第219話 ノンコネクト
ハートフルホワイトのマネージャーになったイージスは、まずメンバー全員を揃えるところから始まった。
明るく振る舞うロンは毎日稽古場へと来てくれるものの、臆病者のセシリー、クールで人を信じることをしないシノンは滅多に姿を見せないらしい。
「イージスさん……。やっぱり無理ですよ」
「二人の居場所に心当たりはないか?」
「そうですね。セシリーはこの時間帯はよく天魔道書庫で本を読んでいますよ。あそこにはたくさんの本が揃っていますし」
「じゃあ行きましょう」
「でもセシリーは人見知りなので、イージスさんが行っても逃げられてしまうと思いますよ」
「そうか……」
なかなか進展しない状況に、イージスは苦悩する。
「ではシノンさんは?」
「シノンなら……両親が経営している魔法建築会社の手伝いをしていると思いますよ」
「そうか……」
考え込むイージスを見て、ロンは言った。
「やっぱ諦めましょうよ。本当はこれは私がしなきゃいけなかったことですし、向き合うのが怖かったから故の私の過ちなんですから」
ロンは深く自分を攻めていた。
「ロンさん。でも魔法アイドルにはなりたいのでしょう」
「それは……」
「安心してください。グリーンさんから託されたんです。必ずあなた方を世界一の魔法アイドルにしてみせますから」
とは言いつつも、正直ここまでこじれた関係をどうこうすることは難しい。
イージスには策が残っていなかった。
「ひとまず、二人へ会ってみよう。放しはそこからだ」
まずはセシリーへ会いに行くため、天魔道書庫を訪れた。
その書庫に一人、セシリーは屋外テラスにある椅子に座り、本を読んでいた。
「セシリー、今は魔法アイドルの練習をする時間のはずだよ。本なんか読んでないで一緒に練習しよ」
セシリーは人見知りだ。イージスは本棚の陰に隠れ、ロンがセシリーのもとへ歩み寄って話をする。
「ねえロン、本気で魔法アイドルになれると思ってるの?私たちはチームとしての結束力もないし、その上一人一人のスキルも未熟なんだ」
「でもやってみようよ」
「ごめんね、ロン。私は臆病だからさ、人前に立つのは向いていない。本当に、ごめん……」
そう言い、彼女は去っていく。
セシリーは去っていく際にロンを何度も横目にし、強く拳を握って内に芽生えている気持ちを抑えていた。
(ごめん……ごめん……)
ロンは自分の頬を叩き、笑顔を作った。
そしてイージスのもとへと戻る。
「次はシノンのもとに向かおう。行くぞ」
ロンは無理矢理陽気に振る舞い、イージス誤魔化し、自分自身の気持ちも誤魔化していた。
心の奥底にある気持ちを誤魔化し、いつの間にか彼女は自分を見失っていた。それでも彼女は陽気に振る舞い続けた。
イージスはそれに気づきつつあるも、言えずにいた。
そんなもやもやした感情を抱えつつ、イージスはシノンの両親が経営している魔法建築会社の前へとついた。
「ここだよ。きっと今もシノンは中にいる」
ロンは会社の中へ足を踏み入れた。イージスも同様に。
「今は十二時か」
ロンは階段を歩いて屋上へ向かう。するとそこにはシノンがコーヒーを片手にベンチへ座っている姿が確認できた。
シノンはすぐに二人へ気付き、明らかに嫌悪感を示す。
「何か用?」
威圧する声。
それに屈することなく、ロンは言う。
「ねえシノン、一緒に練習しよ。魔法アイドルの」
「魔法アイドル?無理に決まっているでしょ。私は家族の会社を継ぐことにした。だからハートフルホワイトは、もう解散で良いんじゃない?」
「…………」
ロンは言葉を失った。
冷酷にもシノンは彼女の顔を見ようとはせず、イージスを睨みながら通りすぎて階段を降りていく。
しばらくの沈黙が続き、イージスはロンの背中を見ていた。そこからは悲しみや苦しみ、痛みなどが感じられる。
「なあロン、あのさ」
「イージスさん。今日は用事があったのでした。帰ってもよろしですか」
「あ、ああ」
ロンは足早に会社を去っていく。
イージスは先ほどまでシノンが座っていたベンチへ座り、深々とため息を吐いた。
それから数時間が経過しただろうか、天高くそびえていた太陽も姿を隠し、今では月が空を一人独占している。
イージスはそこでようやく体を動かした。手に取ったのは魔法手帳、一つの映像がアニーから届いているのに気付き、イージスはその動画を再生した。
映っていたのはアニー。
アニーは画面の方を見て、言った。
「イージス。今回の勝負は負けないよ。イージスが魔法アイドルのマネージャーになって育てているっていうのは聞いたけど、私も負けていられない。今行われている魔法アイドル選挙、そこで上位にランクインした方が負けた方に何でも命令できる。だからイージス、負けんじゃねーぞ」
そこで映像は終わった。
「負けんじゃねーぞ、か。なあアニー、今の俺は、どうだ?って言っても、分かんないよな」
イージスは一人苦笑する。
「失ったからこそ知っている。仲間というものの大切さを。グリーンさん、あなたが見込んだ魔法アイドルたちはやはり才能に満ち溢れている。俺は彼女らのマネージャーなんだ。ちゃんと働かないとな」
イージスは魔法手帳を開き、魔法アイドルについて調べ始めた。
「なるほど。俺にでもできることはあるみたいだ」
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