第200話 ゼウに迫る記憶

「童話島が……落ちている?」


「なら分かりやすく教えてあげるよ。童話島にある多くの伝説が、もうキョンシーズの言いなりだよ」


 ロイは言った。

 その言葉を具現化するように、突如この村に何人かが襲撃にやってきた。


「ほら。来たよ。童話島の操り人形マリオネットたちが。

 童話『裸の魔王』より裸の魔王

 童話『闇ずきん』より闇ずきん

 童話『花枯れ王女』より花枯れ王女

 童話『狐のポンタ』よりポンタ

 童話『嘘つきじいさん』より嘘つきじいさん

 よって五名は、我々十六司教の穴を埋めるために仲間になってくれるのですよ。さあどうする?元名士四十一魔法師の一人、アリシア=コウマ」


 アリシアは冷や汗を流し、剣を握る力を無意識に弱めた。

 関わりは一度もない、しかし、殺して良いはずがない。


「アリシア、君には何も護れない」


「ふざけるな。呪いで他者を操り、それで彼らにこの村を襲わせる気か」


「ああそうだよ。もう後戻りできないように、彼らには最低でも十人、ここに暮らしている人間を殺してもらうことにした。たとえ操られていたとはいえ、罪は罪。正直、それには反対だったんだけどね、キョンシーズには逆らえないから。俺も」


「くそ、」


 アリシアはキョンシーズを今すぐ斬りたい気持ちであったが、その行く手を阻むようにロイは拳を構えて立ち塞がる。

 アリシアはキョンシーズの討伐を彼らへまかせる他なかった。


「プリシラ、かなりまずいかも。こいつら、強いです」


 ヒノカミとスイリュウは跳躍し、後方へと下がった。

 彼らの前にはキョンシーズに操られている童話の主人公たちがいた。彼らはキョンシーズのもとへと向かわせまいとプリシラたちと戦闘をしていた。


 ピーチ=ストロベリーと雲斬丸。

 二人は一度童話にて共演をしている。つまりライバルであった。


「雲斬丸、目を覚ませ。お前は雲斬丸だろ」


 しかしピーチの声は届かず、雲斬丸は剣を振るい、何度も何度もピーチを殺すように攻撃をしていた。

 さらには周囲のモンスターたちが邪魔をし、ますますキョンシーズには手も足も出すことができなくなっていた。

 キョンシーズは勝利を確信し、燃え上がる村の中心で両腕を広げて笑みをこぼした。


「これで童話島もいよいよ落ちたというものだ」


 余裕な振る舞いで周囲を見ていた。

 しかし、突如としてキョンシーズのすぐそばで金属音が響く。盾になっていたのは頑丈なモンスターではあったが、剣での一撃に沈んでいた。


「誰だ!?」


 アリシアはロイに足止めを受け、ピーチやプリシラたちも動けない状況にあった。そんな中でキョンシーズのすぐ側に迫っていた少年ーーイージス=アーサー。


「たかが英雄が」


 キョンシーズはイージスを睨む。

 だがその戦場には更なる脅威が待ち受けていた。キョンシーズの支配下に置かれていたモンスターたちは突如動きを止め、とある笛の音に聞き入っていた。


「モンスターを使役する少女の伝説……その主人公、リーフ。ふざけるな。何故お前がここにいる。お前はヴァーミリオンが止めておくと言っていたはずなのに」


 キョンシーズはふとロイへ視線を向けた。

 ロイが浮かべる笑みを見て確信した。


「利用されていたのか。ロイ、今すぐお前にかけた呪いをーー」


「ーーお返しするよ」


 キョンシーズは首を押さえ苦しみだした。かと思えばそのまま膝をつき、地に伏した。


「死んだ……のか」


「ああ。彼は今死んだよ。そのせいで新たな十六司教の穴を埋めるどころか、穴がまた増えちゃったけど」


 そう言い、ロイは崩れ落ちるキョンシーズ、それに雲斬丸たちを見ていた。

 少し惜しむ表情を浮かべながらも、ロイは団子ほどの大きさの水晶玉を手にし、それを地面に勢い良く放り投げた。直後、ロイは消えた。


「逃げたか……」


 雲斬村での戦いには決着がついた。

 しかし、ロイはリーフとイージスのいなくなったリーフ村へと瞬間移動していた。


「ロイ。ゼウを奪還しに行こうか」


「了解です。ヴァーミリオンさん」

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