第230話 魔法聖

「イージス。まさか鍵を開いたか。やはり奴には、アーサー家の中でも卓越した才能がある。楽しみだよ。あいつの成長は」


 ゼウシアは上空から見下ろし、イージスが戦った姿を見ていた。

 その頃、未だ無数のモンスターの猛攻にノーレンスとクレナイは戦い続けていた。


「さすがに数が多い。二人では捌けないか……」


「せめてあと二人いれば……何とか時間を稼げるのだが」


 ノーレンスとクレナイは間も開けず攻撃をしてくるモンスター相手に苦戦を強いられていた。

 時間を稼ぐことすら厳しく、相手は想像以上に手強い相手だ。それにモンスターの中にも魔法などを使うモンスターがおり、その魔法に時々傷を負う。


「もう何百体倒したか」


「それでもまだ数えきれないほどいるぞ」


 さすがに息を切らし、ノーレンスはふらつく。


「ノーレンス。やはり魔力が完全ではない以上……」


「大丈夫だ。まだ……まだ俺は……」


 そう強がるノーレンスではあったものの、魔力の半分しか使えない以上、ノーレンスは全力で戦うことはできないでいた。

 そこへモンスターが襲いかかる。クレナイは咄嗟に刀で斬り、消滅させるも、上空に滞在していたゼウシアがクレナイへ向け雷撃を放つ。それには体を浮かせ、吹き飛んだ。


「動き出したか……」


「お前たち二人へ良い情報を教えてやる。今アンノウンはイージスとアニーによって討たれた。それによってアンノウンの欠片である少年も生きている」


「あいつらがこの島に……。来るなと言ったはずなのに」


「まあ結局倒してくれたのだ。そう苛立つな。ノーレンス理事長」


 ゼウシアは高みからの見物を決め込み、時々ノーレンスとクレナイへ妨害を働いていた。

 それにより二人は激しく消耗する。だがクレナイは人間離れした強靭な脚力で宙へ舞い、火炎を纏う刀をゼウシアへ振るう。だがそれを、突如現れた男ーーアポレオンは火炎を纏うサーベルで弾く。


「お前まで来ていたか」


「魔法師か……」


「クレナイ。消耗しきったお前の火炎じゃ、俺には到底敵わない」


 アポレオンはサーベルを振り下ろし、クレナイを地上へ叩き落とす。


「クレナイ。大丈夫か?」


「平気さ。この程度」


 きれいに着地したクレナイはそう呟き、上空へ立つ二人へ憤怒の眼差しを向ける。


「どうすれば……」


 クレナイは険しい表情でアポレオンへ視線を送る。


「お困りのようだね。二人とも」


 突如上空を巨大な氷塊が駆け抜ける。それはゼウシアの方へと向かっていた。アポレオンは火炎を纏うサーベルで受け止めるも、氷は溶けず、砕けず、それに触れたアポレオンを凍り漬けにした。


「アポレオンが、一瞬で」


 ゼウシアへもすぐさま氷の刃が駆け抜ける。それらを上空でかわしつつ、凍り漬けにされたアポレオンを溶かそうと火炎を放つ。だがその火炎は突如生えてきた巨大な樹によって防がれ、その樹はアポレオンを飲み込んだ。


「この圧倒的な魔力……。来たようだな。魔法聖」


 ゼウシアが視線を向ける先には二人の魔法使いが浮いていた。

 一人は純白の羽毛で作られた大きな帽子を被り、一人は自然のオーラを纏い樹の上に座っている。


「アイリス、それにユグドラシル」


 そこに現れたのは魔法聖。

 アイリス=ヘルメス。ユグドラシル=エインヘリアル。


「ユグドラシル、アイリス。ゼウシアを任せた」


「了解」


 アイリスはそう言い、ユグドラシルは静かに頷いた。

 ゼウシアは真っ先にノーレンスへと飛び進むも、アイリスとユグドラシルがそれを阻止する。


「手始めにモンスターを蹂躙しよう」


 ノーレンスとクレナイを囲むように、ユグドラシルは木々を生やす。それによりモンスターは足止めを浮けた。

 その間、ノーレンスはクレナイの右手を、クレナイはノーレンスの左手を握る。


「燃え、灰せよ」


 周囲には激しい火炎が吹き荒れ、直後、火炎が消えると同時、モンスターも跡形もなく消失した。

 その圧倒的なまでの魔力に、ゼウシアもさすがに驚いた。邪魔なモンスターが掃討された結果、ゼウシアを四人の魔法聖が囲み込む。


「魔法聖。全員集合だ」


 一瞬にして形勢逆転、ゼウシアは追い込まれる。


「仕方無い。今日は帰ろう。だが次来た時は、君たちを本気で終わらせるよ」


 そう言い、ゼウシアは雷の如く遥か上空へ消えた。

 魔法聖は追うことはしない。

 ただこの戦いが終わり、そしてアンノウンが討たれたことに安堵する。


「これで、ようやく終わりか。安らかに眠れ、我らが友ーーアンノウン」

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