第218話 苦悩する魔法アイドル
イージス、彼は今グリーン=エンペラーの事務所にいた。
「イージス。私が君を雇ったのは魔法アイドルにしたいという理由もあるが、違う。私の事務所にはハートフルホワイトという三人組のアイドルグループがあってな、そこに所属している彼女らは仲が悪く、解散寸前。そこで君に頼みたい」
「仲を直せと?」
「君のことはキスから聞いている。魔法アイドルをすることにはあまり乗り気ではないみたいじゃないか。だが魔法アイドルについては知りたいと。イージス、頼んでも良いか?」
「分かりました。ですがあまり貢献できないかもしれませんが、頑張ります」
イージスの返答にグリーンは嬉しそうに笑みを見せる。
「ではついてきてくれ。彼女らを紹介する」
グリーンへ着いていくと、案内されたのは控え室と書かれた八畳ほどの大きさの部屋、その部屋にいかにも怪訝な雰囲気を漂わせた三人が目を合わせることなく座っていた。
イージスが入ってくるなり、皆不審な視線でイージスを見ていた。
一人は脅えたように彼を見つめ、一人は嫌悪感を抱いているのか睨み、一人は咄嗟に笑顔を作ってイージスを見た。
「三人とも。私は今日より君たちの教育はできなくなる。そこで代わりに彼を紹介しよう」
グリーンは前振りをし、イージスを紹介した。
「彼はイージス=アーサー、魔法アイドルの経験はないが、今の君たちには十分似合った人材だ」
「グリーンさん。素人に魔法アイドルのマネージャーなんて勤まらないんですよ。そいつが私たちに似合った存在?ふざけるなって、思いますよ」
そう言い、イージスを睨みながらその女性は去っていった。
「わ、私もこれから用事があるので……」
脅えたようにイージスを見ていた彼女も同様に、その部屋を後にした。
残ったのは明るい表情を作っている彼女のみ。
「ロン、やはりお前だけになったか……」
グリーンは半ば呆れたようにため息をこぼした。
イージスは想像以上のグループの状況にやや不信感を抱いていた。イージスはグリーンの耳元で囁いた。
「グリーンさん。そもそも彼女らは何でグループを組もうと思ったんですか?どう見てもあの状況はおかしいですよ」
「まあな。実際そういう話は私も詳しくは知らない。だから後は本人たちに聞いてくれ。私は仕事があるのでな」
グリーンも部屋を後にした。
残されたイージスは緊張しつつも、彼女の近くにあった椅子へ座る。
「あ、あの……本当にすいません」
「イージスさんが謝ることじゃないですよ。だってこれは、私たちの問題なんですから」
彼女は明らかに悲しみを抱いていた。
「ロンさん、で良いのでしょうか?」
「はい。私はロン=クラストと申します。ハートフルホワイトのリーダーです」
「ロンさん、聞いて良いことではないと思うのですが、なぜこんなにも何というか……」
「仲が悪いことについて聞きたいのですよね。大丈夫です。ちゃんと分かっていますから」
ロンは何とか作り笑いを浮かべ、自分を偽りながらイージスへ話す。
「私たちは同級生なんです。同じ学校で育ち、同じ夢を抱き、そして皆で夢を叶えた……はずだったんです。でも夢を叶えたっていうのは案外重要じゃないんですね。夢を叶えたのに、私は上手く笑えなくなったんです」
そう言いつつ、ロンは苦笑いを浮かべる。
「何で仲が悪いか、でしたね。話が脱線してしまってごめんなさい。仲が悪くなったのはいつの間にかなんです。いつの間にか仲が悪くなって、いつの間にか距離が遠くなっていった。きっとリーダーの私が二人をもっと引っ張っていればこんなことにはならなかった。二人は才能を活かして今頃スターになっていた。全部全部、私のせいなんですよ。これは……」
彼女は酷く苦しんでいるようだった。
彼女は一人で抱え込み、その悩みに押し潰されていた。
そんな彼女の姿を見て、イージスは言葉に詰まる。だが彼はグリーンより託された。彼女たち三人の育成を。
「ロンさん。魔法アイドルについては俺は全然詳しくありません。でも俺はあなた方の夢を叶えたい。夢がない俺とは違って、あなた方には必死に追いかけている夢があるんです。ならあなた方のマネージャーとして、俺はあなた方をスターにしたい」
「でも……」
「五月から一ヶ月、魔法アイドルの人気度を争う戦いが始まります。ロンさん、まだ時間はあります。一緒に頑張りましょう」
「……はい」
ロンはまた笑った。
だけどそれは、作り笑いであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます