第227話 学園での激闘
イージスは眠りにつく少年を連れ、アニーとともに学園の近くの浮き島にある病院へと向かっていた。今はまだ敷地内であり、学園の外へ出ようとしたその瞬間、突如一人の男がイージスとアニーの前に現れた。
ホワイトチョコレートのような白い髪色、筋肉質でいかにも強そうながたい、そして時計の針のような模様が刻まれている瞳ーーそれらを有する男が彼らの前に立っていた。
「アニー。少年を頼んだ」
イージスはすぐに男の危険さを理解した。
故に、魔方陣から剣を取り出して構える……もいつの間にか男はイージスの懐まで迫ってきており、強烈な打撃を腹に受けた。
イージスは悶絶し、学園の壁へ体を打ち付けた。それに周囲へいた生徒たちはイージスを襲った男へ視線を向けた。
「何……あの人……」
周囲の視線へ目もくれず、男はアニーの抱える少年を興味深く見つめていた。
「俺の気配を感じると思ったら、ようやく見つけた。我が欠片を」
男は少年を抱えているアニーへ目を向けた。
「なあ少女よ。今君が抱えている少年を返してくれないか」
「絶対に嫌だ」
「そうか。なら痛い目に遭ってもらーー」
「ーーそれはこっちの台詞だ。部外者め」
何もないその空間に突如翡翠色をした線が駆け抜け、その線は枝分かれして正方形の形を成す。そこから翡翠色の霊気を纏う男が現れ、アニーを襲おうとした男へと拳を進める。
翡翠色の霊気を纏う拳を腕で防いだぎはしたものの、その反動で数歩分後ろへと足を引きずりながら下がった。
「少しだけ痛いじゃねねーか」
「本校に突撃とはふざけているのか。ってかお前……まさか……」
「ああ。気づいちゃった。俺があのアンノウン=クロノスタシス。また世界を壊そうと想ってさ、甦ったんだ」
「アンノウン……!?」
その名を知っているのか、アニーは腰を抜かして動揺する。
そこへ霊気を纏う男はアニーをかばうように立ち、アンノウンへ目を光らせる。
「アーカイブ先生。アンノウンって……」
「アニー。お前は下がっていろ。ここは私が相手をする」
アーカイブ=システイム。
名門ヴァルハラ学園の教頭である彼は拳を構え、アンノウンとの戦闘に神経を研ぎ澄ましていた。
だがしかし、それは無意味。
「時よ、止まれ」
時は止まった。
アーカイブは動きを停止し、意識を停止し、全てを停止させた。まるで時が止まっているかの如く。それは周囲の人々も同じ、アニーも時間を止められ、周囲の生徒も動くことはない。
停止した時間のアンノウンは平然と歩いていた。アーカイブの前へ立ち、腕を後ろへ振るい、時間を停止しようとしたその時、時間の概念を越えて雷撃がアンノウンを襲う。
その雷撃を直撃し、周囲の人々の時間は動き出す。アンノウンはふらつく足で頭を押さえながら雷が降ったであろう空を見上げた。
「なぜ止まった時間の中を」
「教えてやろうか。それは私が魔法聖であるからだ」
「お前は……覚えているぞ。俺を殺した張本人ーーノーレンス=アーノルド」
アンノウンが見上げる空、そこには魔法聖が一人、ノーレンス=アーノルドが浮いていた。
彼の登場にはアンノウンはやや焦りを見せ、多少怖じ気づいていた。
「調子に乗るなよ。アンノウン。お前が誰に殺されたか、それを理解しているのなら暴れてくれるな。私のフィールドで」
アンノウンは怖じ気づきはしているものの、まだ少なからず勝機はあると、そう信じていた。
時を止め、アンノウンはアニーの抱える少年のもとへと駆け寄る。だがそれを遮るように、今度は火炎を纏う刀を持った女性が現れ、アンノウンを斬り裂いた。
「だ、誰だ……」
アンノウンは血反吐を吐きながらも懸命にその女性へ目を向けた。
「魔法聖が一人、クレナイ=アズマ。アンノウン、君を殺しに来た」
「また魔法聖が。何なんだよ本当に」
アンノウンは苛立ち、吹き飛んでいる体勢の中何とか地に手をついて飛び上がり、両足で着地した。
だが、敵は魔法聖二人。まだ力の欠片を取り戻していないアンノウンには太刀打ちできない。
「欠片さえ手に入れば……」
「無駄だよ。アンノウン。ここで君は終焉を期す」
ノーレンスはアンノウンの前に降り、片手をかざす。
「降れ。終焉の雷よ」
今日は生憎曇りであった。空を覆い尽くす曇天の中、一時目映いまでの光が輝き、直後、アンノウン目掛けて青い雷が降り注ぐ。
だが、雷はアンノウンへ当たる寸前で軌道を変え、ノーレンスへ進む。
「ここは私が」
クレナイは刀を振り上げ、その雷を天へと消失させた。
雷の軌道が変わったことに驚愕し、巨大な魔力を感じてアンノウンの背後に立っている男を見つけた。
「ゼウシア。なぜお前がここに!?」
「魔法船以来じゃないか。ノーレンス」
アンノウンの背後、そこに立っていたのはゼウシアであった。
「ノーレンス。そこの少年はもらっていくよ」
ゼウシアの手にはアニーが抱えていた少年が。
アンノウンはその少年がゼウシアの手に渡ったことにより、すぐさまその男へと飛びかかる。
「まあ待て」
ゼウシアはアンノウンを視界に入れた瞬間、強制的に転移させられた。
「これで邪魔者がいなくなったことだし、話をしようか。ノーレンス」
「それよりまずそこの少年を返せ」
「嫌だ。でもこの少年を返さなかった場合、アンノウンに取り込まれてアンノウンはまた例の力を使えるようになってしまう。それだけは避けたいはずだ」
「ああ」
「ならダンジョンに来い。そこで待っているぞ。仲間は連れてきても良いが、死ぬかもしれない、ってことを忘れるな」
ゼウシアは宙へ浮き、ノーレンスから離れていく。
「ノーレンス。君はまた救うことができない。魔法船で『鍵』を奪われた時のように」
その言葉にノーレンスは強く拳を握り、感情を圧し殺す。
「じゃあまた会おう。ダンジョンで」
そう言い、ゼウシアは消えていった。
ゼウシアが去った後で、ノーレンスは静かな怒りに身を支配していた。
「ノー。どうする?」
クレナイはノーレンスへそう問う。
「決まっているだろ。アンノウンとの因縁の場所、ダンジョンにて奴を討ち、そしてゼウシアも討つ」
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