第212話 護る者

 ビャクヤはスーウェンの剣を弾き、そして上空へ蹴り飛ばした。宙を舞うスーウェンへビャクヤは何千回と刀を振るった。スーウェンの体には無数の傷がつき、血が吹き出す。

 スーウェンはビャクヤへと反撃するも、それに反するようにビャクヤはスーウェンへ攻撃を浴びせる。


「お前、明らかにその力」


「言い忘れていたけど、お前たちが力の欠片を集めている最中、私もそれを集めていた。だがお前たちが封印されている最中にもお前たちのものだった力の欠片を既に入手し、その力を貰っている」


「じゃあその力は……」


「残念だったな。なぜお前たちが一年もかけても力の欠片を集められなかったのか。それは力の欠片を俺が奪っていたから。だから百パーセントではないお前が、私に勝つことはできない」


「ふざけるなさね」


 怒りを交えてスーウェンは剣を振るうも、ビャクヤはそれを柔軟にかわし、弾いていた。


「スーウェン、いい加減諦めろ。私には君じゃ勝てない」


 ビャクヤはスーウェンの剣を弾き飛ばし、そしてスーウェンの首へ刀を向ける。


「その程度か。スーウェン」


「力を、返すさね」


「すまないな。だが私はそういう奴だ。スーウェン、君は今ここで私に倒される。その結末は変えられない」


 ビャクヤの強さに、スーウェンは手も足も出ない。

 だが何か思い出したのか、スーウェンは刀を首へ向けられつつも微笑んだ。


「そんなことをして良いさね?」


「今さら何を言うか」


「なぜ我々が復活したのか。その理由をお前は知らないさね。それもそうさね。あの時死んだのは私たちだけさね。お前は殺されていないさね。だがそんな私たちはある者の力によって甦ったさね。"鍵"と呼ばれている彼女ーーアニーの力によって」


