を盗んでくれて。この恩はもう返せないけど、それでも私は生きたいと、そう願った」


 アタナシアは漆黒へ染め上げられた腕を構え、イスターの前に立ち塞がる。


「私は護る。自分が護りたいと思った全てを」


 イスターの攻撃がアタナシアへと振るわれる。だがそれらの攻撃は無意味とでも言うように、アタナシアは平然と攻撃を受け続けていた。


「無駄だ。今の私には、攻撃は効かない」


 全ての攻撃は無意味であった。

 今のアタナシアには、どんな攻撃でさえも効くことはない。

 だがそこへ、何かの足音が聞こえてくる。それはアタナシアの背後から。彼女の背後より迫ってきた黒色の狼に乗った一人の女性、彼女はイスターの胸へ拳を刺した。


「イスター……」


 アタナシアとクイーンは固まった。

 ローブを身に纏う彼女目掛け、アタナシアは拳を振るおうと駆ける。だがその時、イージスとイビルとの間で起きた激しい戦闘により、この建物には巨大な亀裂が走った。


「崩れる……」


 その建物は崩壊した。

 そして始まる、そこからの物語。

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