魔法アイドル編

第216話 魔法アイドルになるために

 来たる五月。

 この月、ある戦いが始まろうとしていた。



 アニーとイージスは魔法職を探すため、未だ多くの魔法職の体験などを行っていた。

 だが目ぼしい職は見つからず、途方に暮れている中で、同級生のヒーリシア=アートは二人へある魔法職についての情報が書かれている紙を見せた。


「「魔法アイドル!?」」


 二人は声を合わせて驚いた。


 その紙にはこう書かれていた。

『魔法アイドル選挙

 世界中に集う全ての魔法アイドルよ。今ここに誰が頂点かを決める魔法アイドル選挙を行う。

 ルートはいたって簡単。ただ自分が好きだと思った魔法アイドルに投票するだけ。

 ※参加者に条件はなし。誰でも参加オーケー』


「そう。だって二人とも容姿は良いし声もそこそこ良いじゃん。だから魔法アイドルだって向いてるかもって思ったんだ。それに私も一回参加してみたかったんだ。こういうの。だからお願い」


 ヒーリシアはニコニコしながら二人へと話しかけている。

 だが二人ともあまり乗り気ではない。


「ねえヒーリシア、他にないの?」


「他にって、魔法アイドルじゃ駄目?」


 あからさまに少し表情が暗くなるヒーリシア。


「違う違う。何かね、ね、イージス」


 何とかヒーリシアの機嫌を取り戻そうとはしたものの、自分では対応しきれない。そこでアニーはすぐにイージスへ投げ掛けた。


「い、良いんじゃないか。魔法アイドルでも……」


 動揺のあまり、イージスは引き受けてしまった。


「ちょ……イージス……」


 とは言いつつも、アニーは仕方ないとため息をこぼし、引き受けることとなった。


「じゃあやろうか。魔法アイドル」



 魔法アイドル。

 それは歌って踊れるアイドル、などではない。

 アイドルというからには、魔法を使わなければ魅力も何もない。魔法を使いどれだけ人々を魅了するか、つまり魔法の使い方も試されるのがこの魔法アイドルという職業。


 魔法アイドルについてを知るため、名門ヴァルハラ学園に先日赴任してきた元魔法アイドル、サイレンナ=ブースターへ指導を受けていた。


「なるほど。魔法アイドル選挙に参加したいわけか」


「「「はい」」」


「良いけど、この先の道は厳しいよ。覚悟は良い?」


「「「はい」」」


「では始めましょうか」


 そして三時間後、イージスたちは肺が千切れそうになるくらい踊らされ、歌わされ、魅力的な魔法の特訓をさせられた。その間、一度も休むことはなかった。


「もう疲れたの。そんなんで魔法アイドルになれると思ってるのかい?強欲ね」


「いや……。さすがにこれは……無理すぎます」


 イージスは何とかそう言葉を発することができた。


「なるほど。君たちは私に教わるには百年早いってことが分かった。だから君たちには、私の弟子のもとへ行き、そこで教わってもらうことにするよ。既に紹介状は届けた。明日中にこの場所へ向かうと良い」


 そう言われ、イージスはサイレンナより小さな地図をもらった。


「そこに印がついているところに私の弟子がいる。是非とも魔法アイドルとは何たるかを教わってきなよ」


 後日、イージス、アニー、ヒーリシアの三名は地図に記されている場所へと向かった。

 その場所は海の中心にあった。


「いや……、まさかここじゃないだろうな」


 案の定、サイレンナの言っていた場所はそこであった。

 海のど真ん中に立つ一軒家、その屋根の上に一人の女性が座っている。


「ようやく来たか。弟子たちが」


 彼女の前へと降りたアニーとヒーリシア。だがイージスだけは降りることなくほうきに乗ったまま上空に滞在していた。

 それもそのはず、そこにいた女性には見覚えがあった。

 十六司教の一人、アリシアに倒されたはずの司教ーーキス=アンドクライ。


「おや。君もいるのかい。イージス、だったか」


「……キス……なぜ」

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