第228話 未来へ届けた約束
ダンジョン、それが何故生まれ、そして何故存在しているのか。
それは今から何年も前の話。
ノーレンス=アーノルド。
彼はまだ都立ホーヘン学園に通う生徒であった。まだ魔法聖になってはおらず、よく問題を起こしては先生たちからこっぴどく叱られていた普通の学生であった。
「ノーレンス。昨日ね、例の巨大な湖で何かモンスターのようなうめき声が聞こえたんだって」
そう気さくにノーレンスへ話しかけたのは、同級生にクレナイ=アズマ。
彼女は楽しそうにノーレンスへ話を続ける。
「例の湖って、魔力の貯蔵庫とか言われてるあの湖か。だがそんなところにモンスターがいたら、そこの魔力を吸い取って今頃湖なんかじゃ収まらないくらい大きくなってると思うけど」
「でもさ、モンスターの声をユグドラシルもアイリスも聞いたって言ってるんだよ」
「アイリスだけじゃなくユグドラシルも言っているのか。あいつが言っているのなら嘘じゃないみたいだけど」
そんな話をしていると、話に吸い寄せられたのかユグドラシルとアイリスがやってきた。
白い肌に自然そのもののような緑色の髪、常に自然のオーラを纏う体質を有する少年ーーユグドラシル=エインヘリアル。
彼は大人しく、アイリスに引っ張られながらノーレンスとクレナイのもとへやってきた。
アイリス=ヘルメス、彼女はギャルのような性格であり、女子たちからは憧れの的であった。
「アイリス、ユグドラシル。昨日聞いたんでしょ。モンスターの声を」
「ああ。あれは間違いなくモンスターの声だった。それもかなり真夜中だったことを考えると、誰かが見つからないようにあの湖で何かしている可能性が高いってこと」
「今日の夜、湖に行こうよ。その正体を知りたいじゃん」
クレナイは顔を近づけ、ノーレンスの目を見つめてそう言いかけた。
ノーレンスは見つめられ、目線をすぐに逸らしてうぶな反応を見せた。
「わ、分かったよ。行く、行くよ」
ノーレンスは渋々クレナイの説得に応じ、その湖とやらへ行くこととなった。
真夜中、湖の近くにある森へ隠れ、ノーレンス、クレナイ、アイリス、ユグドラシルはモンスターが姿を現すのを息を殺して待っていた。
「ノーレンス。どんなモンスターがあの湖に棲んでいるんだろうね」
「どうせ聞き間違いだろ。あの湖にモンスターがいたとしたら、普通気づくって」
「そうかな」
「二人とも。静かに」
アイリスは人の気配を感じ、二人を黙らせた。
アイリスの予感は的中し、湖へノーレンスたちと同い年くらいの少年が歩み寄っていく姿が確認された。
「ねえ、もしかしてあの子ってさ、」
「うん。俺たちと同じクラスのアンノウンじゃないか」
ノーレンスたちはその少年に見覚えがあった。
どこからどう見ても、その少年はアンノウンであったからだ。
「何してるんだろ?」
しばらく様子を見守っていると、アンノウンは魔方陣を創製し、その中から無数のビー玉のようなものを取り出した。アンノウンはそれを地面へ叩きつけた。すると無数のモンスターがビー玉のような物が割れた場所へ出現する。数にして百は余裕で越えるだろうか。
「さて、モンスター諸君。これより君たちには我、アンノウンとともに世界を支配する計画に付き合ってもらおう。世界は当然俺のものだ。故に、暴れろ。これまでこの湖から吸い取った魔力を存分に使い、世界を滅ぼせ」
無数のモンスターが湖から散ろうとする。だがそれを颯爽と現れたクレナイが斬り、数体消失させた。さらには湖を囲む木々を巨大化させ、逃げ場をなくす。アイリスは湖を凍らし、魔力の供給を絶つ。
ノーレンスはアンノウンへ電撃を纏う両手をかざす。
「アンノウン。これは、どういうことだ」
「ノーレンス、それにクレナイやアイリス、ユグドラシルまで。そうやって君たちは、俺の計画を邪魔するのか」
「当たり前だろ。世界を壊すなんて真似、させるわけにはいかないな」
「でも無駄なんだ。だって俺、時間操れちゃうからさ」
いつの間にかノーレンスの背後に立っていたアンノウン、クレナイたちもアンノウンの動きを捉えることはできなかった。
「ノーレンス、後ろ」
「何!?」
ノーレンスは瞬間移動で上空へ逃げ、アンノウンの振るう拳は空振りに終わる。
「お前も瞬間移動を使えるのか」
「なわけないだろ。瞬間移動、その魔法を生み出したのは君だ。その技術を僕が盗めるわけないだろ」
「それもそうだな。あまり学校へ来ないお前が、知っているはずないもんな」
「ああ。だけどその言い方、ちょっとムカつくね」
