第236話 真実を求めて

 架空とは何か。

 真実とは何か。

 その答えはあるのか。


 そんなもの、本当はどうだって良い。

 ただ彼女という存在が偽りだったのか、それが彼には分からない。


 気づけば彼は牢に囚われていた。

 外へ抜け出すこともできず、魔法も使えない。使おうと思えば思うほど魔力が吸い取られていくような、そんな感覚に陥る。


「ここは……どこなのだろうか……」


「イージス、ようやく起きたんだね」


 聞き覚えがあったその声にイージスは振り向いた。

 やはりそこにはその声の主であるアニーがいた。アニーだけではなく、クイーン、アタナシアがいた。


「イスターがいないけど、どうかしたのか?」


「分からない。というかイージス、あの時イージスとリーフが私の言うことを聞いていればもっと安全に入れたんだよ」


 アニーは少し怒ったようにイージスへ言った。


「そういえばあの時何か言いかけてたな」


「私は転移ができるんだよ。だから私を頼ってくれてたらもっと安全に、そしてはぐれることなくこの島に来れたんだよ」


 アニーは怒りの中に寂しさを交え、そう言う。


「約束したでしょイージス。これからずっと側にいようって」


「すまない。これからはもう少し周りを見るようにするよ」


「ありがと」


 アニーがひと安心したようにため息を吐くと同時、クイーンがイージスの横腹をつつく。


「このこの」


「何だよ……」


「このこの」


「だからなんだよ」


「このこの」


 クイーンは終始イージスの横腹をつつき続けた。

 その様子を、アニーたちは笑みを浮かべて眺めていた。


「ブックとスカレアもいないのか?」


「うん。ここに転移したが良いんだけどさ、変な二人組に絡まれてその時に眠らされて、気づけばここに捕まってた。だからブックとスカレアがどうなったのかは分からない」


「なるほど。ひとまず助けを待つしかないか、とはいっても、そう都合良く助けが来るか分からないけどな」


 そう呟くと、イージスは壁に背をつけ、うなだれる。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 リーフは鎖によって手足を縛られ、身動きが取れなくなっていた。そんな彼女のもとへ子供用の小さなローブを深く被り顔を隠す大人びた女性が歩み寄る。

 子供用のローブのため、本来足下まであるはずのローブが腰までしか届いていない。


「リーフ。こんな目に遭わせてしまうのなら、君を生まなければ良かったのかもな」


 そこへ偶然にもパールとイビルが現れた。

 リーフが囚われている檻の前へ立つ彼女を見るや、イビルは血の気を漂わせて短剣を握り、その女性へ襲いかかる。


「リーフ。すまないな」


 そう言い残し、彼女はイビルから遠ざかるようにその場を立ち去った。


「ちっ。逃がしたか」


「イビル。奴は一体……」


「ブックかスカレアではなさそうだな。だが奴らもこの塔の中から逃がしてしまっているのは間違いない。すぐに探すぞ」


 イビルとスカレアは逃亡した二人を探すため、塔の中を走り回る。

 そんな彼らはというと、ブックの持つ魔導書からイージスたちが囚われていることを知り、その場所を見つけ、丁度そこへついていた。


「イージス。良かった。無事だったのか」


 そう言葉を投げ掛けるブックであったが、彼の持つ魔導書にはイージスがここに囚われる前までのことも載っており、そこで彼が何を知り、思ったのか、それを分かっていた。

 事前に鍵を奪っていたブックはその鍵で檻を開ける。

 だがそこへ、最悪なことにイビルが駆けつけてきた。一瞬にして緊張が走る。だがイージスは冷静に剣を構え、ブックたちの最後尾に立ってイビルを迎え撃つ姿勢を見せる。


「白丸の救出は?」


「まだだ」


 背を向けつつ質問を投げ掛けたイージスへ、そうブックは返す。


「なら彼らの救出は任せた。この男の相手は俺一人で十分だ」


「いいや。さっきも言ったでしょ。あなたの側には、私がいないと駄目だって」


 そう言い、アニーはイージスの隣へ立つ。


「お前ら、白丸の救出は任せたよ」


 そう言うと、アニーは純白の光を身に纏う。


「イージス。やっぱ君の側にいると、不思議と力が湧いてくるんだ。だからさ、脅えずに真っ直ぐに戦えるよ」


 アニーはイビルを前にしても脅えることはない。それはイージスも同じ。

 五神島での戦いを終え、成長した彼らは誰よりもその一歩を早く踏み出せる。


 ブックたちは二人へ背中を任せ、白丸やゴブリンたちの救出に向かう。


「お前たち二人で俺を止める気か。ふざけた真似だ。だが無駄だ」


 イビルは筋肉質な両腕に火炎を纏い、イージスへ襲いかかる。


「遅い」


 その瞬間、イージスは右肩から腰までにかけて剣での一撃を入れられた。


「速い……」

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