「人質、ということで良いのだな?」


「ああ。もし私を殺すのなら、彼女も殺すさね」


「ではその前にお前をーー」


 ビャクヤは刀を振るう。

 だがその刀は青い光の壁によって防がれた。


「ーーさせない」


 その壁を発生させたのは十六司教、パールだ。

 ビャクヤは彼女の周囲へ無数の火炎の玉を発生させ、取り囲む。そこで彼女へ火炎を放つ。

 しかし、それら火炎の玉を一人の男が全て喰らった。


「うまいね、魔法は」


 イビル=イーター、彼は火炎を喰らう。


「ちっ。面倒だ」


「ビャクヤ、人質は殺させてもらうさね」


 スーウェンは地を破壊しつつ地下へと進む。ビャクヤも地下へと進もうとするものの、十六司教の二人が邪魔をする。

 だがそんな二人へ、一人の男は銃弾を放つ。パールは即座に壁で防いだ。


「何をする。カノン=ギルティ」


「すまないね。ボクは地下に眠る彼女には死んでほしくないんだよ。だって彼女のような"鍵"という存在の解明をしていないからね」


 カノンは二人の前に立ち塞がる。

 その隙にビャクヤは地を刀で刻みつつ地下へ急ぐ。

 その頃、既にスーウェンはアニーの眠る巨大なカプセル装置の前へとたどり着いていた。スーウェンはアニーの心臓へ手をかざし、狙撃銃を創造した。


「では、死んでくれ」


 鳴り響く銃声。

 貫かれたのはアニーの心臓、ではなくアニーをかばった男の腕。


「お前は、キュリオン。やはり裏切ったさね。だが先ほど殺したはずさね」


「死なねーさ。俺はそう簡単に」


 そう言うキュリオンであったが、撃たれた腕を押さえつつ、既に全身ボロボロな状態でも尚立っていた。


「邪魔さね」


 スーウェンはキュリオンへ飛び、蹴り飛ばした。キュリオンは吹き飛んで壁へ激突する。

 スーウェンは再度狙撃銃をアニーの心臓へ向ける。


「今度こそ、」


「無駄だ」


 壁を破壊してビャクヤは現れた。

 彼女は刀を振るい、スーウェンの狙撃銃を斬り、さらにはスーウェンの片腕を斬り飛ばす。


「まだぁぁぁああ」


 スーウェンは絶叫しながらアニーの眠る巨大カプセルへ駆け抜ける。だがビャクヤはスーウェンの体へと乗っかり、動きを封じた。


「終わりだ。スーウェン」


「くそ……」


 スーウェンの策略は終わった。

 かに見えた。だがそれは違う。

 激しい地響き、それとともに天井は砕け、アニーの眠る巨大カプセルが割れるとともにそこから一人の女性は姿を現した。


「生きていたさね…………イーロン」


 スーウェンは驚いたように彼女を見ていた。


「イーロン=センター。確か魔法鎖国島で死んだはずだが」


「残念だったな。生憎だが、私は生きている。そしてビャクヤ、君を殺すために」


 ビャクヤは咄嗟に刀でイーロンの首を跳ねようとするものの、刀の刃は一瞬で折られた。

 イーロンは素早い動きでビャクヤを翻弄し、ビャクヤを吹き飛ばした。


「強い……なぜだ」


「そんなの決まっている。私が神だからだ」


 ビャクヤは壁に背をつけつつ、イーロンを見て吐息を漏らす。


「なるほど。お前、人を喰ったか」


「正確には鬼を喰らっただけだ。ピーチとかいう奴も食べようとは思ったが、モンスターを操る少女に連れ去られてな、生憎鬼を絶滅させただけで終わったが」


「お前……そこまで堕ちたか」


「君ほどではないさ。過去の戦いの最中に我々を裏切り、死ぬ原因を作った君に言われたくないな」


「それはお前らのしようとしていることが悪だったからだ。だから私は裏切り、先代魔法聖と手を組んだ」


「許せないんだよ。私たちを裏切ったお前を」


 イーロンは憤怒とともに刀を振るう。

 その刀はビャクヤの頬へ傷をつけた。


「今度こそは首を跳ねる。避けんじゃねーぞ」


 イーロンの刀は振るわれる。


「〈絶対英雄王剣アーサー〉」


 頭上より振るわれし剣の一撃、それが天井を砕いて一人の少年がそこへ現れた。

 彼は息を切らしながらも、そこへ剣を構えて立っている。


「イーロン、生きていたか」


「お前は、イージスか。あの時の借り、返さないとな」


 だがイージスはボロボロ、そんな中で背にアニーが転がっているのを見つけた。


「アニー……ようやく会えた。ようやく、ようやくだ」


「護れるか。今のお前に、その少女を」


「僕は……いや、俺はイージス。護る者だ。だから必ず護る。俺の仲間を」


 イージスは前方へ手を向ける。


「〈絶対守護神盾イージス〉」


「全てを破壊せよ。重力玉」


 巨大な黒い玉がイージスの出現させた巨大な盾へと衝突する。それとともに周囲には激しい衝撃が駆け抜ける。


(耐えられるか、俺に……)


 イージスは問う。

 自身へ。

 既に力は尽きようとしている。それでも彼は盾を構える。


「負けられない。だって俺は彼女を護ると決めたのだ。だから絶対に、護ってみせる」


 イージスは力を込める。

 だがそれに対抗するようにスーウェンも力を放出する。


「お前の敗けだ、イージス」


「俺は負けない。護るんだ。だからここからさきは、一歩も退かない」


 護れ、護れ、護れ、

 今度こそは護るんだ。

 もう二度と失わないために、もう二度と後悔しないために

 護る。この盾で。


「もう安心しろ。私たちが来たからには」


 突如重力は消失し、イーロンは声を失った。

 彼女は鎖で捕らわれていた。聖なる光を纏いし神々しい鎖に。

 それとともに姿を現したのは、名士四十一魔法師の一人、ヒミコ=アマノカミ、そしてもう一人、アーラシュ=ビェ。彼の背後には〈六芒星〉の姿もある。


「今度こそ決着をつけよう。五神と魔法使いの、最後の戦いを」

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