第217話 美しき女性

 元魔法アイドルであったサイレンナという教師の弟子のもとで修行することとなった。

 だがその弟子というのが、元十六司教の一人ーーキス=アンドクライであった。


「イージス=アーサー。君については話は聞いている」


「キス=アンドクライ。お前は十六司教、間違いないよな」


「ああ。私に教わるのは嫌か?」


 キスは堂々とした立ち振舞いでイージスを見つめていた。

 イージスも同様に、警戒をしながらキスを見ていた。彼女は敵か、それとも味方なのか、それはまだ分からない。

 それ故、イージスはキスを見ている。


「なあキス、お前はなぜ十六司教などというものをやっていた?」


「今思えば分からんな」


「そうですか……。分かりました。ではあなたが敵かどうか、それを判断するまで警戒はします。ですが魔法アイドルを目指してはみたい。だから稽古をお願いします」


 イージスは降り、キスへとそう言った。


「ああ。分かった。まあ私も君に信じてもらえるように、極力努力するからさ。まあ気楽に行こう」


「ああ。そうだな」


 それから、彼らの修行は始まった……わけなのだが。


「ひとまずだ、君たちにはこれから魔法アイドルを見てきてもらう。魔法アイドルがどんなものなのか、是非とも見に行ってくれ」


 そう言われ、イージスたちはある場所へと向かわされた。

 そこではとある魔法アイドルが公演をする場所らしいのだが、時間になっても魔法アイドルは現れない。

 イージスは喉が乾き、アニーとヒーリシアからおつかいを頼まれて売店へ向かう。だがその横にあった路地で、帽子を深く被り、サングラスをつけている女性が三人組の男に絡まれているのを見つけた。


「なあ、この後時間あるだろ。だったら俺たちと付き合えよ」


「俺たちと一緒に来たら良いことたくさんできるからさ」


 怖い面をした男たちはそう言うも、彼女は断固動じることはなく、むしろ面倒くさそうにため息をこぼしていた。しかも男たちへ聞こえるようにだ。


「ねえ。用がないなら退いてくれない?この後仕事あるんだけど」


 最初に放った一言がそれであった。

 それには男たちも驚いたのか、少し固まっていた。だが彼女が言った言葉を理解し、男たちは怒りで叫ぶ。


「おい。あんま舐めた口利くんじゃねーぞ」


「うるさい。耳が潰れたらどうするんだ?」


「痛め付けないと分からないか」


 一人の男は怒りを露にし、女性へ拳を振るう。助けに入ろうとイージスは咄嗟に男へと駆けるも、突然男は腹を押さえて膝をついた。

 イージスは足を止め、その光景を目にする。


「何をした……」


「そうだな。説明するのも面倒だから、教えてあげるよ。私の正体」


 彼女はかけていたサングラスを外し、顔を彼らの前に露にした。

 彼女の顔を見た瞬間、男たちは動揺を隠せない。


「まさかお前……」


「私は魔法アイドル、グリーン=エンペラー。まあ主に魔法歌手として活動しているがな」


「そしてだ、先ほど私は君の腹を殴った。ただそれだけの話だ。そこでしばらく腹でも押さえていろ。私は君たち荒くれものとは違い忙しい。二度と私のスケジュールに穴を空けるな」


 そう言い、彼女はサングラスをつけて去っていく。

 イージスはその光景を目にしつつも、見なかったことにしてアニーとヒーリシアに頼まれた飲み物を買って会場へと戻る。

 するとそこでは既に魔法アイドルによるショーが始まっていた。


「イージス、随分遅かったね」


「まあ色々あってな。ところでもう始まったのか」


「そうだよ。ほら、見て。あの人が歌唱力が他の魔法アイドルよりも逸脱している天才アイドル、グリーン=エンペラー」


 ヒーリシアは楽しそうに語る。

 だがイージスは今さっき聞いたその名に興味を示し、会場を見た。そこでは先ほど会ったグリーンという女性が空を飛びながら歌を歌っていた。


「どう?彼女のショーは綺麗でしょ」


「ああ。綺麗だ……」


 グリーンのショーを見たイージスは、心が癒されていくような感覚を味わっていた。

 ショーが終わり、イージスたちは会場を去ろうとしていた。だがその時、歌い終わったグリーンはマイクを持ち、指を鳴らして一人の少年へスポットライトを当てた。

 当てられたのはーーイージスであった。


「君、私専属の魔法アイドルにならないか?」






「……え!?」

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