第223話 魔法アイドルの祭り

 ハートフルホワイト。

 彼女たちは今名門ヴァルハラ学園の音楽館にて歌を歌い終えた。

 久しぶりの再会に照れつつも、顔を見合った。


「二人とも。ごめんね。今まで私は自分のことしか考えてなかった。でもやっぱ二人と一緒に歌いたいって思った」


 シノンは客がいることなど忘れ、二人へそう語る。

 それに続き、セシリーも自分の胸の内にとどめていた思いを打ち明ける。


「私もごめんね。私はドラムなんて上手くないし、声もそんなに出る方じゃない。だけどやっぱり私はハートフルホワイトとして歌いたいって思った」


 セシリーとシノンの思いを聞き、ロンも二人へ答えた。


「私もだよ。今まで二人には嫌われていると思っていたし、それに恐れて向き合うことを怖がっていた。けどマネージャーが気付かせてくれた。向き合わないといけないんだって、向き合わないと何も変えられないんだって」


 ロンの言葉に、会場を裏で見ていたイージスは笑みをこぼす。


「今皆で歌えたことに感謝している。ねえ二人とも、戻ってきてくれてありがとう。本当に本当に、ありがとね」


「ああ。皆で歌うの最高だった」


「私も、またこうやって歌えて嬉しかった」


 仲が昔のように、昔以上に固い絆でハートフルホワイトは結ばれた。

 そんな彼女らを見て、会場裏にいるイージスへグリーンは歩み寄った。


「イージス。やはり君に任せて正解だった」


「いえ。実際彼女ら自身が変わっただけです。俺はこの舞台を手配しただけですから」


「にしても、随分と大がかりじゃないか。名門ヴァルハラ学園の所有する施設を一つ貸しきりなんて、相当な人望がなければできないことだ。君は凄いな」


 グリーンは心の底からイージスを称えていた。


「いえ。ですがこれで俺のマネージャーとしての仕事も終了です」


「君にはまだマネージャーは続けてもらいたかったが、どうやら他にやりたいことがあるようだな」


「ええ。俺は一度見てみたいんです。この世の全ての魔法職にどんなものがあるのか。だから魔法アイドル、そしてそのマネージャーは終了です」


「イージス。ありがとう」


「はい」


 グリーンはイージスへそう感謝の気持ちを正面から伝えた。

 イージスはその気持ちを受け止め、最後にハートフルホワイトのメンバーの姿を見つつ、会場を後にした。そんなイージスの前に、アイドル衣装を着た二人の者が現れた。


「イージス。まだショーは終わっていないでしょ」


 イージスの前に立っていたのはアニーとヒーリシア。


「俺はもうあいいつらのマネージャーじゃ……」


「違うでしょ。イージス、最後くらいあいつらの思い出になるようにドンと向き合おうぜ」


 アニーはそう言い、何か企んでいるような笑みを浮かべた。

 数十分後、三曲ほど歌い終えたハートフルホワイトのメンバーは会場を去ろうとしていた。だがそこへ三人組のアイドルは現れた。


「私たちを前にここで歌おうだなんて、百年早いよ小娘たち」


 颯爽と現れたのはヒーリシア。

 彼女の横に立つアニーも言う。


「私たちのリーダーはあなたたちの百倍歌が上手い。ね、リーダー」


 そう言い、アニーが視線を向けた先にはアイドル衣装を身に纏ったイージスの姿が。

 その姿を見たハートフルホワイトは一瞬驚きはしたものの、すぐに状況を理解したのか笑みをこぼした。


「マネージャー。何ですか。その格好」


「こ、これは……」


 恥ずかしがっているイージスの横に立つアニーはハートフルホワイトを指差して言う。


「今から私たちとハートフルホワイトで戦いをするよ。審査員はここに集まる全ての客だ」


「受けて立とう。それにマネージャーに今の私たちの姿を見てもらわなきゃね」


 観客たちは騒ぎ始める。

 観客の中にいたクイーンやイスター、アタナシアたちもイージスがステージへ立っている姿を見て笑いを堪えていた。


