第234話 イージスを知る者

 朝になった。

 結局一睡もできず、イージスは日の光を浴びた。


「昨日はよく眠れたよ」


 少女はイージスへ笑みを向けてそう言った。

 イージスは少女へまるで快眠できたかのような笑みを向けた。


「お兄ちゃんもよく眠れたんだね」


「ああ。ぐっすりだよ」


 そう虚言を吐き、朦朧とする意識を頬を叩くことによって活性化させた。


「ねえお兄ちゃん、私、街を見てみたい」


「まあ俺も仲間を探さないといけないしな、行こうか」


 イージスは少女へローブを着せて顔を隠させる。イージスは少女の手を強く握り、街へ進む。

 街は奴隷だらけ、多くの者が強者によって搾取されている。これまた不思議な光景だ。

 どちらかといえばイージスは都会で育っている。故に田舎ではよく見る光景がイージスには新鮮に映っていた。


「お兄ちゃん、そろそろ帰ろ」


「ああ」


 それから何日か過ぎ、未だリーフやアニーたちとは出会えないまま時間ばかりが過ぎていく。

 さすがにイージスも心配になっており、それに宿に泊まるための資金も尽きようとしていた。


 そんなある日の夜、既に少女は眠り、イージスは相変わらず眠れずに窓の外を眺めていた。

 すると街を懸命に走る見知った女性の姿があった。


「リーフ!?」


 思わず声を漏らす。だが少女は起きていない。

 もう一度リーフらしき女性を見てみると、何者かに追われているようだった。

 イージスは窓を開け、部屋を飛び出して風魔法を駆使してリーフの方へ駆け寄る。颯爽と姿を現したイージスは剣を構え、リーフを庇うようにして道を塞ぐように立つ。


「おいおい。俺の知り合いに、何の用だ?」


 リーフを追っていた三人ほどの男たちは足を止めた。


「何だ。てめぇは」


「俺はイージス。島の外側から来たんだよ」


「イージス。そうか、お前だったか。うちのお頭が探していたのは」


 男たちは標的をリーフからイージスへ変えた。

 リーフは刀を抜き、イージスの横へ立つ。


「ようやく会えたと思ったけど、こんなことに巻き込んじゃってごめんね」


「いや。構わないさ。それにどうやらこいつらは俺に用があるらしいしな。まあ、見覚えはないけど」


 見当がついていないようなイージスの素振りに、男たちは言う。


「忘れたじゃ済まさねーぞクソガキ。この前浜辺でうちのお頭に変な術を仕掛けたらしいじゃねーか。それでお前を捕まえろと命令が来た」


「何だ。そんなことか」


 イージスは冷静さを崩さず、男たちへそう言った。


「でもそんなことよりひとつ気になることがあるんだよね。何で俺の名前を知っている?」


「さあな。それはお頭に訊け。したっぱの俺たちが知るわけないだろ」


「なら良い。じゃあお頭の場所は?」


「言うかよ」


「なら力づくで吐いてもらうよ」


 イージスは男たちへ手をかざす。風が男たちへと巻きつき、たちまち身動きが取れなくなった。

 そんな彼らの首もとへ剣を向け、イージスは問う。


「で、お頭、確かスレイヤーだっけ。そいつの居場所はどこだ?」


 イージスはそこで更に相手を脅えさせる魔法を使い、男たちは固く閉ざしていた口を開く。


「ここから南にある、廃工場、そこにいる」


「ありがとな」


 イージスは剣を肩に担ぎ、リーフの方を振り返った。


「お前も来るか?」


「ああ。助太刀しよう」


 イージスはふと少女の眠る部屋の方へ視線を向けたが、恐らく今は熟睡しているだろう。

 イージスはこの夜の間に済ませようと、急いで南にあるであろう廃工場へ向かう。


 だが先ほどまでの戦闘を、屋根の上に立つ二人組は見ていた。


「パール。ようやく見つけたね」


「そうですね。長かったですが、ようやく我々の神を倒した仇を討てます」


 その二人が何者なのか、それはまだ分からない。

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