第225話 謎の少年

 ダンジョンへついたイージスとアニー。

 二人は懐かしいダンジョンの前へつくなり、思い出していた。

 天を貫くようにそびえ立つ巨大な塔ーーダンジョン。それは人工的に造られたものであると言われてはいるものの、誰が建てたかは不明。


「懐かしい。確か初めてここに来た時は戦龍と戦ったんだっけ」


「今の私たちなら戦龍なんて相手にならないけどね」


「念のため剣をと」


 イージスは魔方陣の中から橙色に輝く剣を取り出した。それを構え、アニーとともにダンジョンの中へと潜る。

 懐かしいダンジョンのにおいに足を運ばせ、ダンジョンの奥へ奥へと進んでいく。

 魔法探検家の先生を探しにダンジョンを歩いていると、モンスターがイージスとアニーを取り囲むように出現する。


「来た。アニー、行こうか」


「うん。そうだね」


 イージスとアニーは次々とモンスターを倒していく。

 想像以上に早く終わったこともあり、呆気なさを感じていた。


「やっぱ俺たち、前よりもかなり強くなったよな」


「そうだね。明らかに強くなったよ。昔の私たちじゃあのモンスターにも苦戦していただろうし」


 そう話をしていると、突如ダンジョンを大きな揺れが襲う。激しい揺れに備え、イージスとアニーは壁に手をつき体勢を低くした。


「地震?」


「どうやらそのようだが……ここは浮き島。地震が起きたとしたならば……意図的なものか」


 そんな推理をしていると、天井は割れ、そこから何の服も身に纏っていない一人の少年が落ちてきた。

 それに気づいたイージスは剣を魔方陣へしまい、揺れる大地の上を歩いて落ちてきた少年を腕の中に抱き抱える。

 その少年が天井から落ちたと同時、地震は止んだ。その少年がダンジョンから出たかったから暴れていたのだろうか。


「モンスター……じゃないようだ。五本の指があるし、目も二つ、それに人の肌だ」


「ひとまず服を着せたあげましょう。寒いでしょうし」


「そうだな」


 イージスは魔方陣の中からマントを一枚取り出すと、少年へ被せた。

 そこへ三人の生徒を連れた男が少年を抱えるイージスを見て声をかけた。


「君たち。ヴァルハラ学園の生徒だろう」


「はい。魔法探検家の先生を探してダンジョンへ来たのですが、ダンジョンが揺れ、天井からこの少年が」


「なるほど」


 その男は何か思い詰めた表情を浮かべるや、後ろにいる三人の生徒の方を振り向いた。


「ダーク、フィングスター、バッド。お前たちは教室へ戻って反省文でも書いていろ。俺は彼らに話がある」


 ダークは二人を見た後、「帰るぞ」と言ってその場から立ち去った。

 ダークたちが立ち去ったのを見て、男はイージスの抱える少年をじっと見つめる。


「やはりこの少年……やはりそうか……」


「あの、あなたは誰なのですか?」


「おっと、名乗り忘れていたか。俺はスピア=ゾディアック。ちなみにだが、俺は君が探している魔法探検家さ」


 イージスへそう名乗った男。

 彼はいかにもまだ若い。背中には槍を一本提げており、いかにも魔法探検家、という雰囲気は見受けられない。どちらかと言えばただの好青年、といった感じだ。


「その少年について話が聞きたい。ちょっとついてきてくれるかい?」


 そう言われ、イージスとアニーはダンジョンで拾った少年を連れてある場所へと案内された。

 そこはダンジョン内に隠された空間。


「ここは……」


 イージスとアニーはその空間にやや困惑を見せた。

 そこには一つ泉があり、恐らくスピアというものが置いたのだろうか、無数の家具が並んでいる。


「スピアさん。ここにはモンスターは出ないのですか?」


「ああ。ここは私が見つけたダンジョンに隠されし特殊なフロア。ここにはモンスターが発生しない。そこで違和感を感じて調べた。すると不思議なことが分かってな、ここダンジョンは、時間が不規則的に動いている」


「時間が、不規則。では今も」


「ああ。なぜここでモンスターが倒されてもまたすぐに湧いて出てくるか、それは時間が巻き戻ってモンスターだけが倒される前の時間に戻る。故に、ここダンジョンではモンスターは死なない」


「なぜそんなことがここで起きているのですか」


「さあ。そこから先は分からなかった。だがこの場所には泉がある。そしてこの泉は魔力を持っている。まるで何者かの力がここに封印されているかのように」


 イージスはふと思い出していた。

 かつて戦った五神はノーレンスによって力を世界各地へ飛散させていた。それが一体どんな形で世界中へ散らばったのか、それは謎のままだが。


「なあ二人とも。その少年、しばらく預かっていてくれないか。俺はもう少し単独で調べたいことがある」


「分かりました」


 イージスの寮にはルームメイトが一人増えた。

 だが、その少年はまだ目を覚ますことはない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る