「イージスの奴。面白い」


「やっぱあの人は面白いのですね」


 観客たちは大いに盛り上がっていた。

 そんな中で、今二組の戦いは始まろうとしていた。だがそこへ、更なる乱入者が。


「イージス。魔法アイドルの私を差し置いて、何始めちゃおうとしているんだい?」


 そう言い現れたのは、魔法アイドルーープリシラ=アイドリー。

 彼女らの見送りに来た〈六芒星〉のメンバーとアーラシュも会場でその勝負を観戦しようとしていた。


「プリシラ=アイドリー!?何であの有名なアイドルがこんなところに」


 セシリーは大ファンなのか、彼女を見て興奮しているようだった。それはヒーリシアも同じらしく、プリシラを前に鼻血を噴き出して気絶した。


「ヒーリシア、おいヒーリシア」


 そんなこんながあり、そこで魔法アイドルたちによる歌のメドレーが始まった。

 会場は盛り上がり、昼間から始まっていたライブは真夜中まで続いた。皆眠りにつき、ショーは終わった。


 イージスは音楽館の屋上で満月を見ていた。

 そんな彼のもとへ、ロンは歩み寄る。


「イージス。ありがとね」


「別に、俺は感謝されるようなことをした覚えはないぜ」


「でも、イージスがここで私たちにチャンスをくれたから、こんな温かいお客さんは初めてだったから、凄く、凄く嬉しかったんだ」


「そうか」


 ロンは本当に嬉しそうにそう語っていた。


「なあロン。これからはお前がハートフルホワイトを引っ張っていけ。お前たちなら天下を取れるから」


「……うん」


「どうした?浮かない顔をして」


 ロンはうつ向き、何か言いたげな表情を浮かべていた。


「あのさ、イージス」


「何だ?」


「私……私はーー」


 ロンが必死に言おうとしたその時、セシリーとシノンがそこへ割り入るように入ってきた。


「お、こんなところで何してんだ」


「ちょっとロンと話をしていたんだよ」


「そうなんだ。あれだけ歌ったのに良く起きてられるよね。やっぱ日頃から歌ってきたロンは違うね」


「う、うん」


 どこか悲しそうに、ロンはそう答えた。


「じゃあ私たちもう寝るんで、おやすみ」


 セシリーとシノンはそこから立ち去った。

 再び二人きりになったイージスとロン。イージスはロンへと言う。


「さっきは何か言いかけてたけど、何を言おうとしてたんだ」


「特に。ただありがとうって、言いたかっただけなんだ。だから気にしないで」


 そう気さくに笑顔を取り繕うロンは、イージスへ言った。


「じゃあ私も寝るね」


「ああ。おやすみ」


「うん。おやすみ」


 ロンはイージスのもとから足早に去っていく。

 誰もいない部屋へ入るなり、ロンは激しい呼吸を奏でていた。


「この気持ちだけは、胸の中に抱えていよう。その方が、ずっと良い」


 そうして朝が明け、ハートフルホワイトはイージスと別れをして去っていく。


「じゃあまたね。元マネージャー」


 イージスは笑顔で三人を見送った。

 イージスは彼女らといた時間を思い出して思い出し笑いを浮かべる。そんなイージスを見てアニーは眉間にしわを寄せて言う。


「イージス、何かやらしい」


「やらしいって何だよ」


「とにかくやらしい」


「やらしいって何だよ」


「だから、とにかくやらーー」


「ーー二人とも。掃除手伝って。昨日のショーがあって随分汚れたみたいだし」


 ヒーリシアは仲良く話している二人へそう言った。


「じゃあ行くか。アニー」


「うん。それより次どの魔法職にする?」


「実は一つ決めているんだ」


 イージスは言いたげにそう呟いた。

 アニーは下から覗き込むようにてイージスへ訊いた。


「何にするの?」


「それはねーーーー」

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