再びノーレンスの視界からアンノウンは消えた。ノーレンスの懐でしゃがみこむ、腹へ勢い良く拳を振り上げた。
ノーレンスは息が詰まったように嗚咽を漏らすも、すぐに瞬間移動してアンノウンの背後から電撃を放つ。しかし、電撃の動きは止まった。直後、電撃はノーレンスの腕の中へ戻り、ノーレンスの体へ電撃が走る。
「何が……」
「無駄だ。時間の支配者となった俺に、君たちが勝つ?馬鹿にするな。俺がこれまで積み上げてきた努力に比べれば、お前たちがしてきた努力など無に等しい。それを今から教えてやるよ。ノーレンスっ」
モンスターを斬り倒し、アンノウンへと刀を振り下ろすクレナイ。だがアンノウンはクレナイの時間を止め、宙でとどまって動けない。
アンノウンは拳を振るい、クレナイを吹き飛ばす。地を転がるクレナイは何度も回転しつつ、着地した瞬間にアンノウンへと斬りかかろうとする。
「クレナイ。止まれ」
ノーレンスは先走るクレナイの止めた。
「これは俺とアンノウンの戦いだ。ここから先は、俺一人で十分だ。お前たちはモンスターの相手をしていろ」
体が痺れてはいながらも、何とか立ち上がってアンノウンへ怒りの目線を向ける。
「随分と弱いじゃないか。ノーレンス」
「馬鹿か。俺はまだ、少しも本気は出してねーよ。ここからだろ。アンノウン」
アンノウンの背後へ瞬間移動したノーレンス、だがそれを完全に読まれていたのか、ノーレンスが瞬間移動した瞬間に時は止まり、宙へ浮くノーレンスの腹を殴る。ノーレンスは地を転がりながらも火炎をアンノウンへ放つ。
だが先ほど電撃が逆流したように、火炎も巻き戻しされるかのようにアンノウンのもとへ戻る。咄嗟に水魔法で消し、息を上げて着地する。
「もう限界か?俺はまだまだいけるぞ」
「気づいていなかったのか?お前、もうとっくに終わりだよ」
アンノウンは足元を見た。そこには六芒星の魔方陣が描かれていた。
「アンノウン。これが俺の力だ」
魔法を使うことを禁ずる魔方陣ーー六芒星型魔方陣。
その中に入った者は身動き一つ取れなくなり、入った直後に巨大な爆発に襲われる。
アンノウンを今、爆炎が包み込む。
「これで、さすがに……」
「随分とひどい目に遭わせてくれるじゃないか。ノーレンス」
爆炎の中、腕を押さえ足を引きずりながらも、アンノウンは姿を現した。
「あれで……まだ息が!?」
その上、アンノウンが爆炎によって負った傷は時間が巻き戻ったかのように全て消え、戦う以前の状態へと戻っていた。
「もう諦めろ。ノーレンス」
ノーレンスは下を向き、小さくため息を吐いた。
そして一言、こう叫んだ。
「ユグドラシル、アイリス、クレナイ。準備は良いか」
「何をするつもりだ?」
平然と構えるアンノウン、そんな彼の足元から巨大な樹が生え、天高くまで伸びてアンノウンを空の彼方へと吹き飛ばした。それによって大地はえぐれ、ノーレンス、クレナイ、アイリス、ユグドラシルも宙へ舞って巨大な樹に吹き飛ばされていた。
「今更無駄なことを」
「無駄じゃないさ」
空へ散らばる大地の残骸は五つの大陸を上空へ生み出してそれらの島は全て浮いた。
そこまで大きくはないものの、それほどの魔力をノーレンスは未だ有していた。その浮き島へノーレンスたちは転がる。
だがアンノウンは足の裏の時を止め、空を歩いていた。
「なあアンノウン、まだ終わりなわけないだろ」
氷と火炎と樹の三つが混ざり合い、アンノウンをその中へ閉ざした。
「無駄だ。時間を戻せば」
「させねーよ。封印魔法"
巨大な塔が一つの浮き島の上に現れた。その塔の中にはアンノウンが召喚した無数のモンスターも封印されている。その中に囚われた者は長い年月、目を覚ますことはなくダンジョンの中で眠るだろう。
いつ目を覚ますか、それはそこに眠るアンノウン次第、ということであった。
「クレナイ、ユグドラシル、アイリス。俺たちが先代魔法聖を越え、魔法聖になろう。そして魔法聖になった時、このダンジョンを破壊し、今度こそアンノウンを討とう」
それから幾度の年月が経ち、そして今、ノーレンス、クレナイは二人でダンジョンへ突撃を仕掛けていた。
「約束を果たす時が来たな。クレナイ」
「ああ。そうだな。ユグドラシルとアイリスは、今頃どこで何をしているのか。まあ良い。じゃあ始めるよ、ノーレンス」
「封印、解除」
ダンジョンは崩れ、そこに封印されていた無数のモンスターが解放された。
「これは、厳しい戦いになりそうだ」
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