第226話 時間の支配者は甦る

 そこはイージスの暮らす寮。

 その部屋にはイージス、アニー、ブック、スカレア、クイーン、イスター、アタナシアが住んでいた。


「イージス。この少年は誰?」


 クイーンはソファーで横たわる少年を見て呟いた。


「ダンジョンで拾ったんだ。それでしばらく預かることになった」


「でもさ、この子、生きてるの?息していないように見えるけど……」


 クイーンはじっと少年の顔を見つめる。

 確かにクイーンの言うように、その少年は寝息を立てることもなく静かに目を瞑っている。

 だが機械というにはあまりにも人間のように創られている。死んでいる、というにはあまりにも身体が綺麗すぎる。死んでいるとすれば身体の一部が腐敗していったりするものだが。


「また厄介ごとに巻き込まれたんじゃないの?」


 アタナシアも興味津々に少年を見つつ、そう言った。


「なあアタナシア。この少年、機械に見えるか?」


「何で私に聞くの?イスターに聞いた方が良いと思うけど。まあ私が言えることは、この少年は機械じゃない。そして人間でもない」


「人間じゃない?」


「うん。一応私は自分の目には自信を持っているのだけど、この少年は人として重要な部分がない」


 アタナシアは少年の胸元へ指を指す。


「それは心臓。この少年には心臓がない。それに血も流れていない。血はあるにはあるけど、流れていない。この少年の時間そのものが、まるで止まっている」


 アタナシアの言葉に、場は静まり返る。それでも少年の身体から音はしない。


「イージス。少なくともこの少年に関わることは、ヤバイぞ」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 その頃、ダンジョン。

 そこへ名士四十一魔法師の一人ーーギルヒメシュ=ウルク。

 彼女はいち早く危機を感じ、ここダンジョンへ来るであろう一人の男を待っていた。案の定、一人の男がダンジョンへ降り立った。


「ようやく来たか。死んだはずのお前が、生き返ったか。亡霊さん」


 ギルヒメシュは灼熱を纏う槍を構え、男の前に立ち塞がる。行く手を阻まれた男はギルヒメシュへ鋭い視線を向けて睨み付ける。だがそれに臆することはなく、ギルヒメシュは怯まない。


「お前、なぜ俺の前に立つ?」


「そんなの決まってるでしょ。これからお前を殺すためだよ」


「少なくとも、お前が俺が何者かっていうのは分かっているのだろう」


「当たり前さ。世界初、時間を操る魔法をこの世界に生み出し、それを使って世界を混乱の渦に巻き込んだ張本人、大罪人、アンノウン=クロノスタシス。知らないはずがないさ」


「そこまで知っていて、俺の前に立つか」


「私はあれだ。護りたいんだよ。再びお前が世界へ解き放たれれば、きっと世界は再び恐怖のどん底に叩き落とされる。それだけは断固阻止させてもらう」


 ギルヒメシュは覚悟を決めたような表情で槍を構え、身震いを起こしつつもアンノウンの前に立つ。


「殺す前に一つだけ聞いておきたい。私を復活させたのが誰か、知っているか?」


「さあ。知らないな」


「ではもう一つだけ質問する。その槍、一体どこで手に入れた?」


 アンノウンはギルヒメシュの持つ槍を睨み付け、力強く問う。


「その槍は、間違いなくフレア=サンが所有していたサンボルク。見間違うはずがない。それをどこで手に入れた」


「私の固有魔法、完璧再現創造パーフェクトクリエイティブ。この魔法はあらゆる魔法具や武器を完全に再現し、創造することができる。それがたとえ歴史上に存在したと言われている魔法具でもだ」


「ではその魔法で創った偽物だと」


「ああ。これで良いか?」


「十分だ。故に、私はまだ君を殺さないでおこう」


「それはありがたい。だけど私はお前をーー」


「ーー無駄さ」


 ギルヒメシュは素早く地を駆け抜け、アンノウンの頭上を取る。槍を大きく振り上げ、勢い良くアンノウンへと振り下ろす。だが槍はアンノウンへ当たらず地へ激突する。

 すぐに槍を振り上げて周囲を見渡すが、アンノウンの姿はない。


「これが……奴の魔法か……」


 アンノウンを逃がし、ギルヒメシュは大きく槍を振って壁へ巨大な亀裂を走らせた。


「アンノウン。私の親友を殺した大罪、忘れてはいないだろうな」


 彼女は一人、そう呟いた。

 アンノウンは既にそこから遠く離れた場所にいた。そこはある魔法探検家が見つけたというモンスターが湧かないダンジョンの隠された部屋。

 そこに入り、アンノウンは泉へ向かう。

 泉へ視線を落とそうとしたアンノウンの後頭部へ、一本の槍が向けられる。


「おいおい困るぜ。人が見つけた場所を横取りしようだなんて」


「誰だ。お前」


「俺はスピア=ゾディアック。魔法探検家だ」


「そうか。だが君に構っている時間はない」


 スピアは警戒を怠らず、アンノウンへと全神経を集中させていた。

 だがしかし、アンノウンは突如視界から姿を消し、いつの間にか背後に立っていた。


「転移魔法か……」


「残念ながらその程度の魔法ではないさ。俺は時間を司る。もう理解しただろ」


「まさか……」


 スピアは持っていた槍は奪われ、その槍を腹へと刺された。スピアは血を流し、地へ倒れた。

 アンノウンはすぐさま泉へと行き、しゃがみこむ。だがその泉を見て固まった。


「おかしい。私の欠片が……失くなっている」


 アンノウンはまだ息のあるスピアの方を振り向き、言った。


「なあ。この場所についてお前は詳しいのだろ。なら聞かせろ。お前はこの泉にあったであろう"何か"を持ち出したりはしなかったか?」


「……な、何を言っているか……分からんな……」


「どうやら、俺の完全復活を阻止しようとしていた者がいるようだな。さっきの女か。いや、戻ってももう遅いか」


 アンノウンは苛立ってはいたもののすぐに心を落ち着かせ、どこかへと歩き出した。


「どこかから私の力の欠片のオーラを感じるな。ここから近いようだな」


 それを聞いた途端、スピアは一つ思い出していた。


(まさかこの男が探している"何か"って……)


「さてと、行くとするか。確か向こうには、学園があったっけ」

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