第235話 全ては架空の思い出であった

 イージスは剣を片手に、真夜中を駆け抜けて廃工場へついた。

 そこからはどこか異質な雰囲気を感じる。それに加え、何か怪しさも感じる。


「イージス、罠かもしれないが」


「ああ。確かに少し不気味だ。あのような男が見張りもつけずこんな場所にいるだろうか」


 イージスは周囲を見渡すが、逆に怖いくらいに周囲には人影はない。

 それでも怖じ気づくことなくイージスは扉を剣で破壊し、廃工場の中へ入るーー刹那、無数の銃弾がイージスたちを襲う。激しい銃声、声が全て掻き消される銃弾の騒音、銃弾は床や壁にぶつかり、激しい煙をたてている。


 それらの銃弾を放った者ーーそれはスレイヤーの奴隷であった。彼らは入り口を囲むようにして銃を構えている。そしてすぐ背後にいるスレイヤー指示通り、奴隷たちはイージスを撃った。

 当然イージスではない可能性もあった。だがスレイヤーはその行動に躊躇いはなかった。


「さて、奴隷ども。もう下がって良いぞ。あとは遺体の埋葬だけだしな」


 スレイヤーは剣を片手に立ち込める煙の中を掻き分け、イージスのもとへ歩く。

 銃弾により黒こげになっているであろうイージスを予想していたスレイヤー、だがしかし、突如煙の中から剣を構えるイージスが飛び出し、スレイヤーの構える剣を弾き飛ばす。


「なぜ生きて……」


 スレイヤーは驚き、後ろへ体勢を崩して傷ひとつ負っていないイージスを見て驚いていた。


「なぜ……」


「残念だったな。かつてパールという十六司教が使っていた防御魔法を真似ただけさ」


 イージスはスレイヤーの顔へ手をかざす。すると手からは空気が吹き出、それを吸ったスレイヤーは眠りにつく。


「さて、お前たちは奴隷だな。スレイヤーはここに討たれた。これ以上我々へ手を出すな。分かったか」


 イージスは銃を構える奴隷たちへ剣を向け、そう言い放つ。

 奴隷たちは次々に銃を下ろす。


「リーフ。ひとまずこれで終わったなーー」


「ーー撃て」


 その声とともに、一発の銃声が響く。その銃声とともに現れた銃弾はリーフの肩を居抜き、リーフは血を流して倒れた。イージスはすぐさまリーフへ駆け寄り、倒れるイージスを抱える。

 振り返って奴隷たちを見ると、一人見覚えのある男が奴隷から銃を奪ってリーフへ向けていた。


「イビル=イーター!?」


 そこにいたのは十六司教の一人ーーイビル=イーターであった。


「イージス。本当は君を殺そうと思ったけど、やっぱこっちの方が面白かったみたいだ」


 血を流すリーフを見て、イビルは笑みを浮かべる。


「ふざけるな、ふざけるなぁぁあああああ」


 イージスは怒りに支配され、イビルへと剣を振るって襲いかかる。だがイージスの剣は青白い光の盾によって防がれた。


「これは……」


「私もいるよ。イージス=アーサー」


 光の盾は宙を動き、サッカーボールほどの大きさになってイージスの腹へ直撃した。イージスは廃工場一階の天井を貫いて二階三階と飛び上がった。そしてあるひとつの部屋に転がり、イージスは見た。


 その部屋には幾つもの絵本が、しかも全て手書きのものが部屋中に散らばっていた。

 それを見てイージスは不思議な雰囲気を感じていた。


「ここは……」


 転がるイージスは近くにあった本を見てみると、『雲斬り伝説』という言葉が絵本の表紙に描かれている。

 他にもピーチ=ストロベリーに似た少女が描かれた『桃の子』や『闇ずきん』、『裸の魔王譚』など童話島で聞いたことのあるような者の名ばかりが絵本に書かれている。

 そして一つ、イージスが目を見開き、驚かせた絵本がひとつあった。その本の表紙にはこう書かれている。


「リーフ……。これはどういうことだ……」


 動揺するイージスのもとへ、イビルは悪役面を浮かべて歩み寄る。


「知らなかったのかい?というか君は既に知っているはずだ」


 その時、イージスの脳裏にはある考えが浮かんだ。


「童話島に住む全ての者がある人物によって書かれた絵本に登場する。そしてリーフ村に住む彼女も、あの彼女もある人物によって描かれた絵本の中の登場人物なんだよ」


 イージスは頭が真っ白になり、固まった。


「つまりリーフとは、架空の存在さ」


 イージスはリーフと過ごしてきたこれまでを思い出していた。だがあれが偽物だったなんて、とても思えなかった。

 脳内がパンクしそうになり、思考が停止したイージスは呆然とする。

 呆然とするイージスへ、イビルは拳を振り下ろす。


「しばらく眠れ」

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